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三章、サネイラ国
16歳ー6
しおりを挟むユーノ様と別れてからサネイラ国の王宮にアウスラー先生と伴って交渉に向かった。
途中レイドリック殿下の側近だと名乗るバルト様に出会い王宮に乗り込んだ。
彼もユーノ様と同類の人間見えた。
サネイラ国の王族を相手に、バルト様が求めたのは無条件降伏。
だが交渉は決裂し、彼らはわたしに本でしか見たことがなかった『銃』を向け撃ってきた。
周囲に結界を張っているため、『銃』を防ぐ。
「そんなもの効きませんよ」
にこにこと隣で笑うバルト様が薄気味悪く思えた。
それは、相手も同じだった。
『銃』が効かないとわかったのか、レイを連れてきた。後ろ手に縄で縛られている。
「こいつがどうなっても構わないのか!」
暴行されたのか、怪我をしているのか服が薄汚れ血がついている。
逃げなかった。
手を出さなかったに違いない。
わたしはレイの精霊を知らない。だけど、セイカの様子から上位だと思う。だとすれば怪我なんてするわけはない。なのにこんな状況なのは、彼が誰も傷つけたくなかったからだ。
「エルファ?何で・・・」
レイはわたしがいることが意外そうだった。
「レイザード様、情けないですね」
バルト様が呆れたようにため息をつく。
「なぜバルトまでいる?」
「黙れ!捕虜が!!」
サネイラ国の兵士がレイを殴った。
レイ!!
バルト様とサネイラ国の宰相たちが言い争い始める。
何を言っているのだろうか?そんな風に感じた。
教科書や本にはこんなこと書いていなかった。わたしの知らないことが起きているように思えた。
何もできないわたしにバルト様が囁いた。
「何をしているのですか?あなたの出番ですよ」
『エル、聞くな!!』
セイカの声。
それよりバルト様の声がエコーするように聞こえた。
「レイザード様を助けることができるのはあなただけです。今助けなければ命の危機に晒されます」
『あいつの精霊がそんなことをさせるわけない!エル!!』
セイカのいうことはわかっている。なのに・・・命の危機と聞いて心がざわつく。
「殿下の約束を忘れたのか?レイザード様の命は殿下が握っている。君はそのためにここにきたんだろう?早くしないとレイザード様が殺されますよ」
喉が震えた。
どうすればいいかわからなくなる。
「エルファ!」
「エルファ様!」
『エル!聞くな』
「黙れ!静かにしろ!!」
サネイラ国の兵がレイに『銃』を向けた瞬間、わたしの意識が飛び辺りが青い光に覆われた。
「ジニー!」
『エルッ!!』
「ウェンディー!!」
三つの声が聞こえた気がした。
気づけば青い炎がサネイラ国の城中を包んでいた。
わたしは人型になったセイカの胸の中で呆然としていた。
わたしは何をしたのだろうか・・・?
目の前に広がるサネイラ国の兵士の死体があった。
「すまん。エルの感情に引きずられた・・・」
血を流して死んでいる兵士たちを見せないようにしているセイカだったが、わたしは見てしまった。
引き攣った表情がある。それならまだいい。手足が胴体が引きちぎられているという表現が正しいものもいる。
『見るも無惨』とはこういうのをいうのだろう。
わたしが殺した・・・。
変わらない現実を突きつけられた。
わたしが我を忘れて魔術を奮ってしまったからこそ起きた現状だ。
力の制御はできるはずだった。
だが、一時でも感情のリミッターを失った自分の力は脅威としかいいようはなく、忌々しい力に感じてしまった。
自分のしてしまったことに震えた。
「あっ・・・、あっ・・・」
涙が溢れ出す。
吐き気がした。
口元を抑え、必死で飲み込もうとした。
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