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三章、サネイラ国
16歳ー2
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例の魔道具が完成したのは2ヶ月後のことだった。
魔術の短略化もそうだったが、魔石の種類魔道具の形をもう一度最初から考えたのが、良かったのだと思う。
国王陛下とレイドリック殿下に出来上がったのを献上する。その数日後、この魔道具の大量生産が命令された。
「やられたっ・・・」
研究室で上司からその話を聞いたアスナルド様は机を叩いた。
「アスナルド様?」
「国防のためだと聞かされていたのに・・・」
アスナルド様は今にも倒れてしまいそうなほど顔色が悪かった。
「アウスラー、エルファ。戦争が始まる」
思いがけない言葉に、息を呑む。
まさか?という思いが正直強かった。
「あれは、サネイラ国を攻め入るための物なんだ。なんで、わたしは気づかなかったんだ!」
手で顔を覆い、嘆く。
「わたしは・・・平和のためにだと思っていたのに・・・。あれで、人が・・・」
ずるずると座り込むアスナルド様の背中をアウスラー先生がさする。
わたしはただその様子を見ていた。
こんな時どうすればいいか、なにを言えばいいのか、わたしにはわからないでいた。
いや、なぜアスナルド様がそんな顔をするのかわたしには理解できていない。
トントントン。
重苦しい空気の中、扉がノックされ、わたしは新鮮な空気を得るように急いでドアをあけた。
そこには甲冑を着た兵士が3人いた。
長い影がわたしを覆う。
「エルファ様。レイドリック殿下がお呼びです。直ちに王宮までお越しください」
後ろで声ならぬ悲鳴が聞こえた気がして、わたしは振り返った。
驚愕、恐れ、絶望、そんな言い知れない雰囲気をだすアスナルド様とアウスラー先生の表情がある。
なんとなくわたしはわかった。
引き返せない場所にわたしはいるのだと。
もしかすると、わたしが思っているより大変なことが起きるのだろう。
「少し、行ってきます」
わたしは2人を安心させるように笑らうとセイカを回収して部屋を後にした。
兵士たちに案内され、王宮へと向かう。
魔術騎士団の研究所は王宮の一角にあるとはいえ、それなりに距離はあった。
無言の歩みは重い。
兵士たちの甲冑の無機物な音だけが、あたりに響いていた。
20分ほど歩くと王城の入り口に到着し中へと入る。手続きは兵士がしてくれるのでそれに従った。
そして彼らはとある一室に案内すると声をかけ、ドアを開ける。わたしは導かれるまま部屋にはいると、レイドリック殿下とその後ろには変わらずユーリ様がいた。
もしかするとここは、レイドリック殿下の執務室なのだろうか?
「ご苦労。下がれ」
レイドリック殿下の声に兵士は出て行った。
ドアが閉まると、レイドリック殿下は机の上にある例の魔道具を触りながら笑ってきた。
「いいものができたな。感謝する」
「お礼をいうためにわざわざ呼び出したのでしょうか?」
「いや。別の件があるからだ」
笑みを崩さない。
やはり、この方の笑みは気持ち悪くて感じた。
「きっと、アス兄上はわかっているだろうけど、これからサネイラ国に戦争布告をする。戦争をしかける。よって君には前線にでてもらいたい」
戦争・・・。
吸い込む空気が冷たく感じた。
戦争なんて聞いたことはあっても経験もないわたしには明確な想像もできないでいる。
簡単に返事ができるものではなかった。
「命令・・・ですか?」
「いや、今なら拒否してもかまわない。だが・・・」
「なんですか?」
「君はカリナを護ると違ったのだろう?」
この方はわたしとカリナのことを知っているの?
心がザワザワする。
「それにサネイラ国の内部はレイザードが調べてくれたんだ」
落ち着かない。
『エル。冷静になれ』
セイカの声が頭に響く。
息をゆっくり吐き大きく空気を取り込む。
「まだ、あいつはサネイラ国にいる。このままだと、間違いなく戦火に巻き込まれるかもな」
なぜこんな時も笑えるのだろう。
それに・・・
「それでも、拒否する?」
首を傾げながら聞いてきた。
『エル。やめろ』
セイカの言葉が耳奥に響く。
でも、わたしの心は固まっていた。
「わかりました、お受けいたします。ですが二つほど願いを聞いていただけたら、です」
「願い?」
わたしの言葉が意外だったのか、きょとんとした表情になる。そして、目を細めた。
「言ってみろ」
「レイドリック殿下!」
ユーノ様が声を荒げる。だがそれを制し、わたしの目を食い入るようにみてきた。
わたしは願いをいうと、殿下は爆笑してきた。
「わかった。一つはすぐに叶えてやる。二つ目はサネイラ国が陥落したらだ。それでいいか?」
「・・・わかりました・・・」
先に約束はしてくれなかった。
でも・・・一つは叶えてくれるというのならば・・・、戦争に勝てば、もう一つも・・・
今押し問答してもどうにもならない。
わたしはレイドリック殿下の前に跪き、この戦争に参加することを誓った。
魔術の短略化もそうだったが、魔石の種類魔道具の形をもう一度最初から考えたのが、良かったのだと思う。
国王陛下とレイドリック殿下に出来上がったのを献上する。その数日後、この魔道具の大量生産が命令された。
「やられたっ・・・」
研究室で上司からその話を聞いたアスナルド様は机を叩いた。
「アスナルド様?」
「国防のためだと聞かされていたのに・・・」
アスナルド様は今にも倒れてしまいそうなほど顔色が悪かった。
「アウスラー、エルファ。戦争が始まる」
思いがけない言葉に、息を呑む。
まさか?という思いが正直強かった。
「あれは、サネイラ国を攻め入るための物なんだ。なんで、わたしは気づかなかったんだ!」
手で顔を覆い、嘆く。
「わたしは・・・平和のためにだと思っていたのに・・・。あれで、人が・・・」
ずるずると座り込むアスナルド様の背中をアウスラー先生がさする。
わたしはただその様子を見ていた。
こんな時どうすればいいか、なにを言えばいいのか、わたしにはわからないでいた。
いや、なぜアスナルド様がそんな顔をするのかわたしには理解できていない。
トントントン。
重苦しい空気の中、扉がノックされ、わたしは新鮮な空気を得るように急いでドアをあけた。
そこには甲冑を着た兵士が3人いた。
長い影がわたしを覆う。
「エルファ様。レイドリック殿下がお呼びです。直ちに王宮までお越しください」
後ろで声ならぬ悲鳴が聞こえた気がして、わたしは振り返った。
驚愕、恐れ、絶望、そんな言い知れない雰囲気をだすアスナルド様とアウスラー先生の表情がある。
なんとなくわたしはわかった。
引き返せない場所にわたしはいるのだと。
もしかすると、わたしが思っているより大変なことが起きるのだろう。
「少し、行ってきます」
わたしは2人を安心させるように笑らうとセイカを回収して部屋を後にした。
兵士たちに案内され、王宮へと向かう。
魔術騎士団の研究所は王宮の一角にあるとはいえ、それなりに距離はあった。
無言の歩みは重い。
兵士たちの甲冑の無機物な音だけが、あたりに響いていた。
20分ほど歩くと王城の入り口に到着し中へと入る。手続きは兵士がしてくれるのでそれに従った。
そして彼らはとある一室に案内すると声をかけ、ドアを開ける。わたしは導かれるまま部屋にはいると、レイドリック殿下とその後ろには変わらずユーリ様がいた。
もしかするとここは、レイドリック殿下の執務室なのだろうか?
「ご苦労。下がれ」
レイドリック殿下の声に兵士は出て行った。
ドアが閉まると、レイドリック殿下は机の上にある例の魔道具を触りながら笑ってきた。
「いいものができたな。感謝する」
「お礼をいうためにわざわざ呼び出したのでしょうか?」
「いや。別の件があるからだ」
笑みを崩さない。
やはり、この方の笑みは気持ち悪くて感じた。
「きっと、アス兄上はわかっているだろうけど、これからサネイラ国に戦争布告をする。戦争をしかける。よって君には前線にでてもらいたい」
戦争・・・。
吸い込む空気が冷たく感じた。
戦争なんて聞いたことはあっても経験もないわたしには明確な想像もできないでいる。
簡単に返事ができるものではなかった。
「命令・・・ですか?」
「いや、今なら拒否してもかまわない。だが・・・」
「なんですか?」
「君はカリナを護ると違ったのだろう?」
この方はわたしとカリナのことを知っているの?
心がザワザワする。
「それにサネイラ国の内部はレイザードが調べてくれたんだ」
落ち着かない。
『エル。冷静になれ』
セイカの声が頭に響く。
息をゆっくり吐き大きく空気を取り込む。
「まだ、あいつはサネイラ国にいる。このままだと、間違いなく戦火に巻き込まれるかもな」
なぜこんな時も笑えるのだろう。
それに・・・
「それでも、拒否する?」
首を傾げながら聞いてきた。
『エル。やめろ』
セイカの言葉が耳奥に響く。
でも、わたしの心は固まっていた。
「わかりました、お受けいたします。ですが二つほど願いを聞いていただけたら、です」
「願い?」
わたしの言葉が意外だったのか、きょとんとした表情になる。そして、目を細めた。
「言ってみろ」
「レイドリック殿下!」
ユーノ様が声を荒げる。だがそれを制し、わたしの目を食い入るようにみてきた。
わたしは願いをいうと、殿下は爆笑してきた。
「わかった。一つはすぐに叶えてやる。二つ目はサネイラ国が陥落したらだ。それでいいか?」
「・・・わかりました・・・」
先に約束はしてくれなかった。
でも・・・一つは叶えてくれるというのならば・・・、戦争に勝てば、もう一つも・・・
今押し問答してもどうにもならない。
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