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10.持ち物
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知っている場所を見つけるとアルフ様にお礼を言って別れ自分の部屋に戻った。
ベッドの下からボストンバッグを引っ張り出した。その中にいつでも使えるようにサイドテーブルに置いていた生活品を素早く手早く詰め込む。
もともと私の荷物はあまりない。
このバッグさえあればすぐにどこにでも行けるようにまとめてあった。少しの服と大事な品だけが私の財産とも言える。
「フィー、どうしたんだい?」
夜勤のため昼寝をしていたおばさんが片付けの物音で目が覚めてしまったらしい。
慌ててバックの口を閉じ、立ち上がった。
「場所変えになったんです。ですので引越しになりました」
「そうなのかい。残念だね」
「急ですいません。挨拶もなくいきますので、皆さんにもよろしく伝えてください」
「はいよ。がんばりなよ」
おばさんは眠そうに手を上げて見送ってくれた。
きっと一週間、二週間とすれば顔も声も名前さえ忘れているだろう。
人が多いと尚更だ。
特に後ろ髪を引かれることもなく部屋を出た。
振り返ることもせずにセイネ様の部屋へと戻る。
部屋に入ると不安そうに見てくるセイネ様がいた。マリー様もどうすればよいのか困惑していた。
言葉が伝わらないだけでよそよそしくなるのかと思い知らされる。
「お待たせしました。マリー様もありがとうございます。なにかありましたらまたお知らせします」
「そう?ではお願いね」
居心地が悪かったのか、マリー様はそそくさと部屋から出た。
こちらに戻ってくる時に思ったことを思い出し伝えてみた。
「セイネ様。ハンドサインできますよね?」
『?』
首を傾げるセイネ様。
「手の動きなどで意思を伝えることです」
どう伝えれば良いのか・・・。
自分の人差し指で示しながら「わたし」、セイネ様に指を向け「あなた」と言いながらジェスチャーしてみせた。
『・・・これね?』
理解したのか、サインをかえしてくれた。
「はい。それなら多少の国や文化などで違いはありますが、理解してくれると思います。文字を覚えるまでこちらも使いましょう」
セイネ様は俄然やる気の満ちたな表情で頷いた。
「あと・・・足が痛いのは全体ですよね?」
『どうして、わかったの?』
ハンドサインならできると率先して答えてきた。
「・・・なんとなくです。保湿剤もありますから手入れしましょう・・・」
私は持ってきたバックから手のひらサイズの入れ物と靴を取り出してくるとセイネ様のスカートを捲りカサカサの白い足を自分の🦵に置いた。
触るだけでかなり痛いのか彼女は眉を顰める。
「このクリームは私が作った特製のものです」
そう言って白いクリームをふんだんに手に取ると優しく塗っていく。
「昔、お世話になったお城の奥様も足が痛いと言っていて、このクリームを差し上げたんです。奥様は症状が緩和したと喜んでいました。
実はこの中には真珠が入っているんです。本当は真珠を削った粉を混ぜたものの方が保湿力もあるんですけど・・・、ほら、真珠って高価ですから粒を入れて混ぜたものが精一杯で・・・」
そう言って彼女を見ると不思議そうに私を見ていた。
「あぁっ!お金は取りませんよ。えっとあと・・・」
高価な真珠が入っているとしれば、そんな顔になるかもしれない。
話を変えるためにもう一つの物をバッグから取り出した。
くたくたになった布靴だ。使い古していて色も褪せたものだがまだ使える。
茶色いの布に紫と貝殻の装飾のついた可愛い靴。
「麻の織りの生地にアッキ貝のからとれた染液で染めた紫の糸で刺繍しています。そこに白蝶貝と黒蝶貝などを削ったものを飾りとして施してます。靴裏と中敷の間には海藻と砂を入れているので痛みが緩和すると思います」
セイネ様の足にはめた。
少し小さいかと思ったが、布なので多少伸びたので大丈夫そう。
質素な靴なので申し訳ないがないよりはいいだろう。
セイネ様はなぜか驚いたように私を見ていたので、おどけた笑みを浮かべた。
「人魚研究をしていますから。でも他の人には内緒ですよ。こんな物があるなんて知られたら注文が殺到してしまいますから」
内緒だよっと人差し指を口元にあててみた。
ベッドの下からボストンバッグを引っ張り出した。その中にいつでも使えるようにサイドテーブルに置いていた生活品を素早く手早く詰め込む。
もともと私の荷物はあまりない。
このバッグさえあればすぐにどこにでも行けるようにまとめてあった。少しの服と大事な品だけが私の財産とも言える。
「フィー、どうしたんだい?」
夜勤のため昼寝をしていたおばさんが片付けの物音で目が覚めてしまったらしい。
慌ててバックの口を閉じ、立ち上がった。
「場所変えになったんです。ですので引越しになりました」
「そうなのかい。残念だね」
「急ですいません。挨拶もなくいきますので、皆さんにもよろしく伝えてください」
「はいよ。がんばりなよ」
おばさんは眠そうに手を上げて見送ってくれた。
きっと一週間、二週間とすれば顔も声も名前さえ忘れているだろう。
人が多いと尚更だ。
特に後ろ髪を引かれることもなく部屋を出た。
振り返ることもせずにセイネ様の部屋へと戻る。
部屋に入ると不安そうに見てくるセイネ様がいた。マリー様もどうすればよいのか困惑していた。
言葉が伝わらないだけでよそよそしくなるのかと思い知らされる。
「お待たせしました。マリー様もありがとうございます。なにかありましたらまたお知らせします」
「そう?ではお願いね」
居心地が悪かったのか、マリー様はそそくさと部屋から出た。
こちらに戻ってくる時に思ったことを思い出し伝えてみた。
「セイネ様。ハンドサインできますよね?」
『?』
首を傾げるセイネ様。
「手の動きなどで意思を伝えることです」
どう伝えれば良いのか・・・。
自分の人差し指で示しながら「わたし」、セイネ様に指を向け「あなた」と言いながらジェスチャーしてみせた。
『・・・これね?』
理解したのか、サインをかえしてくれた。
「はい。それなら多少の国や文化などで違いはありますが、理解してくれると思います。文字を覚えるまでこちらも使いましょう」
セイネ様は俄然やる気の満ちたな表情で頷いた。
「あと・・・足が痛いのは全体ですよね?」
『どうして、わかったの?』
ハンドサインならできると率先して答えてきた。
「・・・なんとなくです。保湿剤もありますから手入れしましょう・・・」
私は持ってきたバックから手のひらサイズの入れ物と靴を取り出してくるとセイネ様のスカートを捲りカサカサの白い足を自分の🦵に置いた。
触るだけでかなり痛いのか彼女は眉を顰める。
「このクリームは私が作った特製のものです」
そう言って白いクリームをふんだんに手に取ると優しく塗っていく。
「昔、お世話になったお城の奥様も足が痛いと言っていて、このクリームを差し上げたんです。奥様は症状が緩和したと喜んでいました。
実はこの中には真珠が入っているんです。本当は真珠を削った粉を混ぜたものの方が保湿力もあるんですけど・・・、ほら、真珠って高価ですから粒を入れて混ぜたものが精一杯で・・・」
そう言って彼女を見ると不思議そうに私を見ていた。
「あぁっ!お金は取りませんよ。えっとあと・・・」
高価な真珠が入っているとしれば、そんな顔になるかもしれない。
話を変えるためにもう一つの物をバッグから取り出した。
くたくたになった布靴だ。使い古していて色も褪せたものだがまだ使える。
茶色いの布に紫と貝殻の装飾のついた可愛い靴。
「麻の織りの生地にアッキ貝のからとれた染液で染めた紫の糸で刺繍しています。そこに白蝶貝と黒蝶貝などを削ったものを飾りとして施してます。靴裏と中敷の間には海藻と砂を入れているので痛みが緩和すると思います」
セイネ様の足にはめた。
少し小さいかと思ったが、布なので多少伸びたので大丈夫そう。
質素な靴なので申し訳ないがないよりはいいだろう。
セイネ様はなぜか驚いたように私を見ていたので、おどけた笑みを浮かべた。
「人魚研究をしていますから。でも他の人には内緒ですよ。こんな物があるなんて知られたら注文が殺到してしまいますから」
内緒だよっと人差し指を口元にあててみた。
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