【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)

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 生きる希望はもう、ありません。

 こうなるのならば、素直にしゃべるべきだったのでしょうか?

 契約は破られました。
 破棄されました。

 もう、取り返しのつかない事になっています。

 でも、関係のない事です。

 わたしの役目は終わりました。

 もう、しなくていいのです。
 役目を終えました。

 5年前、約束しました。
 
 5年間だけ聖女であること。
 次の聖女をまで聖女でいる事。
 次の聖女を5年後選定すること。
 その間、王太子殿下の婚約者であること。
 その5年間、わたしの大事な人たちを護ること。

 たった5年間の話。

 ですが、わたしの大事な人たちは殺されました。

 

 大事な家族も。
 父さん、母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、妹。
 お兄ちゃんの家族も。
 お姉ちゃんの家族も。

 大事な幼馴染も。
 結婚の約束をした、大事な人だった。

 
 思い出が甦える。
 父さんの、母さんの笑顔を思い出す。
 喧嘩をしたお兄ちゃん、慰めてくれたお姉ちゃん、仲良く果物を分け合った妹。
 どれも5年前の姿。

 今の家族はどんなだったんだろう?
 変わらなかったのかな?
 わたしのこと待っててくれたの?

 わたしの大事な幼馴染。
 ずっと、ずっとあなたを思っていた。
 逢いたかった。

 いっぱい話がしたかった。
 抱きしめて欲しかった。
 存在を確認したかった。

 もう、叶わない。
 
 あなたはいない。
 約束したのに。
 もう、あなたはどこにもいない。

 
 ごめんなさい。

 わたしのせいで。
 わたしが聖女・・・ううん、女神様に選ばれたせいで。
 不幸にしてしまった。
 
 ごめん。
 ごめんなさい。
 わたしのせいで。

 みんなの幸せを壊してしまった。

 わたしがいたから。

 早く死ねばよかった。
 そうすれば、救われたかもしれない。

 わたしが死ねばよかったんだ。

 ずるずると生きる事にしがみついたわたしが悪いんだ。

 あの人たちの幸せなど考えるべきでなかったんだ。

 家族の幸せを選べばよかった。
 大事な幼馴染馴染の元へ帰ればよかった。

 あんな別れ方をするなんて。

 最後の別れが言葉を交わす事もなく、わたしの目の前で首を落とされた。

 わたしは生きていく気はない。

 未練はない。

 聖女を探す?
 もう、どうでもいいよね。


 わたしは、大事な人の側へ、これから行きます。

 見窄らしい服の裾を裂いて紐にする。 
 切れないように編んで強度を増す。

 牢から見える青い月が綺麗だ。

 そう思える自分に笑ってしまう。

 月の光が入る。
 地下牢にある、唯一の窓の鉄格子に背伸びして紐をかけた。



 女神様、わたしは貴女を恨みます。
 それでいて、愚かなわたしは貴女に願うのです。
 どうか、どうか、この国が不幸でありますようにー。



 女神様、自ら命を絶つわたしは、あの人の元に行けますかー?
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