上 下
22 / 57

22.真珠2 (アルフ視点)

しおりを挟む
「フィー」 
 
 思いの外、低い声が出ていた。

「あれ?知りません、でした?」

 フィーは乾いた笑みを浮かべている。
 アンナはいつの間にか後ろを向き耳を押さえていた。聞いていないフリをしているのだろう。

「詳しく教えてもらおうか」

 ゆっくりフィーに近づくと、肩をがっちり捕まえて無理やりソファーに座らせた。

「あれぇ~。気のせいだったかも・・・」
「逃がさないよ。きちんと話してくれないと、それこそどんな目にあうかわからないよ?」
「アンナ様!!助けてください!襲われます!」

 フィーはアンナに助けを求めたが、優秀な侍女頭は後ろ向を向いたまま言葉を発する。

「私は何も聞いていません。何も見ていません。何も知りません。ですからフィー、あなたもサッサっと用事を済ませなさい!」
「そんなぁ・・・」

 涙目のフィーを笑いながら私は見た。

 彼女は泣きながら、知っていることを快~く教えてくれた。


 次の日、私はフィーと共に例の村に行くことにした。

 内密にというのもあり、二人だけででかけることにした。
 フィーはメイド服ではなく、よそ行きのワンピースにツバのある帽子をかぶっていた。飾り気のない服しかないというのでアンナが貸してくれたのだ。

 乗馬経験もないというので、私の前にフィーを座らせる。

「あのっ!怖いです」

 横乗りをしているため、ぎゅっと胸元を掴んでくるのが可愛く思える。
 色々思うことはあるが、今は目先のことを考え馬を走らせた。


「は、速い!風!風が顔に!なんで風が痛いの??」
 
 フィーは叫んだ。
 本当に馬に乗ること自体が初めてなのか、興奮している。

「落とさないから目を開けて見てみろ!」
「うあぁっ!景色が流れて・・・すごい!すごいわ!!」

 悲鳴から歓喜に変わった。相変わらず私の服を握りしめてはいるので、多少は怖いのだは思う。でも彼女の声は楽しそうだった。

 しかし村の入り口についたころには、フィーは真っ青な顔になっていた。

「気分が悪い・・・」
「すまない。飛ばしすぎた」 

 馬酔いをさせたようだった。口元を抑えうずくまる彼女の背中をなぜながら治るのを待つ。
 しばらくして落ち着いたのかフィーは顔をあげた。

「大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です。行きましょう」

 顔色が良くなったのを確認して、村へ行く小道に入って行く。

 城から見える岬の向こうに入江があるの知っていたが、そこに村があることは知らなかった。村へ行く小道まで馬でかけても1時間ほどかかり、尚且つ村までは歩いて行かないと行けない。
 こんな場所を知らなかったのも当たり前かもしれない。
 長年住んでいて知らなかったことに罪悪感さえ感じた。

「着きましたね」

 目の前に広がったのは本当に小さな村だった。
 ボロボロの小屋とも言える家が数十軒立ち並んでいるだけの静かな所に驚く。
 本当に人が住んでいるのかも怪しく写る。
 
 見知らぬ人を警戒してか、小屋から視線だけを感じた。

「どなたかな?」

 目の前に一人の老人が進み出た。後ろには日に焼けた屈強な男たちが鍬や斧を持って待ち構えている。
 私はフィーを庇うように前に出ると、老人に話しかけた。

「私の名前はアルフ。この村ののことで交渉に来た」

 老人の眼差しが揺らぎ、後ろの男たちも警戒心を強める。
 どう言葉を続けようか考えていると、横からひょこりとフィーが顔を出して言った。

「真珠をくれませんか?」
「フィー!」
 
 慌てた。
 まだ警戒をしていて交渉する状態でもないのに確信をつくとはありえない。

 だが、老人たちは一層警戒を強める。

「あの~?きゃっ!帽子!!」

 強い海風が吹いてきてフィーのかぶっていた帽子のツバを押し上げたため可愛い素顔が現れ、銀色の髪が風に弄ばれてた。
 慌てるフィーをよそに、それを見た村人すべてがひれ伏す。

「人魚様だ・・・」
「えっ?」
「銀の髪、紫の瞳。間違いなく人魚様です」

 拝み出している者さえいるこの光景に、何が起こっているのか理解できなかった。

「わたし、人間ですけど?」

 帽子を抑えながらおずおずと言うフィー自身、理解できていないようだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。 そこで思い出した前世の記憶。 進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。 そこには確かに自由があった。 後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。 皇帝の寵愛を一身に受けるために。 ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。 しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。 危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。 療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……? 設定はゆるゆるなので、見逃してください。 ※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。 ※溺愛目指します ※R18は保険です ※本編18話で完結

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...