2 / 11
2.ロベルト視点
しおりを挟む
彼女の姿は学園になかった。
階段から落ちて以来、婚約者であるレティシアは姿を現していない。
国王である、父からはレティシアの元に行くなと言われた。
どうなっているのかもわからなかった。
あの日、レティシアとミランダが揉み合っていると、側近であるアレックスから聞かされ急いで行った。
階段の踊り場で叫ぶミランダと、戸惑いを見せているレティシア。
ミランダが、3階から降りてきた僕を見てレティシアの手を振り払った瞬間、二人は大勢を崩した。
近くにいたミランダは、なんとか引き寄せることはできたが、レティシアの手には届かなかった。
彼女の手は宙を掴んでいた。
細い指が僕を求めていた。
彼女の目が僕を見た。
哀しみを含んだ、諦めに似た色を湛えていた。
涙が溢れていた。
静かに眼を閉じられた。
僕を拒否するように。
ほんの数秒の出来事。
そして、レティシアは落ちていった。
僕は救えなかった。
手を掴めなかった。
見ているしかなかった。
身体が動かなかった。
どうしてだ。彼女は僕の婚約者だと言うに。
床に広がる金の髪。真っ赤な液体がゆっくりと広がっていった。
誰も助けてはくれなかった。
見ていたのに。手を差し伸べることもなく。
ただ、見ているだけ。
一人横たわるレティシアの姿。
レティシアの学園内での噂はあまり良くなかった。
だからなのか、誰も手を差し伸べなかった。助けようとしなかった。
冷たい目で見下ろしているだけだった。
ミランダは元は平民だった。
約二年前、『癒しの力』の発現により神殿から『聖女』として認められ、貴族籍を得るためにアンダスター公爵の養女となった。
聖女として振る舞う為に厳しい淑女教育が必要となり、その教育の一端として、王族である僕に白羽の矢が立ったのだ。
もと平民だからと言われないよう行動するのに、僕が手助けをすることになった。つまり後ろ盾ともいえよう。
それを気に入らなかったのか、レティシアがミランダを虐めているというものだった。
レティシアがするはずはない。
だが、確信が持てなかった。
生徒会の仕事と、ミランダの教育の補助で忙しく、まともに顔を合わせていなかったのだ。
ミランダを妹のように感じていた。
聖女であることを驕らず、勉強やマナーにも必死に取り組んでいた。時折、勉強に疲れて甘えてくることはあった。それが可愛く思えた。
淑女として一流の公爵令嬢になるように協力したのだ。
だから、ミランダと僕が恋人だと学園内で噂がたっていることに気づかなかった。
しばらくして気づいた時には、学園公認になっていた。
でも、レティシアなら僕がなにも言わなくてもわかってくれていると思っていた。
そして、レティシアがミランダを虐めているのだと噂で聞いて、嫉妬してくれているようで嬉しかった。
レティシアの噂はますます広がっていった。
レティシアに確認しようにも、ミランダに請われ勉強やマナーを教える。
逢いに行きたくとも、時間が取れなかった。
予習に復習、生徒会の仕事、ミランダの事、父から回された執務。手紙を書くにも疲れて寝落ちしていることが幾度となくあった。
アレックスに頼もうにも、あいつはミランダに心酔しているのか、レティシアを目の敵のようにするようになり、頼むことさえできなかった。
学園内で、一人で佇むレティシアを幾度も目にした。
助ける事ができなかった後悔だけが増す。
あの出来事の後、父に呼び出された。
「なぜ、レティシアを助けなかったのか?」
「なぜ、レティシアを護らなかったのか」
と。
何も答えられなかった。
どう、答えてもいいわけにしかならなかった。
責められても仕方ない。
父はそんな僕にため息をついた。
「彼女には逢いに行くな」
「そんな・・・」
僕はレティシアのその後を知ることさえ許されなかったのだ。
あれから三ヶ月経った頃、レティシアから花が贈られてきた。
赤い薔薇が一本。
手紙は添えられていなかった。
一輪の薔薇。
それだけでも、僕は嬉しかった。
赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」だからー。
階段から落ちて以来、婚約者であるレティシアは姿を現していない。
国王である、父からはレティシアの元に行くなと言われた。
どうなっているのかもわからなかった。
あの日、レティシアとミランダが揉み合っていると、側近であるアレックスから聞かされ急いで行った。
階段の踊り場で叫ぶミランダと、戸惑いを見せているレティシア。
ミランダが、3階から降りてきた僕を見てレティシアの手を振り払った瞬間、二人は大勢を崩した。
近くにいたミランダは、なんとか引き寄せることはできたが、レティシアの手には届かなかった。
彼女の手は宙を掴んでいた。
細い指が僕を求めていた。
彼女の目が僕を見た。
哀しみを含んだ、諦めに似た色を湛えていた。
涙が溢れていた。
静かに眼を閉じられた。
僕を拒否するように。
ほんの数秒の出来事。
そして、レティシアは落ちていった。
僕は救えなかった。
手を掴めなかった。
見ているしかなかった。
身体が動かなかった。
どうしてだ。彼女は僕の婚約者だと言うに。
床に広がる金の髪。真っ赤な液体がゆっくりと広がっていった。
誰も助けてはくれなかった。
見ていたのに。手を差し伸べることもなく。
ただ、見ているだけ。
一人横たわるレティシアの姿。
レティシアの学園内での噂はあまり良くなかった。
だからなのか、誰も手を差し伸べなかった。助けようとしなかった。
冷たい目で見下ろしているだけだった。
ミランダは元は平民だった。
約二年前、『癒しの力』の発現により神殿から『聖女』として認められ、貴族籍を得るためにアンダスター公爵の養女となった。
聖女として振る舞う為に厳しい淑女教育が必要となり、その教育の一端として、王族である僕に白羽の矢が立ったのだ。
もと平民だからと言われないよう行動するのに、僕が手助けをすることになった。つまり後ろ盾ともいえよう。
それを気に入らなかったのか、レティシアがミランダを虐めているというものだった。
レティシアがするはずはない。
だが、確信が持てなかった。
生徒会の仕事と、ミランダの教育の補助で忙しく、まともに顔を合わせていなかったのだ。
ミランダを妹のように感じていた。
聖女であることを驕らず、勉強やマナーにも必死に取り組んでいた。時折、勉強に疲れて甘えてくることはあった。それが可愛く思えた。
淑女として一流の公爵令嬢になるように協力したのだ。
だから、ミランダと僕が恋人だと学園内で噂がたっていることに気づかなかった。
しばらくして気づいた時には、学園公認になっていた。
でも、レティシアなら僕がなにも言わなくてもわかってくれていると思っていた。
そして、レティシアがミランダを虐めているのだと噂で聞いて、嫉妬してくれているようで嬉しかった。
レティシアの噂はますます広がっていった。
レティシアに確認しようにも、ミランダに請われ勉強やマナーを教える。
逢いに行きたくとも、時間が取れなかった。
予習に復習、生徒会の仕事、ミランダの事、父から回された執務。手紙を書くにも疲れて寝落ちしていることが幾度となくあった。
アレックスに頼もうにも、あいつはミランダに心酔しているのか、レティシアを目の敵のようにするようになり、頼むことさえできなかった。
学園内で、一人で佇むレティシアを幾度も目にした。
助ける事ができなかった後悔だけが増す。
あの出来事の後、父に呼び出された。
「なぜ、レティシアを助けなかったのか?」
「なぜ、レティシアを護らなかったのか」
と。
何も答えられなかった。
どう、答えてもいいわけにしかならなかった。
責められても仕方ない。
父はそんな僕にため息をついた。
「彼女には逢いに行くな」
「そんな・・・」
僕はレティシアのその後を知ることさえ許されなかったのだ。
あれから三ヶ月経った頃、レティシアから花が贈られてきた。
赤い薔薇が一本。
手紙は添えられていなかった。
一輪の薔薇。
それだけでも、僕は嬉しかった。
赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」だからー。
541
お気に入りに追加
2,882
あなたにおすすめの小説
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
言葉にしなくても愛情は伝わる
ハチ助
恋愛
二週間前に婚約者のウィルフレッドより「王女殿下の誕生パーティーでのエスコートは出来なくなった」と謝罪と共に同伴の断りを受けた子爵令嬢のセシリアは、妊娠中の義姉に代わって兄サミュエルと共にその夜会に参加していた。すると自分よりも年下らしき令嬢をエスコートする婚約者のウィルフレッドの姿を見つける。だが何故かエスコートをされている令嬢フランチェスカの方が先に気付き、セシリアに声を掛けてきた。王女と同じく本日デビュタントである彼女は、従兄でもあるウィルフレッドにエスコートを頼んだそうだ。だがその際、かなりウィルフレッドから褒めちぎるような言葉を貰ったらしい。その事から、自分はウィルフレッドより好意を抱かれていると、やんわりと主張して来たフランチェスカの対応にセシリアが困り始めていると……。
※全6話(一話6000文字以内)の短いお話です。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる