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海の上に顔を出し、二人の体制を整えようとした時ソレイユ様の意識が戻り現在の状況から暴れ出した。
「いやっ!!誰か助けっ・・・」
「落ちていて。大丈夫。私がいるわ」
彼女の腰元を抱き寄せ安心させる。暴れる方がお互いに危険が増す。
「暴れる方が溺れる。力を抜いて、私の首に腕を回して」
私はしっかり彼女の目を見て話しかけた。
「あっ・・・」
正気を取り戻したのか、ソレイユは泣きそうな顔で急いで私の首に腕を回してくる。震える腕を感じながらルナに振り向いた。
「ルナ。彼はあなたに任すわ」
「なぜ?私は・・・」
言い淀むルナをひと睨みすると、彼女はゆっくりロイドを受け取りに来た。仰向けに浮かぶ彼の襟首を嫌そうに掴む。
「行くわよ」
水を吸っているソレイユのドレスは重く泳ぐには邪魔になり、余計な体力を使いながら陸に向かう。
浜に近づくに遠くから歌声が大きくなってきた。
アルフたちは陸地に戻ったのだろう。
声がする方を目指して足を動かした。
船から落ちた時よりは、幾分風は止んではいるが、雨はまだ打ちつけている。まだ女王ではないセイネシアたちの歌では力がたりないのかもしれない。
陸に上がると、待ち構えていたアルフがロイドをルナから引き取り、ソレイユも陸地に足がつくと強く砂を蹴り彼に走り寄った。
アルフが脱いだ上着をロイドの枕がわりにし、寝かせている。上着を脱いだアルフの胸元には見知ったネックレスを発見し、私は息が詰まった。
ーやっぱり・・・
いいしれない想いが溢れそうになる。
それを振り払い波打ち際にいるセイネシアの元へ行った。
天候が変わらないことに不安を抱いているのか、戸惑ったようにセイネシアとリュートは私を見てきた。
「大丈夫。覚えて・・・」
久しぶりの歌を口ずさんだ。
『深い海の底に
一筋の光が射し
淡い想い輝きて
この世界に色をつける
明日という日に
君の笑顔を
思い出し
いざ今見ぬ美しき世界にとびたたん』
この歌に歌詞があるとは思わなかっただろう。
セイネシアが驚きの表情を浮かべながら歌う。
リュートの低い声と重なり一つの歌が完成する。
『あぁ、低い声ならもっと歌に深みがでるのに』
彼女の声が聞こえた気がした。
ちょっとした気まぐれに作った歌をたまたま彼女に聞かれ遊びと面白半分、本気半分で二人で作った歌がやっと完成したのを感じた。
セイネシアとリュートが二度歌い終わると嵐は止んだ。
「フィー・・・。あなたは誰?」
セイネシアが私を見てきた。その目は今までにはなかった疑問を浮かべた眼差し。
もう、自分が何者だったのかを思い出した今、泡沫人の姿をしていても「人間」ということはできない。
答えようと口を開いたところで、アルフが私を呼んだ。
「レイ。おかえり」
昔と変わらない声。
「ただいま。リード・・・」
「いやっ!!誰か助けっ・・・」
「落ちていて。大丈夫。私がいるわ」
彼女の腰元を抱き寄せ安心させる。暴れる方がお互いに危険が増す。
「暴れる方が溺れる。力を抜いて、私の首に腕を回して」
私はしっかり彼女の目を見て話しかけた。
「あっ・・・」
正気を取り戻したのか、ソレイユは泣きそうな顔で急いで私の首に腕を回してくる。震える腕を感じながらルナに振り向いた。
「ルナ。彼はあなたに任すわ」
「なぜ?私は・・・」
言い淀むルナをひと睨みすると、彼女はゆっくりロイドを受け取りに来た。仰向けに浮かぶ彼の襟首を嫌そうに掴む。
「行くわよ」
水を吸っているソレイユのドレスは重く泳ぐには邪魔になり、余計な体力を使いながら陸に向かう。
浜に近づくに遠くから歌声が大きくなってきた。
アルフたちは陸地に戻ったのだろう。
声がする方を目指して足を動かした。
船から落ちた時よりは、幾分風は止んではいるが、雨はまだ打ちつけている。まだ女王ではないセイネシアたちの歌では力がたりないのかもしれない。
陸に上がると、待ち構えていたアルフがロイドをルナから引き取り、ソレイユも陸地に足がつくと強く砂を蹴り彼に走り寄った。
アルフが脱いだ上着をロイドの枕がわりにし、寝かせている。上着を脱いだアルフの胸元には見知ったネックレスを発見し、私は息が詰まった。
ーやっぱり・・・
いいしれない想いが溢れそうになる。
それを振り払い波打ち際にいるセイネシアの元へ行った。
天候が変わらないことに不安を抱いているのか、戸惑ったようにセイネシアとリュートは私を見てきた。
「大丈夫。覚えて・・・」
久しぶりの歌を口ずさんだ。
『深い海の底に
一筋の光が射し
淡い想い輝きて
この世界に色をつける
明日という日に
君の笑顔を
思い出し
いざ今見ぬ美しき世界にとびたたん』
この歌に歌詞があるとは思わなかっただろう。
セイネシアが驚きの表情を浮かべながら歌う。
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彼女の声が聞こえた気がした。
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「レイ。おかえり」
昔と変わらない声。
「ただいま。リード・・・」
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