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65.ポーラ視点
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まったく、サリーナ、いえ、リサは迷惑なのを押し付けてくれた。
万年筆代と領地経営の報酬の受け取り窓口になる事と、エフタール風邪の薬を内密に広めること。
私を窓口にしてくれたおかげで、アルスターニ伯爵家の元メイドたちを捕獲することになってしまった。だって、身から出た錆で、仕事に就けなくなっていたのだも。
踏み倒されたら困まってしまう。きちんと回収しなくてはならない。
なら、これから人手もいることだし、丸々雇っちゃえって思って連れてきた。
基本の教育は大丈夫だから接客もできるだろうけど、アルスターニ伯爵にはバレないようにしなくちゃならないから、裏仕事をさせましょう。ここで雇っているのがわかれば、『考える』ことをしなくなるかもしれない。
雇った者たちは弱音を吐いていたけど頑張ってもらわないとー。
同じく捕獲した執事さんには納品チェックの仕事を与えた。自分より年下から罵声が飛んでいる。自尊心もボロボロかしら。
私はエフタール風邪の状況把握とともに、薬のことをオーランド様の代理としてきた者と話をしていた。
オーランド様も忙しいようだ。
リサにこき使われているに違いないわ。
全てを捨てた割には、まだ、忙しくしているのだから、呆れる。
でも、手紙を見る限り楽しそうなので何よりでよかった。
こちらでは、王子が生まれた喜びで目を逸らしているのか、それとも楽観視しているのか、エフタール風邪に対しての対策の進展が遅かった。
それに引き換え、リサはよく見ている。オーランド様も、そして皇帝陛下も。すでに行動を起こしていた。
私もその仲間に入っている。
この国では認可されていない薬を広めることを上にバレたら捕まるかもしれない。
それでも、動かなければ3年前の悲劇が再び起こる。
だから私たちは薬を内密で輸入した。
グランド商会との関係も一時休戦し、力を貸してくれている。お茶会での一件では彼女たちも思う所はあったようだった。文句の一つも言わずに頼んだ仕事をしてくれている。
平民にはコイン一枚で売る。
二日分のパンが買えるほどの価値。
真面目に働けば十分に手に入る。
貴族には数倍の値段で。
そうしなければ生産費もでない。
平民にも行き渡らない。
風邪が少しずつ蔓延していった。
死ぬ人を減らす為に薬を内密で売る。
一人一本。
お金がない人は働いてもらった。
ただ売りなんてお断りだから。
でも、そのお金が賄えない人もいるのだから、国の政策はどうなっているのかしら?
だから、中には貴族には薬を高額で売る者もいた。
悪いが、次からは売らなかった。
私が人を覚える能力が長けていて良かった。人の顔は名前は別として一度見たら覚えている。だから2度目は拒否できた。私の負担は大きいけど、こればかりは仕方ない。
泣こうが喚こうが知らない。泣いて縋ってきても跳ね除けた。
自分の命よりお金を取ったのが悪いのよ、そう思いながら。
全部を平等にしたいと思っても、どうしても切り捨てなければならないことがあるのだと思うと辛かった。
あれもこれもと欲をかいても全てが手に入るものでない事を知っている。だから、どこかで折り合いをつけて、割り切らなくてはならない。
サリーナの善意に胡座をかいて自分の行いを正当化しようとする元メイドたちに対しても同じことだった。
少しでも自分の罪と向き合って欲しい。
答えはいくつもある。
私にできるのはそれに気づいて貰うこと。
どんな結末だろうとも・・・。
下町の一角で薬を販売していた時、物陰でハンスさんが小さな子供を抱えた母親に薬を無断であげているのを見てしまった。
私はあの母親には以前薬を売ったことがあるのを思い出した。
「ハンスさん。決まりごとを無視しないでください」
「わたしの分です」
私の商会に来た頃より、彼は痩せた。
彼はほぼ自分の給料をサリーナの報酬などの返済にあてていた。
彼は彼で思うことがあるのだろう。
それでも、すこしやりすぎだと思う。
彼は何を思っているのかは一切教えてくれなかった。元メイドだったものはサリーナの為に頑張ろうとしているようだったが、彼は何か違う。
彼は作り物のような笑みを浮かべた。
「わたしは・・・醜く生きてしまったようです」
「私は聖人君子で生きている人間がレアだと思うわ。私利私欲、自己満足、物欲、欲を満たす為に生きている方が多いはずよ。そのほうが人間らしいとは思うけど」
「それでも、サリーナ様の善意につけ入りました」
そこなのね・・・。
あなたの思い残しは・・・。
「ならば、サリーナの為に頑張ればいいでしょう。みんなも頑張ってるわ」
「しがない老体です」
この人は何も残っていないと思っているのかも知れない。
もう何を言っても届かないのかもしれない。
私はそれ以上何も言えなかった。
その数日後ハンスさんは死体になって発見された。
犯人はハンスさんが薬をあげた女性だった。薬をまた恵んでもらおうと近づき、断られたことに腹を立てての犯行だった。
女性は捕まり投獄された。彼女の子供はエフタール風邪で死んだと後で聞いた。
後日、ハンスさんの部屋を整理していると、サリーナに当てた書きかけの手紙が置いてあった。
そこにはサリーナへの謝罪の文が綴られているのがわかった。
私は・・・レフリーに送った。
内容を見て判断してからサリーナに渡してあげて欲しいと・・・。
エフタール風邪はやはり嫌いだ。
自分の無力さを嫌でも痛感する。
それでも、逃げる事はできない。
早く・・・、これが早く収まりますように・・・。
万年筆代と領地経営の報酬の受け取り窓口になる事と、エフタール風邪の薬を内密に広めること。
私を窓口にしてくれたおかげで、アルスターニ伯爵家の元メイドたちを捕獲することになってしまった。だって、身から出た錆で、仕事に就けなくなっていたのだも。
踏み倒されたら困まってしまう。きちんと回収しなくてはならない。
なら、これから人手もいることだし、丸々雇っちゃえって思って連れてきた。
基本の教育は大丈夫だから接客もできるだろうけど、アルスターニ伯爵にはバレないようにしなくちゃならないから、裏仕事をさせましょう。ここで雇っているのがわかれば、『考える』ことをしなくなるかもしれない。
雇った者たちは弱音を吐いていたけど頑張ってもらわないとー。
同じく捕獲した執事さんには納品チェックの仕事を与えた。自分より年下から罵声が飛んでいる。自尊心もボロボロかしら。
私はエフタール風邪の状況把握とともに、薬のことをオーランド様の代理としてきた者と話をしていた。
オーランド様も忙しいようだ。
リサにこき使われているに違いないわ。
全てを捨てた割には、まだ、忙しくしているのだから、呆れる。
でも、手紙を見る限り楽しそうなので何よりでよかった。
こちらでは、王子が生まれた喜びで目を逸らしているのか、それとも楽観視しているのか、エフタール風邪に対しての対策の進展が遅かった。
それに引き換え、リサはよく見ている。オーランド様も、そして皇帝陛下も。すでに行動を起こしていた。
私もその仲間に入っている。
この国では認可されていない薬を広めることを上にバレたら捕まるかもしれない。
それでも、動かなければ3年前の悲劇が再び起こる。
だから私たちは薬を内密で輸入した。
グランド商会との関係も一時休戦し、力を貸してくれている。お茶会での一件では彼女たちも思う所はあったようだった。文句の一つも言わずに頼んだ仕事をしてくれている。
平民にはコイン一枚で売る。
二日分のパンが買えるほどの価値。
真面目に働けば十分に手に入る。
貴族には数倍の値段で。
そうしなければ生産費もでない。
平民にも行き渡らない。
風邪が少しずつ蔓延していった。
死ぬ人を減らす為に薬を内密で売る。
一人一本。
お金がない人は働いてもらった。
ただ売りなんてお断りだから。
でも、そのお金が賄えない人もいるのだから、国の政策はどうなっているのかしら?
だから、中には貴族には薬を高額で売る者もいた。
悪いが、次からは売らなかった。
私が人を覚える能力が長けていて良かった。人の顔は名前は別として一度見たら覚えている。だから2度目は拒否できた。私の負担は大きいけど、こればかりは仕方ない。
泣こうが喚こうが知らない。泣いて縋ってきても跳ね除けた。
自分の命よりお金を取ったのが悪いのよ、そう思いながら。
全部を平等にしたいと思っても、どうしても切り捨てなければならないことがあるのだと思うと辛かった。
あれもこれもと欲をかいても全てが手に入るものでない事を知っている。だから、どこかで折り合いをつけて、割り切らなくてはならない。
サリーナの善意に胡座をかいて自分の行いを正当化しようとする元メイドたちに対しても同じことだった。
少しでも自分の罪と向き合って欲しい。
答えはいくつもある。
私にできるのはそれに気づいて貰うこと。
どんな結末だろうとも・・・。
下町の一角で薬を販売していた時、物陰でハンスさんが小さな子供を抱えた母親に薬を無断であげているのを見てしまった。
私はあの母親には以前薬を売ったことがあるのを思い出した。
「ハンスさん。決まりごとを無視しないでください」
「わたしの分です」
私の商会に来た頃より、彼は痩せた。
彼はほぼ自分の給料をサリーナの報酬などの返済にあてていた。
彼は彼で思うことがあるのだろう。
それでも、すこしやりすぎだと思う。
彼は何を思っているのかは一切教えてくれなかった。元メイドだったものはサリーナの為に頑張ろうとしているようだったが、彼は何か違う。
彼は作り物のような笑みを浮かべた。
「わたしは・・・醜く生きてしまったようです」
「私は聖人君子で生きている人間がレアだと思うわ。私利私欲、自己満足、物欲、欲を満たす為に生きている方が多いはずよ。そのほうが人間らしいとは思うけど」
「それでも、サリーナ様の善意につけ入りました」
そこなのね・・・。
あなたの思い残しは・・・。
「ならば、サリーナの為に頑張ればいいでしょう。みんなも頑張ってるわ」
「しがない老体です」
この人は何も残っていないと思っているのかも知れない。
もう何を言っても届かないのかもしれない。
私はそれ以上何も言えなかった。
その数日後ハンスさんは死体になって発見された。
犯人はハンスさんが薬をあげた女性だった。薬をまた恵んでもらおうと近づき、断られたことに腹を立てての犯行だった。
女性は捕まり投獄された。彼女の子供はエフタール風邪で死んだと後で聞いた。
後日、ハンスさんの部屋を整理していると、サリーナに当てた書きかけの手紙が置いてあった。
そこにはサリーナへの謝罪の文が綴られているのがわかった。
私は・・・レフリーに送った。
内容を見て判断してからサリーナに渡してあげて欲しいと・・・。
エフタール風邪はやはり嫌いだ。
自分の無力さを嫌でも痛感する。
それでも、逃げる事はできない。
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