40 / 57
40.セイネ6
しおりを挟む
フィーは昨日、ルナ様から聞いたことをすべて話してくれた。
言いにくかっただろうに、正直に話してくれたことには感謝しかない。
ルナ様がくれたという短剣を手に取った。
短剣を抜くと、先はよく研いであるのかサメの歯とは思えないほど鋭く光沢があった。
『巨大サメなんて久しく聞く名前だわ』
巨大サメなんて大昔はいたらしいが今では見たこともない。
それにいつもなら鯨などの亡骸の骨で作られたナイフや光の国からの落とし物が一般的だというのに、ここまで丁寧に研がれたサメの歯の剣自体、初めて見た。
私は短剣をしまい、机の上に置いた。
そして、フィーに聞いた。
『フィー、聞いた?ロイド殿下とソレイユ様のこと』
「はい」
『喜ばしいことね』
私は微笑んだ。
リュート様の話を聞いて、ソレイユ様に対しての嫉妬はなくなった。
ロイド様に対しても不思議なほど何も思わない。
自分がどうしたいのか、まだわからない。
でも、リュート様と真剣に向き合いたいと思っていた。
ロイド様はソレイユ様に出会ってからは、私には会いに来なくなっている。でもリュート様は来てくれていた。
歌を歌っていたのがロイド様でなかったとわかっただけで、気持ちが冷めるとは『恋』ではなかったのかもしれない。
今はリュート様のことを知りたい気持ちでいっぱいだった。
この日もリュート様は来てくれた。
リュート様のことを知ろうとたくさん手話をする。彼は嫌な顔一つせず話を返してくれた。
彼は私が歌を歌っていた人魚とは知らないはずである。
知って欲しいとも思うのに、歌も歌えない人間になった私に価値はあるのだろうかと考えてしまう。
価値がないと言われたら、怖い。歌が歌えない私に興味がないといわれたら、どうすればいいのだろう。
真実を言うべきか。
人魚と知られる覚悟はあるのか。
すべてにおいて不安だった。
人魚に戻るために彼を殺す?
それとも・・・ここへくる前に女王が耳元で囁いたことが頭をよぎった。
『殺して、海に連れてきなさい。人魚の秘技で生き返らせれば、ずっと一緒にいられるわ』
彼を殺して海に戻る?本当に生き返るの?そんなことができるのだろうか。
もしかすれば、その方が人魚らしい生き方なのかもしれない。
いえ、違う。そうじゃない。
それは幸せとはいえない。
ならいっそう泡となって消えるべきではないだろうか?
「セイネ?どうかしたのか?」
リャート様が優しく微笑んできたので、私はなんでもないと首を振った。
『リュート様は歌は得意ですか?』
「歌?・・・そうだね。好きだね。セイネは?」
『私も好きです。声が出ていた頃はよく歌っていました』
「そうか。きっとセイネが歌う姿は凛として綺麗なんだろうな」
リュート様はまるで思い浮かべたかのように、目を細めてきた。
そんな顔を見て、恥ずかしくなってつい俯いてしまう。
『どうしてそう思うのですか?』
リュート様は、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「初めてここにきた時、君は不安な表情だった。でも次第に明るく笑うようになった。護ってあげたくなる、そんなイメージだった。だけど、一昨日のお茶会が終わったから、君は変わった。決意をしたと言うべきか・・・」
この方は私を見ていたのか。
「その顔を私は知っている。上に立つ王の顔だ。」
ー王の顔?
そんなことを言われるなんて初めてだった。自分の生き方を肯定してくれた気がする。
「そんな君が綺麗だと思ったんだ。だからきっと歌を歌う姿も綺麗なんだろうな」
『歌えない私には・・・興味は、ないですか?』
思いきって聞いてみた。この方なら・・・。
「歌えなくても君は君だろう」
ーあぁっ、初めからこの方に会えたなら良かった
愚かな考えばかりする自分が情けない。
でも、思うのだ。
私がずっと会いたかったのはこの方はだったのだ。会えたこと、知ることができて本当によかったと・・・。
言いにくかっただろうに、正直に話してくれたことには感謝しかない。
ルナ様がくれたという短剣を手に取った。
短剣を抜くと、先はよく研いであるのかサメの歯とは思えないほど鋭く光沢があった。
『巨大サメなんて久しく聞く名前だわ』
巨大サメなんて大昔はいたらしいが今では見たこともない。
それにいつもなら鯨などの亡骸の骨で作られたナイフや光の国からの落とし物が一般的だというのに、ここまで丁寧に研がれたサメの歯の剣自体、初めて見た。
私は短剣をしまい、机の上に置いた。
そして、フィーに聞いた。
『フィー、聞いた?ロイド殿下とソレイユ様のこと』
「はい」
『喜ばしいことね』
私は微笑んだ。
リュート様の話を聞いて、ソレイユ様に対しての嫉妬はなくなった。
ロイド様に対しても不思議なほど何も思わない。
自分がどうしたいのか、まだわからない。
でも、リュート様と真剣に向き合いたいと思っていた。
ロイド様はソレイユ様に出会ってからは、私には会いに来なくなっている。でもリュート様は来てくれていた。
歌を歌っていたのがロイド様でなかったとわかっただけで、気持ちが冷めるとは『恋』ではなかったのかもしれない。
今はリュート様のことを知りたい気持ちでいっぱいだった。
この日もリュート様は来てくれた。
リュート様のことを知ろうとたくさん手話をする。彼は嫌な顔一つせず話を返してくれた。
彼は私が歌を歌っていた人魚とは知らないはずである。
知って欲しいとも思うのに、歌も歌えない人間になった私に価値はあるのだろうかと考えてしまう。
価値がないと言われたら、怖い。歌が歌えない私に興味がないといわれたら、どうすればいいのだろう。
真実を言うべきか。
人魚と知られる覚悟はあるのか。
すべてにおいて不安だった。
人魚に戻るために彼を殺す?
それとも・・・ここへくる前に女王が耳元で囁いたことが頭をよぎった。
『殺して、海に連れてきなさい。人魚の秘技で生き返らせれば、ずっと一緒にいられるわ』
彼を殺して海に戻る?本当に生き返るの?そんなことができるのだろうか。
もしかすれば、その方が人魚らしい生き方なのかもしれない。
いえ、違う。そうじゃない。
それは幸せとはいえない。
ならいっそう泡となって消えるべきではないだろうか?
「セイネ?どうかしたのか?」
リャート様が優しく微笑んできたので、私はなんでもないと首を振った。
『リュート様は歌は得意ですか?』
「歌?・・・そうだね。好きだね。セイネは?」
『私も好きです。声が出ていた頃はよく歌っていました』
「そうか。きっとセイネが歌う姿は凛として綺麗なんだろうな」
リュート様はまるで思い浮かべたかのように、目を細めてきた。
そんな顔を見て、恥ずかしくなってつい俯いてしまう。
『どうしてそう思うのですか?』
リュート様は、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「初めてここにきた時、君は不安な表情だった。でも次第に明るく笑うようになった。護ってあげたくなる、そんなイメージだった。だけど、一昨日のお茶会が終わったから、君は変わった。決意をしたと言うべきか・・・」
この方は私を見ていたのか。
「その顔を私は知っている。上に立つ王の顔だ。」
ー王の顔?
そんなことを言われるなんて初めてだった。自分の生き方を肯定してくれた気がする。
「そんな君が綺麗だと思ったんだ。だからきっと歌を歌う姿も綺麗なんだろうな」
『歌えない私には・・・興味は、ないですか?』
思いきって聞いてみた。この方なら・・・。
「歌えなくても君は君だろう」
ーあぁっ、初めからこの方に会えたなら良かった
愚かな考えばかりする自分が情けない。
でも、思うのだ。
私がずっと会いたかったのはこの方はだったのだ。会えたこと、知ることができて本当によかったと・・・。
6
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる