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45.旅する記憶

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 罪を償うために旅にでた。
 そのはずが、なんの罪が何であったのか思い出せずにいることにある日気づいた。

 いつの間にか大事だったことすべてが忘れていた。

 忘れたことを思い出そうと、幾年も私は彷徨い続け始めた。
 だがその時に感じた想いも数年もすれば砂のように消え楽しいことも悲しいことも何も私には残っていなかった。

 記憶としてあっても思い出としてはない。
 その記憶でさえ風化していった。

 その時の感情で動くだけの日々を送る。だからかこそ毎日を大事にしようと何度も思った。悔いく生きようとした。

 それでも忘れていく。
 いつしかそれを当然のようになっていた。

 だが、時たま思うのだ。

 私は何のために生きている?何のために旅をしているのか忘れていた。大事だったはずなのにーと。

 ただただ生きていくことしかできなかった。

 忘れることに虚しさを覚えた。誰かにに縋りつきたくて助けを求めた。でも無理だった。
 私は人間の理を外れた存在だったからだ。

 こんな自分を恨んだ。
 でも生きた。生きるしかなかった。

 忘れたくない、思い出として残らなくても記憶として置いておきたくて、いつからか『人間を知ること』を目的とした。
 表向きは違ったとしても。

 どんなに忘れても、私はここにいる。

 それを忘れたくなくて、私は生きている。

 大事な何かをもう一度見つけるためにー。


 ◇◇◇◇◇

 夢から覚めた私は泣いていた。
 太陽が赤みを帯びている。
 もう時期太陽が沈み、暗い月夜がやってくる。

 この時間帯が一番寂しく感じた。

 どこからどこまでがの想いだったのだろうか。

 夢と現実がごちゃごちゃになっているようで頭が痛かった。

 涙を拭いた。
 重い頭のままで、本を汚していないか確認していると最後のページが目に入った。

 『まだ気持ちの整理もできず、何があったかを書くことはできない。だけど、書くとすれば、どんなことがあっても待ちつづける。レネ、君を・・・』

 殴り書きのような言葉。

 この著者の想いの強さが伝わってきた。

 白昼夢のの気持ちが残っているせいか、私は泣いた。
 
「ごめん、ごめんなさい。

 あの青年の顔を思い出し悲しくて涙が止まらなかった。

 なぜ、彼はいないのだろう。いつもなら、本を読んでいると来てくれたのに。
 時にはキザに、そして優しく笑う顔を思い出す。
 何度も見て覚えておきたいと願ってしまう。

 今すぐにでも彼に会いたいと思う自分がいた。

 本の片付けもせずに私はアルフ様を探した。

 一番いそうな執務室、リュート殿下やロイド殿下いそうな場所を回る。どこにもおらず探し回った。

「フィー?」

 アルフ様を見つけたのは王の謁見室がある近くだった。

「どうした?なにかあったのか?」
「それは・・・」

 あなたアルフ様に会いたかった。
 
 それなのに、その理由が出てこなかった。

 なぜ、探し回るほどアルフ様に会いたかったのか忘れてしまっていた。

 それが無性に悔しかった。

「なんで・・・?」
「フィー?」
「どうして、忘れしまうのよ・・・」

 悔しくて情けなくて、私は手で顔を覆ってしまった。

 アルフ様はそんな私を落ち着くまで、人目を憚りもせず抱きしめてくれた。
 
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