シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)

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6.サシャ

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 一年後にはわたしの噂は街の方まで広がっていた。
 街からも名前もないような田舎にわたしの癒しの力を求めてやってくるようになる。
 そのため毎日が忙しい。
 でも頑張れば頑張った分楽になり、両親や妹、弟たちが飢えることはなくなった。あくせく働かなくてすむと同時にゆとりが生まれその分笑いがふえる。

 その日は癒す人たちがたまたま少なく、時間に余裕ができたので久方ぶりに両親の手伝いージャガイモの種付け作業をしていた。

 そんな時、白い服を着た十数名の人たちがわたしに近付いてきた。

「君ですか?癒しの力を持つという女の子は?」

 真っ白な衣装を身にまとった柔和な顔のおじさんが畑の中でひざまづいた。

 こんな薄汚い場所に似つかわない。

「あぁぁっ!!汚いですっ!!」

 慌てて手を差し伸べるとおじさんはわたしの手をとり彼の額に押し当てた。

「よくこの地においでくださいました。聖女様」
「せいじょ?」

 母ちゃんの寝物語に出てくる聖女のことだろうか?
 自分を犠牲にして人々を救う聖なる女性。美しく聡明な人物の例えにも使われる、あの?

 まさかー。

「癒しの力を持つのは聖女の証。この世代、この国に現れるとは、感無量でございます」

 あまりの恭しさにどんびいてしまう。
 
「あのあののっ!えっと・・・」 

 田舎育ちのわたしに選べるだけの言葉は見つからない。

「つきましては王都にお迎えするためにやってきました」
「王都っ??」

 寝耳に水とはこのことだろうか?

 それから詳しい話をするために家で話し合いをした。

 おじさんは王都の教会の司祭様だと判明する。
 
 あれよあれよとわたしの王都行きは決まった。
 父ちゃんも皆快く快諾する。

 わたしの意思を無視するように話は決まった。あっさりとした話し合いに家族と離れるのが寂しいのはわたしだけなのだろうか?と思ってしまう。

 だが、夜になって一人で月を見ながら考えに耽っていると、悲しさより楽しみが次第に優っていった。

 王都に行けるー。

 どんなところなのだろう。
 食堂で皿洗いをしている時、王都からきたという旅人の話が聞こえてきたことがあった。人がたくさんいて華やかでいろんなものが売られている。家も掘立小屋じゃなくて、レンガでできているらしい。出店があったり、見たことのない食べ物があるとも言っていた。

 一生この村で生きて年老いてゆくものだと思っていたので王都にいけると思うだけでワクワクしてきた。

 王都に行くと決まった数日後には司祭様が用意してくれていた綺麗な服を見に纏い、豪華な馬車に乗って旅立つことになる。
 村から「聖女」が出たと祭のように賑やかだった。
 村のみんなが祝ってくれる。

「いってくるね」
「おねえちゃん!」

 いざ別れをいうと妹がボロボロ泣いていた。弟たちも今にも抱きついてこようとしているのを父ちゃんたちが必死に取り押さえている。


 泣きそうなのを我慢する。

「行きますよ」

 おじさんー司祭様の声で馬車は動き出した。
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