シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)

文字の大きさ
上 下
8 / 29

8.サシャ

しおりを挟む
 やはりマナーの勉強は進まなかった。
 でも、みんなわたしのわがままを聞いてくれた。

「疲れたぁ~。こんなに疲れたら治癒ができないかも~」

 そう言えば「仕方ありませんね」とマナーの先生は言ってくれる。司祭様は渋い顔をしていたが、わたしが治癒を頑張れば何も言わなかった。

 今日も勉強から逃げることができたわたしは治癒をするため療養員に向かっていると、いつもサポートしてくれているシスターが近付いてくる。

「サシャ様。ご相談なんですが・・・」

 彼女は人がいない廊下の隅に導いた。

「何?」
「病気の方を一気に直すのをおやめになりませんか?」
「どうして?」
「数回に分けて直せば、サシャ様の癒しのお力のしようも減りより多くの人を救うことになるのではないでしょうか」

 そう言われると、病気を治すのは擦り傷などを治すよりも力を消費する。元となる原因から排除しなくてはならないからその分集中力もいった。

「いいけど、司祭様にはいったの?」
「これからご相談にいきます」
「大丈夫かな?いやな顔するわよ?」

 柔和な顔に深い皺が刻まれ姿が容易に想像できた。

「大丈夫ですよ。それにサシャ様。お布施が増えればもっと贅沢できますよ」
「贅沢・・・?本当?」

 シスターの声に嬉しくなる。

 ー今よりも贅沢できるの?

「司祭様には表立っていえませんが、そうなればご実家の仕送りの金額を変えないないままで、ご自分が使用されているお金が増えます」

 そう、わたしが治癒することで発生したお布施の一部はお給料としてもらっている。それの半分以上を実家に仕送りしてもらっていた。司祭様なら実家の場所を知っているから渡している。
 服や食事など贅沢な施しはしてくれるが自分の欲しいものーぬいぐるみや日用的に使いたいおしゃれなものーは残った少ないお金ではなかなか買えないでいた。
 
 お布施が増えれば、わたしにくれるお金も増えて好きなものが買える。
 ーそれなら・・・。

「サシャ様は余計なことを言わず、わたくしの話に合わせてくだされば構いません」

 二人で司祭様に相談に行く。
 初めは難色を示していたが、シスターの説得で司祭様は納得してくれた。

 それから、わたしは病人相手には数度に分ける治癒をするようにした。
 どう言って治療に来た人たちに言おうかと悩んでいるとシスターがわたしの代わりに説明してくれる。

「数度に分けた方が治りが良いというのがわかりました」

 文句があったらどうしようかと思っていたが、にこやかなシスターの言葉に誰もが納得してくれたので、ほっとした。
 
 そして全治させないことで、わたしは力を使うのが楽になる。その代わり治療にくる人が増えた。

 人が増えた分まさか、こんなに大変になるなんて・・・聞いていない。

 でもお金のため・・・・・・。

 そう思ってもだんだんいやになってくる。

 わたしは次第に手抜きすることを覚えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...