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1.レティシア視点
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貴方は、私の手を取ってはくれなかった。
差し出す右手は求めるものをかすりもしなかった。
貴方はあの人の手を取った。
引き合うようにして、抱きしめている。
小さくなっていく、二人の姿。
見たく、ありませんでした。
涙が溢れる。
私は目を閉じる。
見たくなくてー。
忘れてしまいたくてー。
次の瞬間、頭に、身体中に激痛が走った。
一瞬息ができなかった。
苦しかった。
それが、身体なのか心がなのかわからなかった。
目が覚めると、見知った天蓋だった。
私の部屋の私のベッド。
身体が痛い。頭が痛い。
「お嬢様!!」
メイドのリサが叫ぶ。
もう少し小さな声がいいわ。
頭に響く。
静かにして。
「・・・リ、サ?」
「旦那様を呼んできますね」
慌てて部屋を飛び出していく。
なぜそんなに泣きそうな顔をしていたのかしら?
私はゆっくりと身を起した。
ふらつく。
そっと、痛い頭に手をやると、布が巻かれていた。
包帯?
何があったのか、思い出そうにも思い出せない。
自分の手を見る。
なんだろう?
違和感がある。
それが何かはわからない。
「レティシア」
お父様とお母様が入ってきた。
顔を真っ赤にして、目を腫らして。
泣いていたのだろうか?
「おとう、さま・・・?おかあさ・・・ま?」
二人とも白髪が増えている。
目尻の皺が深くなっている。
「やっと目が覚めたのだな」
やっと、目が覚める・・・?
「良かった。良かった・・・。神よ、感謝します・・・」
私の手を取って祈る姿は、私が知るお父様の姿より小さく感じた。
こんなに、頼りなくみえたかしら?
「お父様・・・。私、何があったのですか?」
「レティシア?」
違う世界にきたように感じるのはどうして?
私は何かを忘れているの?
「覚えていないのか?」
「・・・何を、ですか?」
お父様は目を見開いて、震えた。
眉を寄せ、悔しそう?悲しそうに?なんとも言えない表情をしていた。
「学園の階段から落ちたんだ。頭・・・頭を強く打って、出血もあって・・・。二ヶ月の間、目を覚さなかったんだ・・・」
二ヶ月。
それでなんだ。
爪を見る。
どおりで、少し長いと思った。
違和感はそれかしら?
「学園から連絡を受けて行ったら、お前は救護室に運ばれていた。レティシア、あの時何があったんだ?」
何があったか?
なんだろう・・・?
「・・・わから、ない・・・」
「・・・!?」
お父様もお母様も、驚いたように私を見た。
もう一度、手を見る。
数度、手を握っては開きを繰り返した。
物足りない。何?
何かを掴みたかった?
触りたかった?
やはり、違和感がある。
なんだろう・・・。
「お嬢様?」
リサが尋ねてきた。
あまり考える事ができない。
頭が痛い・・・。
お母様は青い顔をして、言った。
「リサ。お医者様はまだ?」
「見てきます」
リサは、飛び出るように部屋を出ていった。
お医者様から、頭を強く打ったことによる、記憶障害だろうと言われた。
私は、階段から落ちた理由を何一つ覚えていなかった。
いえ、このニ年ほどの記憶も曖昧だった。
特にとある方のことを覚えていなかった。
婚約者である、ロベルト王太子殿下についてのことを、思い出せないでいた。
顔も声も思い出せなかった。
好きだと言う気持ちさえ思い出せなかった。
ずっと、好きだった。その気持ちまだある。でもそれは、他人事のように思えた。
毎年、あの方の肖像画を買い、コレクションするほど、傾倒していたと言うのに。
今は、今年の肖像画を見ても知らない人物を見ているようで、心動かされなかった。
今までの「好き」と言う気持ちが嘘のようだった。なぜ好きだったのかもわからなかった。
知らない人・・・。
以前のあの方は好きなのに、今の殿下はどうでもいい。
私の何が変わったのか?
静養のため学園は休学した。
出血をしたわりに傷は深くはなかったものの、私は以前の私ではなくなった為、学園に通えなかった。
そして、王太子妃教育も無理だと悟った。
お父様の執務室を訪ねる。
「お父様。ロベルト殿下との婚約を解消してください」
「レティシア?どうしてだ。殿下のことが好きだったのだろう」
「そうですね・・・。でも、思い出せません。殿下のお顔もお声も。あれだけ好きだったのに。何一つ思い出せないのです。むしろ、殿下に関わるものが一つずつ欠けていっている気がします。そんな者が王太子殿下を支えることなど無理ですわ」
ゆるゆると、私の記憶は低下している気がした。特に殿下に対して。
お父様も理解したのか、ゆっくりと頷いた。
「・・・わかった。わたしから陛下にお願いする。レティシア、領地に帰りゆっくりと療養しよう」
「ありがとうございます」
私は、微笑んだ。
なぜか、ほっとした。
差し出す右手は求めるものをかすりもしなかった。
貴方はあの人の手を取った。
引き合うようにして、抱きしめている。
小さくなっていく、二人の姿。
見たく、ありませんでした。
涙が溢れる。
私は目を閉じる。
見たくなくてー。
忘れてしまいたくてー。
次の瞬間、頭に、身体中に激痛が走った。
一瞬息ができなかった。
苦しかった。
それが、身体なのか心がなのかわからなかった。
目が覚めると、見知った天蓋だった。
私の部屋の私のベッド。
身体が痛い。頭が痛い。
「お嬢様!!」
メイドのリサが叫ぶ。
もう少し小さな声がいいわ。
頭に響く。
静かにして。
「・・・リ、サ?」
「旦那様を呼んできますね」
慌てて部屋を飛び出していく。
なぜそんなに泣きそうな顔をしていたのかしら?
私はゆっくりと身を起した。
ふらつく。
そっと、痛い頭に手をやると、布が巻かれていた。
包帯?
何があったのか、思い出そうにも思い出せない。
自分の手を見る。
なんだろう?
違和感がある。
それが何かはわからない。
「レティシア」
お父様とお母様が入ってきた。
顔を真っ赤にして、目を腫らして。
泣いていたのだろうか?
「おとう、さま・・・?おかあさ・・・ま?」
二人とも白髪が増えている。
目尻の皺が深くなっている。
「やっと目が覚めたのだな」
やっと、目が覚める・・・?
「良かった。良かった・・・。神よ、感謝します・・・」
私の手を取って祈る姿は、私が知るお父様の姿より小さく感じた。
こんなに、頼りなくみえたかしら?
「お父様・・・。私、何があったのですか?」
「レティシア?」
違う世界にきたように感じるのはどうして?
私は何かを忘れているの?
「覚えていないのか?」
「・・・何を、ですか?」
お父様は目を見開いて、震えた。
眉を寄せ、悔しそう?悲しそうに?なんとも言えない表情をしていた。
「学園の階段から落ちたんだ。頭・・・頭を強く打って、出血もあって・・・。二ヶ月の間、目を覚さなかったんだ・・・」
二ヶ月。
それでなんだ。
爪を見る。
どおりで、少し長いと思った。
違和感はそれかしら?
「学園から連絡を受けて行ったら、お前は救護室に運ばれていた。レティシア、あの時何があったんだ?」
何があったか?
なんだろう・・・?
「・・・わから、ない・・・」
「・・・!?」
お父様もお母様も、驚いたように私を見た。
もう一度、手を見る。
数度、手を握っては開きを繰り返した。
物足りない。何?
何かを掴みたかった?
触りたかった?
やはり、違和感がある。
なんだろう・・・。
「お嬢様?」
リサが尋ねてきた。
あまり考える事ができない。
頭が痛い・・・。
お母様は青い顔をして、言った。
「リサ。お医者様はまだ?」
「見てきます」
リサは、飛び出るように部屋を出ていった。
お医者様から、頭を強く打ったことによる、記憶障害だろうと言われた。
私は、階段から落ちた理由を何一つ覚えていなかった。
いえ、このニ年ほどの記憶も曖昧だった。
特にとある方のことを覚えていなかった。
婚約者である、ロベルト王太子殿下についてのことを、思い出せないでいた。
顔も声も思い出せなかった。
好きだと言う気持ちさえ思い出せなかった。
ずっと、好きだった。その気持ちまだある。でもそれは、他人事のように思えた。
毎年、あの方の肖像画を買い、コレクションするほど、傾倒していたと言うのに。
今は、今年の肖像画を見ても知らない人物を見ているようで、心動かされなかった。
今までの「好き」と言う気持ちが嘘のようだった。なぜ好きだったのかもわからなかった。
知らない人・・・。
以前のあの方は好きなのに、今の殿下はどうでもいい。
私の何が変わったのか?
静養のため学園は休学した。
出血をしたわりに傷は深くはなかったものの、私は以前の私ではなくなった為、学園に通えなかった。
そして、王太子妃教育も無理だと悟った。
お父様の執務室を訪ねる。
「お父様。ロベルト殿下との婚約を解消してください」
「レティシア?どうしてだ。殿下のことが好きだったのだろう」
「そうですね・・・。でも、思い出せません。殿下のお顔もお声も。あれだけ好きだったのに。何一つ思い出せないのです。むしろ、殿下に関わるものが一つずつ欠けていっている気がします。そんな者が王太子殿下を支えることなど無理ですわ」
ゆるゆると、私の記憶は低下している気がした。特に殿下に対して。
お父様も理解したのか、ゆっくりと頷いた。
「・・・わかった。わたしから陛下にお願いする。レティシア、領地に帰りゆっくりと療養しよう」
「ありがとうございます」
私は、微笑んだ。
なぜか、ほっとした。
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