1 / 6
1.
しおりを挟む一つの約束。
それはわたしと、白い荘厳な服を着たおじいちゃんと、煌びやかな服を着たおじさんの3人だけの秘密の約束だった。
3枚の紙にそれぞれのサインと母印を押す。
『誰にも言ってはならないこと。
言えば誰かが不幸になる。
破れば誰かが不幸になる。
破棄されれば誰もが不幸になる』
そんな契約書。
女神様の名前において交わされた、聖なるものだった。
絵本に出てくる物語が、そこにあった。
期限のある約束。
わたしは、これから『聖女』となる。
なんの取り柄もない、田舎娘のわたしが。
しかたない事なのだ。
この契約書がある限り、わたしは王太子殿下の婚約者になる。
礼儀作法も、学もない田舎者のわたしが。
大事な人の側を離れる。
この契約書がある限り、わたしは彼の側にいることはできない。
当たり前のような幸せを送れない。
幼馴染の彼に言う。
帰ってくるから、待っていてーと。
彼は、わたしの手を取り約束してくれた。
*******
5年後の王立学園創立祭の記念パーティー。
その場で、婚約者である王太子殿下に婚約破棄を突きつけられた。
「お前には、偽聖女としての今まで騙していた事は罪である。真の聖女であるアイビーを虐げでいた証拠も揃っている。この場をもって婚約を破棄し、アイビーとの婚約を宣言する」
何故、こんな事になったのでしょうか。
今、この場には、国王陛下も神官長もいません。
王立学園の創立祭とだと言うのに、国王陛下は国外視察に、神官長は本殿に祭事で籠もっています。
王太子殿下に全てをお任せになったのです。
その場で・・・わたしの味方のいない場で、堂々と婚約破棄を言い渡したのです。
王太子殿下の隣には深い緑の髪の女性が腕を絡ましています。
アイビー様です。
異国の血を受け継いだ方です。
彼女は『聖女』であるわけはありません。
わたしにはわかります。
でも、わたしの言う事は信じないでしょう。
一度も会話をしたこともありませんから。
わたしは王太子殿下に嫌われていますから。
平民だからです。
平民の聖女自体お嫌いだからです。
きっと、名前さえ覚えていないでしょう。
わたしも、王太子殿下に興味はありません。
どんなに冷たくあしらわれようとかまいませんでした。
でも、何故ですか?
何故、このような場で行ったのです?
国王陛下に話をすればよかったじゃないですか。
本当の事はまだ話せません。
それでも・・・なんらかの返答はあったはずです。受け入れてくれたはずです。
でも、今はまだ、受け入れるわけにはいきません。
「王太子殿下。もうしばらく、もうしばらくだけお待ちください。さすれば婚約破棄いたします」
「今すぐだ。衛兵!聖女を語るこの嘘つき女を牢に入れろ!!」
衛兵が近づいてくる。
わたしは逃げる事はできなかった。
暗い地下牢にわたしは入れられた。
約束が破られる。
ああっ、わたしにはどうする事もできない。
あと少し、あと少しでわたしはあそこに帰れるはずだったのに・・・。
185
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)


【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています

聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。
ふまさ
恋愛
聖女エリノアには、魔物討伐部隊隊長の、アントンという婚約者がいる。そして、たった一人の家族である妹のリビーは、聖女候補として、同じ教会に住んでいた。
エリノアにとって二人は、かけがえのない大切な存在だった。二人も、同じように想ってくれていると信じていた。
──でも。
「……お姉ちゃんなんか、魔物に殺されてしまえばいいのに!!」
「そうだね。エリノアさえいなければ、聖女には、きみがなっていたのにね」
深夜に密会していた二人の会話を聞いてしまったエリノアは、愕然とした。泣いて。泣いて。それでも他に居場所のないエリノアは、口を閉ざすことを選んだ。
けれど。
ある事件がきっかけで、エリノアの心が、限界を迎えることになる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる