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19.アルト視点

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 早いもので、冬休み前の終了パーティーになった。

 あれからもあの女な行動はとどまるところを知らずにいた。
 何組かのカップルの婚約が破綻している。
 彼女は媚びを売る。
 「わたし知らなかったんですぅ」を常套句にして上目遣いをしてくるのだ。
 他の男子生徒をそれで落としながら、殿下や僕にまで縋ってこようとするのだから悍ましい。

 その間、ミリアは数えるほどしか学園で見かけることをしなくなった。
 あれほどまであの女のそばにいたのが嘘のようだ。
 なのに、ミリアの悪女的な噂は広まっていた。
 ミリアがあの女をけしかけている、操っている説や、彼女と一緒になってお布施の一部を悪用しているという説まである。

 そして、それはバードの調査により事実と確認された。
 屋敷の資金が不当に出金されていると執事から密告がはいったのだ。
 ミリアが引き出しているのだとー。しかも用途が一向にわからない。

 バードはミリアの行いにショックを受けて殿下に泣いて謝ってきた。
 見るに耐えない姿を前にして怒りが湧く。


 この頃にはミリアが信じられなくなりつつあった。
 真実を聞こうにも聞けない。

 彼女は僕をもうー。



 それも今日までにするのだ。
 パーティーには国王陛下や重鎮もいる。この機会を逃してはならない。すべてを明らかにするのだ。

「アルト覚悟はいいか」
「はい・・・」

 口の中が乾く。気を引きめるために大きく深呼吸をしてから前を向いた。

 

 殿下を筆頭にメリアーナ嬢、アリナ嬢と共にパーティー会場に足を踏み入れ、ミリアとあの女名前にたちはだかった。

 僕らの重々しい雰囲気に誰もが音を失くす。

「王太子殿下~」

 花でも咲いたかのような場違いな声をだす聖女。
 これが終わりだと気付いていないのだろう。
 
 僕は彼女の横にいるミリアを見た。
 初めて僕はミリアにドレスを贈らなかった。
 見たことのないドレスを身に纏うミリアの姿。胸がしめつけられる。
 久しぶりに真正面から見たミリアの表情は以前と変わらない柔らかなものだった。
 パーティー仕様のせいか、いつもより化粧が濃い気がする。
 いや、彼女を変化を考えれば、化粧の仕方自体を変えたのかもしれない・・・。

「わたしにごようですか?」

 あの女ー聖女は顔を輝かせている。
 ウキウキとした声に反して殿下は冷たい声をだした。

「サシャ・エレスト伯爵令嬢。君の聖女としての称号を剥奪させてもらう」
「えっ?」

 殿下の声に周囲がざわめき始める。
 聖女も目を丸くしていた。そんな彼女を無視して殿下は続ける。

「証拠は揃っている。君が聖女でありながら欲に溺れて、不当なお布施を巻き上げていることは証明されている。平等を謳う聖女が身分によって差別を図っていることお布施の中身によって治療に差をつけていることもわかっている」
「なによ・・・」

 聖女は首をコテンと傾げた。

「それの何がダメなのよ?」

 不思議そうに聞き返してくる。その顔はいたって真面目だ。
 自分が悪いことをした自覚がないのかー。

「わたしは聖女よ?わたしが治療するのだから、どんな治療をしようとわたしの勝手じゃない?ちゃんと聖女としてのお役目はしてるし。きちんと頑張ってるわ。だからちょっと贅沢やひいきぐらいいいじゃんじゃないの?それの何がいけないことなの?」

 その発言に誰もが驚いたような顔をしている。

「待って!聖女としての行動を理解してないの?」

 メリアーナ嬢がまさか!?といった感じで隣でつぶやく。

「君は・・・」
 
 殿下さえも驚き、手で顔を覆う。

「聖女失格だ・・・」
「えっ?どういうこと?」
「このぶんじゃ、君は自分の聖女としての力も失われかけていることを自覚していないのか?」
「なになに?わかんない」

 彼女は思っていた反応と違っていたのか、不安になっているようでキョロキョロと周りを見渡しだした。
 それを見るしかない。

「聖女の力・・・は神が認めたことで、癒しの力が発現されるとされている。信仰心次第で強くも弱くもなるものなんだ・・・」
「えっ?どういう・・・・・・」
「知らなかったのか?理解しようとしなかったのか・・・。まぁ、今更どっちでもいい。今の君にはほぼ癒しの力はないだろう。ないからには聖女としては認められないのだから・・・」

 聖女は自分の手を呆然と見ていた。

「力弱くなってるの?嘘!?昨日もちゃんと治したわ。お礼だって言ってくれたもの!!」
「治療院にくる人が減っていただろう・・・」
「それは・・・わたしが直したから、病気になる人が減って・・・」
「君にかかっても治らないのがわかったから人が来なくなっただけだ」

 本当に気づいていなかったのか。
 どれだけご都合主義なんだ。

 まだ理解しきっていない彼女に殿下が淡々と語る。

「君は辺境の地にある教会に行ってもらう」
「へっ?なんで?」
「一度は聖女として名を残したからには王都には置いては置けない。だからといって聖女だったからには国外追放もできない。そうなれば君の生きていける場所は情報が制限されている辺境の地しかない」
「・・・やぁだ。せめて・・・両親のところが・・・」
「聖女として送り出したはずが聖女の資格を失った君が帰ってどうなると思うんだ?苦しい思いを両親にもさせるのか?」

 欲に溺れて聖女でなくなったというだけで、非難されるとは思わないのだろうか?

「でもでも、だって・・・。ミリア様、助けて!!」

 聖女はミリアを振り返り見た。
 その顔はにこやかだった。
 
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