燐火の魔女〜あなたのために生きたわたし〜

彩華(あやはな)

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三章、サネイラ国

16歳ー5

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 彼は話し終えた後、気が抜けたのかわたしの簡易ベッドで毛布にくるまるように寝むってしまった。

 わたしはそれを確認して外に出る。寝屋であるテント自体に結界を張った。
 誰も立ち入らないように、彼・・・トーマス自身が逃げ出して誰かに危害を受けられないように。

「エルファ様、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」 

 アウスラー先生が近づいてきた。

「大丈夫です。それよりユーノ様は?」
「ユーノ様・・・?あぁ、丘の上にいましたが。どうされました?」
「少し話があるので、行ってきます」
「ついていきますよ」

 アウスラー先生も?

 わたしのためらいがわかったのか、先生は悟ったような顔で笑ってきた。

「思い詰めすぎです。私はエルファ様の側近に立候補しました。何があっても私はあなたの味方です」
「・・・わかりました」

 何を言っても無理だろう。

 わたしは先生と共にユーノ様に会いに行った。
 彼はアウスラー先生を見て、眉を僅かに寄せたがわたしは気にせずに言った。

「レイをサネイラ国への交渉役にしたのは本当ですか?」
「彼から聞きましたか?本当ですよ。彼の安全を保証する代わりに交渉役をかっていただきました」
「最低ですね」
「なんとでもどうぞ」

 レイは従属交渉のためサネイラ国の王宮にいる。
 トーマスの命を保証する代わりにとレイが行ったのだという。

 どれだけの時間がかかっている?
 いまだにレイが帰って来ていないとなれば、交渉は炸裂したのだろう。
 なのに、この男は冷静にしている。

「どうするつもりですか?」
「もちろん。あなたに出てもらいたいのですよ。彼を救いたいでしょう?あなたが頑張ればすぐに終わりますよ」
 
 にこにこと笑うユーノ様。

「本当にいい魔道具ができました。こちらはこの魔道具があれば、どうにでもなりますね。ですので、あなたにはすぐにでも、城に向かってもらいましょうか」
「・・・すべてレイドリック殿下の思惑通り、ですか?」
「さぁ、どうですかね?」

 唇を噛み締めた。
 血の味が広がる。そうしないと、我慢できそうになかった。
 この薄ら笑いする男の頬に一発おみまいできたならどんなにいいか。でも、トーマスのこともある。レイのことも・・・。

「・・・行って来ます」 

 拳を握りしめて逃げるようにして背を向けて歩き出した。

「いい報告をお待ちしてますよ」
 
 後ろから聞こえる軽い言葉から逃れるように足を速めた。

「エルファ様」

 後をついて来ていていたはずのアウスラー先生が隣にいた。

「きちんと話してください。あなたの力になりますから」

 真剣な表情に息がつまる。
 長く息を吐き、大きく息を吸い込んだ。

「歩きながら話します。誰にも言わないと誓ってくれますか?」
「誓います。ですから、1人で背負わないでください」 

 わたしは、泣きたいのを我慢して話をした。

 


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