27 / 57
27.人魚姫の物語
しおりを挟む
◇◇◇◇◇
『どうしよう。あの人が気になるの』
『直接会えるわけないわ。陰からこっそり見たの。すごく格好いいの。笑う顔が太陽みたいだったわ』
『あの方のためなら泡沫人になるわ』
『どうすればいいの?あの人はわたしに振り向いてくれないの!わたしはこんなにもあの人が愛おしくて、見ているだけで胸が痛いの。恋焦がれてるの!』
『泡沫人になったのに、この思いを伝える術がない!薬が未完成だったのが悪いのよ』
『なんでよ!あの女ばかり見るの?なんで私を見てくれないの?わたしの名前を呼んでほしいのに!』
『泡になりたくない。あの二人は幸せになって、わたしは一人、泡となって消えるなんて嫌よ』
『お願い!お願いよ。わたしは愛してるの。わたしを愛してよ!!』
『憎い。わたしを見てくれないあの人が憎い。わたしを見てくれないならいらない。殺してわたしは一緒に泡になって消えるほうがいい・・・』
◇◇◇◇◇
目が覚めると涙がでていた。
変な夢を見たものだ。
夢の中とはいえ、一人の女性の切ない思いの丈を打ち明けられてきたのだから、少し気が滅入ってしまう。
ベッドの横にあるチェストの上にある紙を見た。
昨日、ルナ様が落とした呪いが描かれた紙だ。
「引きずられたか・・・」
想いが強いものがあると白昼夢のように見えてくる。今日は夢で見てしまった。最近は白昼夢を見ていなかったぶん、久しぶりのことで気持ちが追いつかない。声がまだ頭に残っている。
ー今日が休みでよかった・・・
こんな気持ちでセイネ様の前に出たくなかった。
服を着替え終わると呪いの紙はメイド服のポケットに入れた。誰かに見られたり、触られたらりされたくなくて持ち歩くことにする。
食欲もないので朝食も取らずに図書館に行った。奥の本棚に行くと一冊の本を選んで引き抜いた。
窓際の席に着くと読み始める。選んだのは「人魚姫物語 アルド著」と書かれた青い表紙の薄い本だった。
人魚の伝説が「人魚姫物語」から生まれていることは知っていたので、これを選んだ。
きっとアトラス国にあった人魚の話が書かれているはず、と思ったからだ。
読むとやはり800年前の話が書かれていた。
よく聞く伝説と概ね変わらない内容がかかれている。違うところは、本にはきちんと名前までが書かれていたことだ。
ルナ様が言っていたフィレーネが海に落ちたアトラス国の王子を助けて恋に落ちた。だが、王子は隣国の王女が自分を助けてくれた人だと勘違いし恋をする。とあるダンスパーティーで再開してその場で婚約する。
それを見て悲しむフィレーネ。悲しむ彼女に姉人魚たちは一つの短剣を渡した。『この剣で王子を刺せば人魚に戻れるわ』と。
人魚に戻るためフィレーネは王子を殺そうと部屋し侵入するが、幸せそうに眠る王子を見て短剣を落とす。
愛しい王子を傷つけることもできずに泡となって消えてしまう、というものだった。
ー本当にそれだけ?
ルナ様が言っていた「人魚としてやってはいけないこと」なんて記述は書いていない。
ーどういうこと?
「何を読んでいるんだ?」
背後から声が聞こえてきた。振り向くとアルフ様だ。
この方はなぜ気配なくやってくるのだろう。
アルフ様は身を乗り出すようにして本を見てきた。そして、不思議そうに聞いてくる。
「『人魚姫物語』か。君なら知っていると思っていたんだが?」
「もちろん聞いたことはありますよ。有名ですから。でも原本はまだ読んだことはなかったんです」
「そうか・・・。しかし残念だが、それだって物語に過ぎない。君のほしい内容は原本にはないだろう。真実を馬鹿正直に書くなんてしない。
800年前のことは隠すこともできない出来事だった。ならば、嘘の中に真実を交えて書くことで真実が隠れることもある。まさかそれが子供たちの寝物語になったのは意外だったがな」
見上げるとすぐ近くにアルフ様の顔がある。その顔は少し悲しそうに見えた。
『どうしよう。あの人が気になるの』
『直接会えるわけないわ。陰からこっそり見たの。すごく格好いいの。笑う顔が太陽みたいだったわ』
『あの方のためなら泡沫人になるわ』
『どうすればいいの?あの人はわたしに振り向いてくれないの!わたしはこんなにもあの人が愛おしくて、見ているだけで胸が痛いの。恋焦がれてるの!』
『泡沫人になったのに、この思いを伝える術がない!薬が未完成だったのが悪いのよ』
『なんでよ!あの女ばかり見るの?なんで私を見てくれないの?わたしの名前を呼んでほしいのに!』
『泡になりたくない。あの二人は幸せになって、わたしは一人、泡となって消えるなんて嫌よ』
『お願い!お願いよ。わたしは愛してるの。わたしを愛してよ!!』
『憎い。わたしを見てくれないあの人が憎い。わたしを見てくれないならいらない。殺してわたしは一緒に泡になって消えるほうがいい・・・』
◇◇◇◇◇
目が覚めると涙がでていた。
変な夢を見たものだ。
夢の中とはいえ、一人の女性の切ない思いの丈を打ち明けられてきたのだから、少し気が滅入ってしまう。
ベッドの横にあるチェストの上にある紙を見た。
昨日、ルナ様が落とした呪いが描かれた紙だ。
「引きずられたか・・・」
想いが強いものがあると白昼夢のように見えてくる。今日は夢で見てしまった。最近は白昼夢を見ていなかったぶん、久しぶりのことで気持ちが追いつかない。声がまだ頭に残っている。
ー今日が休みでよかった・・・
こんな気持ちでセイネ様の前に出たくなかった。
服を着替え終わると呪いの紙はメイド服のポケットに入れた。誰かに見られたり、触られたらりされたくなくて持ち歩くことにする。
食欲もないので朝食も取らずに図書館に行った。奥の本棚に行くと一冊の本を選んで引き抜いた。
窓際の席に着くと読み始める。選んだのは「人魚姫物語 アルド著」と書かれた青い表紙の薄い本だった。
人魚の伝説が「人魚姫物語」から生まれていることは知っていたので、これを選んだ。
きっとアトラス国にあった人魚の話が書かれているはず、と思ったからだ。
読むとやはり800年前の話が書かれていた。
よく聞く伝説と概ね変わらない内容がかかれている。違うところは、本にはきちんと名前までが書かれていたことだ。
ルナ様が言っていたフィレーネが海に落ちたアトラス国の王子を助けて恋に落ちた。だが、王子は隣国の王女が自分を助けてくれた人だと勘違いし恋をする。とあるダンスパーティーで再開してその場で婚約する。
それを見て悲しむフィレーネ。悲しむ彼女に姉人魚たちは一つの短剣を渡した。『この剣で王子を刺せば人魚に戻れるわ』と。
人魚に戻るためフィレーネは王子を殺そうと部屋し侵入するが、幸せそうに眠る王子を見て短剣を落とす。
愛しい王子を傷つけることもできずに泡となって消えてしまう、というものだった。
ー本当にそれだけ?
ルナ様が言っていた「人魚としてやってはいけないこと」なんて記述は書いていない。
ーどういうこと?
「何を読んでいるんだ?」
背後から声が聞こえてきた。振り向くとアルフ様だ。
この方はなぜ気配なくやってくるのだろう。
アルフ様は身を乗り出すようにして本を見てきた。そして、不思議そうに聞いてくる。
「『人魚姫物語』か。君なら知っていると思っていたんだが?」
「もちろん聞いたことはありますよ。有名ですから。でも原本はまだ読んだことはなかったんです」
「そうか・・・。しかし残念だが、それだって物語に過ぎない。君のほしい内容は原本にはないだろう。真実を馬鹿正直に書くなんてしない。
800年前のことは隠すこともできない出来事だった。ならば、嘘の中に真実を交えて書くことで真実が隠れることもある。まさかそれが子供たちの寝物語になったのは意外だったがな」
見上げるとすぐ近くにアルフ様の顔がある。その顔は少し悲しそうに見えた。
6
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる