上 下
21 / 36

21.アルト視点

しおりを挟む
 全てが終わった。
 あの女のことも。そしてミリアの関係さえ何もかも。

 冬休みに入っても王宮では後始末に追われている。
 あの女は事実の裏付けもあり、教会で軟禁状態になっていた。
 彼女の養父であるエレスト伯爵は横領が発覚し地下牢に入っている。貴族を優先に治療させるために金銭を騙し取っていたのが明らかになったのだ。「聖女」の力が失われていたのを黙認していたのではないかと捜査も行われている。
 また、聖女つきのシスターがエレスト伯爵の愛人だったこともわかり、伯爵の入れ知恵だったのでは・・・と調べられていた。

 ミリアはというと、国外追放となった。
 しかし彼女はバードさえ知らないうちにいなくなっていた。
 バードが父親ーアスローディ伯爵に問いただしたが、今だに黙ったままらしい。

 やっと日常が戻ってきて、落ち着いた頃に舞い込んできたアリナ嬢との婚約話。
 今回は彼女の優しさに救われた。
 多少なりともアリナ嬢に惹かれている自覚はあったが、それでもまだ自分はミリアのことが処理しきれていない。

 早く忘れなくては・・・。
 あんなことがあったのだ。
 ミリアを嫌いになったはずなのに、いまだに認めたくないと思っている自分がいる。
 夢だったことにしたいー。

 気持ちを上書きするために婚約を進めるべきか・・・いや、アリナ嬢に失礼だ。ミリアに対する気持ちを引きずったままの状態で婚約の話を受けていいものか気が引けた。
 ずっとミリアを想っていたからこそ、自分に向けられた好意をどう受け止めればよいのかわからない。

 一度、殿下に相談してみよう・・・。

 そんなことを思いながら、王宮の殿下の執務室のドアを開けると、そこには殿下とバードがいた。
 バードは僕を見るなり手に持っていたもの慌てて背後に隠す。

「バード?どうかしたのか?」
「いや、何でもない。殿下、わたしはこれで失礼します」

 不思議に思い聞いてみると、彼はあきらかな作り笑いをして急いで部屋を出ていく。

「殿下?彼はなんだったんですか?」
「な、なんでも、ない」

 殿下も歯切れの悪いものいい。
 どこか顔色がすぐれない。

「・・・アルト、すまない・・・。急ぎで父・・・陛下に問わなければならないことが、できた」

 殿下はふらりとまるで幽霊のように立ち上がると部屋を出て行った。

 なんだったのだろうか・・・。
 
 一人残されため息が出た。散乱している机の上を片付けようとした時、先ほどまでバードがいたあたりにゴミが落ちているのに気づく。
 急いでいたからゴミを落としたのさえ気づかなかったのだろう・・・、そんなことを思いながら拾おうとして、指を止めた。

 それはカラカラに乾いた四葉のクローバーだ。
 なんでこんなところに・・・。バードの服にでもついていたのかもしれない。

 拾い上げ、ゴミ箱に捨てようとしたが捨てれなかった。

「ミリア・・・」

 脳裏にミリアの顔が浮かんでくる。
 クローバーの葉と花で花冠を作っていた笑顔を思い出したのだ。

 本当に情けないほど未練がましい。
 
 でもクローバはそれほどまでに思い出の物でもあった。

 ミリアが会場から出て行く時にした最後のカーテシーを見たからかもしれない。出会ったころー小さい頃していた間違ったやり方のカーテシー。完璧なマナーをしていた彼女があんな失敗をしたから思い出したのかもしれない。


 二人で培ってきた年月はすぐには思い出になってくれないんだと改めて思う。

 僕は情けない・・・。

 はははっ・・・。

 君を想うと涙が溢れてくる。

 忘れなければ・・・。
 忘れてしまいたい・・・。
 忘れてしまおう・・・。

 これを最後に・・・。

 誰もいない生徒会室で僕は泣いた。

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(11/21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...