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エスタニア

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 小さい頃、物心ついた頃には三人でいた。
 父のブラキアと父の友人のカジェロ。毎日楽しくおかしな日々だった。
 10歳までは。
 10歳になったころ、ブラキアが病の床についた。戦争の後遺症だったらしい。らしいとは後にカジェロから聞いたのだ。
 当時、ブラキアの治療費の為に小さな仕事をいくつもこなしていた。皿洗いに掃除、給仕・・・。
 正直辛い毎日だった。それでも、ブラキアとカジェロの笑顔が見たくて必死だった。
 寝込んで半年足らずで死んだ。

 カジェロの胸で泣いた。
 たった一人の肉親。母親の事も知りえなかった。
 それでもよかった。ブラキアがいて、カジェロがいたから。

 15歳になると、カジェロの勧めで魔術学園に入学した。ブラキアとカジェロの英才教育の賜物で、好成績を修め、人形師としての実力を認めてもらえた。
 この頃は人形師になるものも大勢いた。伝説の人形師であるリアを越えよう、彼女の正体を探ろうと必死だった。
 でも、数多ある就職口を蹴りカジェロの元へ帰った。

 彼は驚いた。
 もう会うことはないと思っていたのだから。
 だから笑ってやった。
 わたしの居場所はここだと、言ってやった。

 彼は笑った。
 寂しそうに。
 そして、全てのことをわたしに語ってくれたのだ。
 自分がドールであること。
 自分を作ったのはブラキアの祖父、・・・つまり、わたしのひいお爺様であると。
 そして、自分はドールの始祖であるリアの魔核を継いでいることを。リアの魔核こそ、失われた魔核であることを。


 あまりの事実の大きさに三日間寝込んだ。
 その間もわたしを看病してくれた。

 カジェロはいつしか、一体のドールを作ろうとしていた。
 わたしには手伝わしてくれなかった。
 幾度も幾度もお願いしても無理だった。
 寂しかった。
 振り向いて欲しかった。
 奥さんの真似事もした。
 その度に彼は笑うのだ。「自分のことはいいから、結婚して幸せになれ」と。
 唐変木。朴念仁。
 なんでよ。
 あからさまにしてやってるのに、全く気づいてくれない。

 でも、それが彼なのだ。
 ただ、カジェロの側にいたかった。
 気づいて欲しかった。

 ドールがドールを作ること。その意味をその時はきづいてなかった。



 数年かけてドールの器ができた。
 今まで、自分が作り上げて来た物とはちがう。目も鼻も口さえもない、人形だけの

「カジェロ?」
「これでいいんだ。これから入れる魔核は普通とは違う。これは新たな肉体に宿ることで、自分の意志を持ち成長する。本当の人間のようになるんだ」

 カジェロはつぶやいた。

 どこにそんな魔核があるのか?聞いたこともみたこともなかった。そんなことができるとすれば・・・。まさかっ・・・。

「俺は・・・生き過ぎた。疲れた。なあエスタニア、お前に託していいか?」

 嫌な気がして仕方なかった。
 違うと言って欲しかった。

「この子をよろしく頼む」
「何言ってるのよ」
「わかってるだろう」

 ブンブン、首を振った。
 涙が溢れる。
 カジェロは抱きしめてくれた。

「大きくなったな。初めは、小さくて、壊れそうで。あいつと毎日てんやわんやして。泣くお前をあやして、喧嘩して笑い合って・・・。楽しかった。愛しかった」
「やめて!わたしはわたしは貴方のこと・・・」
「すまんな。気持ちに応えてやれんで」

 最後まで言わせてくれなかった。
 ひどい。ひどすぎた。

「俺にとって、お前は娘だ。俺たちの娘・・・」

 なんでよ。
 言わしてよ。
 悲しかった。


 カジェロは自分の左胸に手を差し込み、それをとりだした。真っ赤な、血のような色の大きな魔核。
 いくつもの管が切れるようにとれると、それはますます光り輝やいた。

 そっとドールの器の胸元に差し込むと、それは解けるように消え、代わりにドール自身が輝いた。

 光に包まれ、グルグル円を描くように回っていたが、しばらくしてゆっくりと光が消え、残ったのは女の赤ちゃんだけだった。
 ありえないと思った。

 どうしてこうなったのか?

「ははっ、そうか。一から始めたいんだな。そうかそうか。よくきたな。わたしの娘よ。エスタニア。頼めるな」
「卑怯者。馬鹿。阿呆」

 詰ってやった。
 カジェロは笑うだけ。

「名前は?」
「名前か・・・。・・・ターニアじゃダメか?」
「あんた、ほんと馬鹿?わたしと丸かぶりでしょ」
「ええっ?」

 馬鹿なの?
 信じられなかった。

 でも嬉しかった。

「もう、ターニャよ。ターニャ」
「ターニャ・・・。ターニャか」

 カジェロは優しく笑った。

 私たちは住処を変えた。
 ターニャのため、カジェロのために。

 あの街に住み始めた。
 次第に動かなくなるカジェロのために整備しとして、時計台の管理者になった。
 二人ででターニャを育てた。

 楽しかった。
 カジェロが動かなくなるまでは。本当の家族みたいだった。

 カジェロが動かなくなって・・・、ターニャの存在が重かった。育てるのが、義務になり、辛かった。
 泣いた。
 泣いた。
 泣くたびにターニャは理解ある良い子になった。
 そして、わたしはそれに甘えた。10歳のあの子に持っている自分の技術を教え込んで旅にでた。
 あの子の気持ちも考えず、身勝手なことをした。
 あの子が愛情に飢えていることにもきづかずに・・・。




 
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