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三章、サネイラ国
レイザード 4
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火の粉が舞う。
あたりを真っ赤に照らし、街を焼き尽くしている中、走っていた。
僕は世話になっていた者はすでに国外退避している。
屋敷の主人であるオーシャス伯爵は最後まで僕に避難を勧めてくれたが、まだ僕にはやることがあった。
どうしてもトーマスが気になったのだ。
二日前からサブリナ国が攻めてきている。
初めは国境付近のせめぎ合いだったが、たった10日で、サブリナ国は中央まで進軍してきた。
レイドリックならやると決めたらやるのはわかっていた。でもまさか、王都に来るのがこんなに早いとは思っていなかった。魔術師たちがあまりいないが鉄武器などに優れているいるサネイラがこう簡単に落とされようとしているとは・・・。
少しでも街の人たちの非難が間に合わなかった。
無力な自分がいる。
「トーマス!」
建物は崩れていたがまだ火まではきていないトーマスの家に安堵する。
どこだ!どこにいる!
何度かきたことのある家の中を探しまくった。
「とーちゃん!とーちゃん!!」
工房から声が聞こえてくる。
僕は声のする方へと行くと、崩れた柱の下敷きになっている父親を必死に助けようとしているトーマスがいた。
「トーマス!」
「ザード!とーちゃんが!!」
僕は駆け寄り、ぐったりとしている彼の父親の腕を取ったが、すでに脈はなかった。
「・・・死んでる・・・」
「嘘だ!やだよ。とーちゃん、いやだ!死んじゃやだ!まだ、なんも教わってない。起きろよ!目を開けろよ」
トーマスは父親の腕をひっぱったり、揺さぶったりする。
彼の気が済むまではと思ったが、外が赤くなっていくのを見て勤めて冷静に声をかけた。
「トーマス。ここを出よう。火が回る」
「いやだ!とーちゃんをこのままにしたくない!」
父親の手を握りしめたまま、がんとしても動かない。
僕は覚悟を決めゆっくり息をはいた。
「ジニー」
『はいはい。任せなさい』
虚空に向かって頼むと、突如ジニーが現れとびっきりの笑顔で人差し指を動かした。
「ザード?」
驚くトーマスを無視する。
柱は勝手に動き出すと一本ずつ端に移動し、最後に彼の父親が現れた。
「おまえ、精霊が使えるのか?」
「・・・黙っていて、ごめん・・・」
「いや・・・」
トーマスは父親の手と手を重ね合わせ泣きながら祈りを捧げた。
こんな時は何と言えばよいのかわからない。
「こんなことしかできなくて、ごめん」
「ザード。ありがとう・・・」
トーマスは涙を拭い、僕を見あげてきた。
最期の別れができたのか、いつものトーマスに見える。
「トーマス。ここを離れよう。火が回る・・・」
「そう・・・だな。どこが安全か・・・」
2人で外に出る。
南側の空が夕焼けのように赤い。
「まだ火の手がない北か・・・」
「そうだな」
走り出そうとした時、騒がしい音が近づいてきているのが聞こえてきた。
背筋がぞわりとした。逃げなければと頭に警告音がなる。
「敵か?」
「トーマス逃げろ」
「何言ってんだよ。ザードも急げ」
違う!
早く逃げて欲しい。早くー。
僕の前にレイドリックの側近であるバルトとユーノが現れた。
「レイザード様。ここにいましたか?」
「ユーノ、バルト・・・」
「ザード?」
一番知られたくない親友の前で僕の本当の名前が呼ばれる。
2人は僕を見て、薄気味悪く笑らっていた。
あたりを真っ赤に照らし、街を焼き尽くしている中、走っていた。
僕は世話になっていた者はすでに国外退避している。
屋敷の主人であるオーシャス伯爵は最後まで僕に避難を勧めてくれたが、まだ僕にはやることがあった。
どうしてもトーマスが気になったのだ。
二日前からサブリナ国が攻めてきている。
初めは国境付近のせめぎ合いだったが、たった10日で、サブリナ国は中央まで進軍してきた。
レイドリックならやると決めたらやるのはわかっていた。でもまさか、王都に来るのがこんなに早いとは思っていなかった。魔術師たちがあまりいないが鉄武器などに優れているいるサネイラがこう簡単に落とされようとしているとは・・・。
少しでも街の人たちの非難が間に合わなかった。
無力な自分がいる。
「トーマス!」
建物は崩れていたがまだ火まではきていないトーマスの家に安堵する。
どこだ!どこにいる!
何度かきたことのある家の中を探しまくった。
「とーちゃん!とーちゃん!!」
工房から声が聞こえてくる。
僕は声のする方へと行くと、崩れた柱の下敷きになっている父親を必死に助けようとしているトーマスがいた。
「トーマス!」
「ザード!とーちゃんが!!」
僕は駆け寄り、ぐったりとしている彼の父親の腕を取ったが、すでに脈はなかった。
「・・・死んでる・・・」
「嘘だ!やだよ。とーちゃん、いやだ!死んじゃやだ!まだ、なんも教わってない。起きろよ!目を開けろよ」
トーマスは父親の腕をひっぱったり、揺さぶったりする。
彼の気が済むまではと思ったが、外が赤くなっていくのを見て勤めて冷静に声をかけた。
「トーマス。ここを出よう。火が回る」
「いやだ!とーちゃんをこのままにしたくない!」
父親の手を握りしめたまま、がんとしても動かない。
僕は覚悟を決めゆっくり息をはいた。
「ジニー」
『はいはい。任せなさい』
虚空に向かって頼むと、突如ジニーが現れとびっきりの笑顔で人差し指を動かした。
「ザード?」
驚くトーマスを無視する。
柱は勝手に動き出すと一本ずつ端に移動し、最後に彼の父親が現れた。
「おまえ、精霊が使えるのか?」
「・・・黙っていて、ごめん・・・」
「いや・・・」
トーマスは父親の手と手を重ね合わせ泣きながら祈りを捧げた。
こんな時は何と言えばよいのかわからない。
「こんなことしかできなくて、ごめん」
「ザード。ありがとう・・・」
トーマスは涙を拭い、僕を見あげてきた。
最期の別れができたのか、いつものトーマスに見える。
「トーマス。ここを離れよう。火が回る・・・」
「そう・・・だな。どこが安全か・・・」
2人で外に出る。
南側の空が夕焼けのように赤い。
「まだ火の手がない北か・・・」
「そうだな」
走り出そうとした時、騒がしい音が近づいてきているのが聞こえてきた。
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「敵か?」
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「何言ってんだよ。ザードも急げ」
違う!
早く逃げて欲しい。早くー。
僕の前にレイドリックの側近であるバルトとユーノが現れた。
「レイザード様。ここにいましたか?」
「ユーノ、バルト・・・」
「ザード?」
一番知られたくない親友の前で僕の本当の名前が呼ばれる。
2人は僕を見て、薄気味悪く笑らっていた。
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