(完結)泡沫の恋を人魚は夢見る

彩華(あやはな)

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27.人魚姫の物語

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 ◇◇◇◇◇

『どうしよう。あの人が気になるの』

『直接会えるわけないわ。陰からこっそり見たの。すごく格好いいの。笑う顔が太陽みたいだったわ』

『あの方のためなら泡沫人になるわ』

『どうすればいいの?あの人はわたしに振り向いてくれないの!わたしはこんなにもあの人が愛おしくて、見ているだけで胸が痛いの。恋焦がれてるの!』

『泡沫人になったのに、この思いを伝える術がない!薬が未完成だったのが悪いのよ』

『なんでよ!あの女ばかり見るの?なんで私を見てくれないの?わたしの名前を呼んでほしいのに!』

『泡になりたくない。あの二人は幸せになって、わたしは一人、泡となって消えるなんて嫌よ』

『お願い!お願いよ。わたしは愛してるの。わたしを愛してよ!!』

『憎い。わたしを見てくれないあの人が憎い。わたしを見てくれないならいらない。殺してわたしは一緒に泡になって消えるほうがいい・・・』


   ◇◇◇◇◇

 目が覚めると涙がでていた。

 変な夢を見たものだ。
 夢の中とはいえ、一人の女性の切ない思いの丈を打ち明けられてきたのだから、少し気が滅入ってしまう。

 ベッドの横にあるチェストの上にある紙を見た。
 昨日、ルナ様が落とした呪いが描かれた紙だ。

「引きずられたか・・・」

 想いが強いものがあると白昼夢のように見えてくる。今日は夢で見てしまった。最近は白昼夢を見ていなかったぶん、久しぶりのことで気持ちが追いつかない。声がまだ頭に残っている。

ー今日が休みでよかった・・・

 こんな気持ちでセイネ様の前に出たくなかった。

 服を着替え終わると呪いの紙はメイド服のポケットに入れた。誰かに見られたり、触られたらりされたくなくて持ち歩くことにする。
 食欲もないので朝食も取らずに図書館に行った。奥の本棚に行くと一冊の本を選んで引き抜いた。

 窓際の席に着くと読み始める。選んだのは「人魚姫物語 アルド著」と書かれた青い表紙の薄い本だった。

 人魚の伝説が「人魚姫物語」から生まれていることは知っていたので、これを選んだ。
 きっとアトラス国にあった人魚の話が書かれているはず、と思ったからだ。

 読むとやはり800年前の話が書かれていた。
 
 よく聞く伝説と概ね変わらない内容がかかれている。違うところは、本にはきちんと名前までが書かれていたことだ。

 ルナ様が言っていたフィレーネが海に落ちたアトラス国の王子を助けて恋に落ちた。だが、王子は隣国の王女が自分を助けてくれた人だと勘違いし恋をする。とあるダンスパーティーで再開してその場で婚約する。
 それを見て悲しむフィレーネ。悲しむ彼女に姉人魚たちは一つの短剣を渡した。『この剣で王子を刺せば人魚に戻れるわ』と。
 人魚に戻るためフィレーネは王子を殺そうと部屋し侵入するが、幸せそうに眠る王子を見て短剣を落とす。
 愛しい王子を傷つけることもできずに泡となって消えてしまう、というものだった。

ー本当にそれだけ?

 ルナ様が言っていた「人魚としてやってはいけないこと」なんて記述は書いていない。

ーどういうこと?

「何を読んでいるんだ?」

 背後から声が聞こえてきた。振り向くとアルフ様だ。
 この方はなぜ気配なくやってくるのだろう。

 アルフ様は身を乗り出すようにして本を見てきた。そして、不思議そうに聞いてくる。

「『人魚姫物語』か。君なら知っていると思っていたんだが?」
「もちろん聞いたことはありますよ。有名ですから。でも原本はまだ読んだことはなかったんです」
「そうか・・・。しかし残念だが、それだって物語に過ぎない。君のほしい内容は原本にはないだろう。真実を馬鹿正直に書くなんてしない。
 800年前のことは隠すこともできない出来事だった。ならば、嘘の中に真実を交えて書くことで真実が隠れることもある。まさかそれが子供たちの寝物語になったのは意外だったがな」

 見上げるとすぐ近くにアルフ様の顔がある。その顔は少し悲しそうに見えた。
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