上 下
23 / 33
連載

71.末っ子アルク視点

しおりを挟む
 本当にこれが実の姉なのだろうか?

 サリーナ姉様とは大違い。
 リゼッタ姉さんとも違う。

 褒められて認められるならリゼッタ姉さんは自分の為になんでもする人だった。
 褒められる度、優越感に満ちた表情をしていた。それがあったから僕は苦手だった。

 ちなみにロイド兄さんは家族の異質に背をそむけ自分本位で生きてきた人だ。誰がどうなろうと他人事のように見ていた。

 だから、僕もサリーナ姉さんもただの『兄さん』としか見ていないんだろう。
 
 まぁ、いない人はどうでもいい。


「本題ですが、僕に爵位を譲ってもらいます。母さんは精神病院に行ってもらいます。 
 僕は半年すれば18歳になります。
 もう独り立ちできる歳です。
 いつまでも『アルクちゃん』と呼ばれて変な薬を飲まされるのもこりごりですから」
「待って!お願い。お願いよ。アルクちゃん」

 母さんが縋り付くようにして叫んでくる。

 もう声も意見も聞きたくない。
 姿さえ見たくもないから、病院に入って出てこないで欲しい。

「父さんは僕に爵位を譲ったあとは伯父さんのところで畑仕事をしてください」
「アルク!お前!わたしには仕事があるんだ!!!」
「なんのです?お金を仕事ですか?
 この屋敷の仕事はすでにサリーナ姉様から僕に引き継いでいます。お金が何故使えているのか気づいていなかったのですか?が増やしていたからですよ?」
「あぁ?」
「で・す・の・で、あなたはこの屋敷にはもう必要ありません」
「そんな・・・」


 愕然としながら頭を抱える父さん。

 はぁ・・・。
 お金が勝手に増える金の袋でもあると思っていたのか?
 まったくお金を遣う事に努力してどうするんだ。
 
 本当にどうしようもない親だ。

「わたしは・・・?」

 恐る恐る聞いてくるエリーゼ姉さん。

 姉さんにはとっておきを用意している。

「姉さんはバルセルト伯爵家に嫁いでもらいます」
「バルセルト伯爵・・・。いや!嫌よ。だってバルセルト伯爵ってわたしより20歳も上のおじさんじゃない。そんな所に行けと言うの?」
「ええ。3年前奥様と息子さんをエフタール風邪で亡くされました。歴史の古いので直系の後継を求めているらしく若くて元気な女性をご所望らしいです」
「やだやだやだ!!」

 五月蝿いなぁ。
 少しは黙ってくれないかな?

 自分がどんな立場にいるかわかっているのか?

「では、どうやって姉さんは借金を返すのですか?当てはありますか?」
「それは・・・。アルク!お願い!アルクが返して!」
「嫌ですよ。我が家に不良債権はいりません。
 今ならバルセルト伯爵がその借金ごと引き受けてくれるそうですから、安心してください」

 にっこりと笑って見せると、姉さんは力が抜け、人形のようにソファーにもたれかかった。

 まだ五月蝿い母さんと父さんを部屋に押し込めるように従僕に言い、姉さんも侍女に支えられて部屋に帰って行った。

 僕はふぅ、吐息をついた。
 ネクタイを緩め首元のボタンを一個外す。

「やっと終わりましたね」

 セバスが紅茶を淹れてくれた。
 香りがいい。

「まだだよ。これからが僕のスタートだ」
「お力になります」
「よろしく。そう言えば近況報告はある?」

 セバスはニコニコ笑いながら、懐から手紙を取り出して広げた。

「風邪が治ってからはまた元気に働いているようです。胎動もよくわかるらしく楽しいそうです。薬作りもそろそろ終わりが見えてきているようです」

 誰が?とは聞かない。
 でも、それを聞いて僕は嬉しくなった。

「よく、そのヘナヘナの文字読めるよね」

 手紙の主のヘナヘナの文字を思い出す。
 セバスチャンも笑っていた。

「自分でも不思議ですがの癖を知れば簡単ですよ。お知りになられますか?」
「いや、やめとく。それはセバスに任せるよ。・・・エフタール風邪になったからどうなるかと心配だったけど、元気そうで良かった」

 前回の手紙を読まれた時は怖かった・・・。
 手紙の途中だというのに走って帝国に行こうかと思ったくらいだ。
 でも、完治したことまで書かれていたのでほっとしたのを覚えている。

 手紙の主であるマリーンは、セバスの従兄妹だ。サリーナ姉様の家庭教師・・・ライラ先生の子供。彼女とその夫がエフタール風邪で亡くなり、天涯孤独になったマリーンを気にかけサリーナ姉様が研究員として迎え入れたのだ。
 もともと研究好きの変わり者だったのも良かったのかもしれない。

 サリーナ姉様の近くにはいい人ばかり集まったものだ。

 会った事はないがマリーン経由でレフリーさんからも手紙をもらったことがある。彼もいい人のようで安心している。
 きっと姉様は大丈夫だろう。

 

 さて、実は僕はグランド商会に投資している。
 ハリエルド商会の為に裏で手伝いをしようかな。
 サリーナ姉様の為にも頑張りたい。


 気が早いがサリーナ姉様のお祝いを何にしよう。
 夏前には生まれるか?
 マリーンからの報告がきたら、一度帝国に行こう。

 それを楽しみにしながら、僕は働くのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

婚約を正式に決める日に、大好きなあなたは姿を現しませんでした──。

Nao*
恋愛
私にはただ一人、昔からずっと好きな人が居た。 そして親同士の約束とは言え、そんな彼との間に婚約と言う話が出て私はとても嬉しかった。 だが彼は王都への留学を望み、正式に婚約するのは彼が戻ってからと言う事に…。 ところが私達の婚約を正式に決める日、彼は何故か一向に姿を現さず─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。