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64.元メイドの女視点2

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 私はポーラ様に連れられ、ハリエルド商会に行った。

 そこにはかつての仲間たちがいた。彼らも同じ頃に来たようだった。久々の再会に喜び合った。
 みんなも同じような目に遭っていたようだった。

「あなたには今日からここで働いてもらうわ。サリーナに対しての返金があるわよね?」

 ポーラ様は全てを知っているみたいだった。

 私たちはここでしかもう働く所はないのかもしれない。

 あんな冷たい視線に苛まれての生活は嫌だ。ひどい言葉をかけられたくない。

 ここなら、雨風も防げる。
 
 安心したのも束の間だった。

「あなた方にはしっかり働いてもらうわ。給料の半分は差し押さえせてもらうわ。食事もギリギリかしらね」

 ポーラ様は見下したように見てきた。

 可愛い顔が怖く見えた。
 何故か花カマキリを思い浮かべてしまった。

「サリーナの為にしっかり働きなさい」

 そう言って踵を返し去って行ってしまった。

 
 それからの私たちの生活は辛かった。

 肉体的にも精神的にもしんどかった。朝から夕方まで仕事。朝晩のご飯は出してくれた。休みもくれたが、どこかに行く体力は残っていなかった。
 辛くて、しんどくて何度も泣いた。
 辞めたいと何度も思ったが、辞めさせてももらえなかった。
 賃金の半分はわざわざアルスターニ伯爵家に届けられるので、手元に残るお金では贅沢品や嗜好品さえ買うどころか一カ月の生活費に消えるだけで終わった。

 ハンスさんも見かけた。
 彼もやつれ目が窪んでいた。

 ポーラ様に聞いてみると、ハンスさんもハリエルド商会で働いているそうだった。

 歳がいっての慣れない環境だからなのか・・・。

 そんな中、エフタール風邪が流行し始めた。

 ハリエルド商会が忙しくなっていった。

 ハリエルド商会の倉庫に茶色の小瓶が入った木箱が並ぶ。

「あなたたちにはこれから市井のみんなに配って貰うことになるわ。飲み終えたら、小瓶は回収すること」

 ポーラ様の言葉に首を傾げた。

「これはなんですか?」

 同僚のメニラが手を挙げて聞いた。

「エフタール風邪の薬よ。あなたたちが嫌っていたサリーナが仲間たちと作り上げたものよ」

 えっ?

 サリーナ様が?

 サリーナ様を思い出した。
 
 この数ヶ月、ハリエルド商会に来てからサリーナ様の噂はたくさん聞いた。王太子妃殿下のお茶会の件も、ポーラ様と他の公爵夫人の立ち話から真相が聞こえてもきた。聞くたびに自分たちの行いが恥ずかしくなった。

 私たちはなんてことをしてきたのだろう。

 後悔しても遅かった。


 
 風邪は猛威をふるい始めた。
 風邪薬は量はあまり多いものではなかった。そして、それをコイン一枚で提供することになった。

 それも一人一本まで。

 この薬を求めて混雑や暴動だって起こる。それの対処するのに私たちが動くのだ。

 お金がない人にはどうするの?放っておくの?贔屓になる。

 ポケットに入れていた万年筆を触った。
 これの金額を聞いた時血の気が引いたのを覚えている。
 これを売ればそれなりのお金になるかも・・・。それで・・・。

 いてもたってもいられず、ポーラ様に相談してみると、ポーラ様は私の手を引いて人影のない物陰へ引き入れた。

「あなたたちのくだらない正義感はかざさないで。計画性のない施しなんて邪魔よ。私たちはちゃんと考えて動いているの!」

 そんな・・・。

 私の考えは間違っていたのだろうか・・・。

「確かにあなたのやりたいことはわかるわ。でもそのやり方が違うと言ってるの。それはサリーナの物でしょう。あなたの物じゃないはずだわ。
 そんなものでの施して人は喜ぶの?あなた自身が自己満足に浸りたいだけでしょう?」

 ・・・そうだ。
 これは私のでは、ない。


「自分で何ができるかもう一度考えなさい!!」

 ポーラ様は手を離すと仕事に戻って行った。

 私は泣いた。

 惨めだった。

 いっぱい泣いた。

 泣いたら少しだけすっきりした。涙を拭い顔を上げる。ぐっと歯を食いしばる。

 私の償いは終わっていないのだ。

 今できることをしよう。
 私に何ができるかはわからない。

 でも、笑いかけよう。
 困っている人の為に手をつくそう。


 私は立ち上がり仕事場に向かった。

 
 みんな笑っている。

 苦しくても・・・。

 


◇◇◇◇◇

 エフタール風邪が治ったあと、私はポーラ様の前にたった。


「いずれサリーナ様にお会いして、を直接返したいです」

 私はずっと持っていた万年筆を取りだした。
 
 ハンカチに大事に包んでずっと持っていた。

 ポーラ様は何も言わずにじっと私の顔を見ていた。
 試されているのだろうか?

 それでもいい。
 私は決めている。

「そして、謝りたいです」
「そっ。ならサリーナを真っ直ぐに顔が見れるように頑張りなさい」
「・・・はいっ!」

 私は涙を流した。

 これを返す為に必ず会いに行く。

 そして謝るなのだ。
 それが許されなくてもー。

 それまで、私は頑張ると決めた。
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