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三章、サネイラ国
16歳ー3
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魔術騎士団の制服を着るのは3回目だった。
一度目は入団式、二度目は王立祭の式典の時である。
三度目は戦争とは思わなかった。
白いシャツに紺色のジャケットとパンツ。金色と赤の縁取りのアクセントに左腕には国の紋章が刺繍されている。
わたしは長い髪を三つ編みにして邪魔にならないようにしていた。切ってしまおうかとも考えだが、アスナルド様やアウスラー先生が猛反対されたのでこのままだ。
あの日レイドリック殿下のところから帰ったわたしを2人は暖かく迎えてくれた。話の内容を聞いて嘆いた。叱ってきた。
戦争がいかなるものか語ってきた。
なんと言おうとも決定事項だというのに。
で、なぜかアウスラー先生がわたしの側近という立場で、隣に立っている。
「見張っていないと何をしでかすかわからないので、私も行くことにしました」
陛下たちへの出征挨拶の直前に現れ、そう淡々と言ってきた時には驚いてしまった。
あれだけわたしが戦争に行くことを拒否した先生がいるとは思わないだろう。先生なら研究の方でもやっていけるのだから、絶対にないことだと考えていた。
思わず涙ぐんでしまったのは仕方ないことといえる。
先生がいるのであれば心強く思えた。
出発する前、上司であるブライド隊長がいかつい顔でわたしを見る。
「こんな少女を駆り出すとは、この国も落ちたものだ」
周りを見てもわたしより下はいなかった。
20歳以上の男だらけの周りを改めて見回す。
わたしは歓迎されていないようだ。わたしを知っている者はともかく、知らない者の眼差しは邪魔者を見るようなものだったり、女ということで、邪な視線だったりする。
「こいつに手を出すなよ。手を出せば確実にお前らが死にかけるからな。不能になってもいい覚悟をしてからにしろよ」
「ブライド隊長!」
ー不能?なんのことを言っているのか?
「エルは気にするな。もし不埒なものがいれば排除する」
たくさんの思惑を秘めた視線にセイカがぶわりと身体を大きくした。
いつもの丸いフォルムではなく、初めて出会った時のようなすらりと首の細長い、それでいて羽も大きく尾も長い姿。夜空を思わせるような目が男たちを睨んだ。
あまりの迫力に誰もが怯えている。
「セイカ!」
「鸞様!」
「おい!!」
わたしたちの声でセイカはふんっとそっぽを向くと、また丸い姿に戻った。
可愛い。
セイカを腕に抱えると、ふわふわの頬をわたしの腕に擦り付けてきた。
「ありがとう。セイカ」
『・・・・・・』
セイカの気持ちが嬉しかった。
「鸞様がいるから大丈夫か。では、出発する!」
ブライド隊長の言葉に顔をあげ、気を引き締めた。
わたしたちはできたばかりの魔道具を携えてサネイラ国に向かった。一ヶ月の進軍だった。
一度目は入団式、二度目は王立祭の式典の時である。
三度目は戦争とは思わなかった。
白いシャツに紺色のジャケットとパンツ。金色と赤の縁取りのアクセントに左腕には国の紋章が刺繍されている。
わたしは長い髪を三つ編みにして邪魔にならないようにしていた。切ってしまおうかとも考えだが、アスナルド様やアウスラー先生が猛反対されたのでこのままだ。
あの日レイドリック殿下のところから帰ったわたしを2人は暖かく迎えてくれた。話の内容を聞いて嘆いた。叱ってきた。
戦争がいかなるものか語ってきた。
なんと言おうとも決定事項だというのに。
で、なぜかアウスラー先生がわたしの側近という立場で、隣に立っている。
「見張っていないと何をしでかすかわからないので、私も行くことにしました」
陛下たちへの出征挨拶の直前に現れ、そう淡々と言ってきた時には驚いてしまった。
あれだけわたしが戦争に行くことを拒否した先生がいるとは思わないだろう。先生なら研究の方でもやっていけるのだから、絶対にないことだと考えていた。
思わず涙ぐんでしまったのは仕方ないことといえる。
先生がいるのであれば心強く思えた。
出発する前、上司であるブライド隊長がいかつい顔でわたしを見る。
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わたしは歓迎されていないようだ。わたしを知っている者はともかく、知らない者の眼差しは邪魔者を見るようなものだったり、女ということで、邪な視線だったりする。
「こいつに手を出すなよ。手を出せば確実にお前らが死にかけるからな。不能になってもいい覚悟をしてからにしろよ」
「ブライド隊長!」
ー不能?なんのことを言っているのか?
「エルは気にするな。もし不埒なものがいれば排除する」
たくさんの思惑を秘めた視線にセイカがぶわりと身体を大きくした。
いつもの丸いフォルムではなく、初めて出会った時のようなすらりと首の細長い、それでいて羽も大きく尾も長い姿。夜空を思わせるような目が男たちを睨んだ。
あまりの迫力に誰もが怯えている。
「セイカ!」
「鸞様!」
「おい!!」
わたしたちの声でセイカはふんっとそっぽを向くと、また丸い姿に戻った。
可愛い。
セイカを腕に抱えると、ふわふわの頬をわたしの腕に擦り付けてきた。
「ありがとう。セイカ」
『・・・・・・』
セイカの気持ちが嬉しかった。
「鸞様がいるから大丈夫か。では、出発する!」
ブライド隊長の言葉に顔をあげ、気を引き締めた。
わたしたちはできたばかりの魔道具を携えてサネイラ国に向かった。一ヶ月の進軍だった。
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