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二章、学園時代
アウスラー視点3
しおりを挟むレイドリック殿下とアスナルド殿下の勉学は優劣つけられなかった。
そのため、魔術試合を行うことになった。
学園の演習場を貸切、全学園生とともに魔術科、そして国王陛下をはじめもろもろの貴族たちの前にして一対一で行なわれる。
レイドリック様ファンの女生徒たちの黄色い歓声が飛ぶ。アスナルド殿下を慕う者たちが力強い声援を送る。
お二人は対峙していた。
真剣な眼差しで向き合いながら何か喋っているようだ。当然私たちには聞こえないかった。
レイドリック殿下がすっと手を上げた。
ゾクッ
その瞬間、私の背中に悪寒のようなものが走る。
周りを見ても誰も気づいていないようだった。
「アウスラー先生?」
隣に座るエルファ様が不思議そうに見てきた。
ーエルファ様も気づかなかったのか?
あの瞬間、レイドリック殿下の魔力が跳ね上がった気がした。どういうのが正しいのかわからないが、畏怖というか異物のような感じ・・・。
「いや、なんでも、ない・・・」
レイドリック殿下の精霊であるエフリートに脅威を感じるほど、今の殿下に能力があっただろうか・・・。
「結界?」
エルファ様の声に、考えことを中断して、慌てて二人に注目した。確かにお二人のいる周辺に結界が張られている。
私より先に気づいたエルファ様が先ほどのことに気づかなかったのは何故なのか・・・。
再びそんな事を考えていると、いつの間にか戦いが始まっていた。
技術に遜色ない?
アスナルド殿下の方が技術があってもおかしくない。直接見ているからこそ、その努力を知っている。
でも、それを難なくかわし、反撃するレイドリック殿下。
練習を重ねなければおいそれと身につくはずはない。
今までの意識や見る目を変えてしまうほどの実力なのではなかろうか・・・
「レイ・・・」
小さい声。だけど期待のこもった声に私はどきりとした。
目だけでそちらを見た。
エルファ様の紅潮した顔があった。
キラキラと目を輝かせ、口を少し開けて試合を食い入るように見ている姿。
その目には覚えがあった。
時たま、エルファ様がしばらくいなくなって帰ってきた時の同じ表情だ。
いつもエルファ様は泣くことはない。声を立て笑うこともない。目を細め口の端を僅かに持ち上げる微笑みだけ。
そんな彼女がほんの時たま見せる、年相応の笑顔。その時ばかりは目が輝いていた。
そんな表情を誰に?
『レイ』とは、やはりレイドリック殿下のことだろう。
顔見知りなのか?いや、どこで出会うことがある?
エルファ様がレイドリック殿下に憧れていて、誰もいない所で読んでいるだけかもしれない。
私は深い勘ぐりはやめた。
ただ学園に通っていた頃、同じようなその眼差しをしている女子を見たことがある。
その時彼女は好きな男性にそんな眼差しを向けていた気がする。
私には分かりかねるが、きっとこれを『恋心』というのだろう。
エルファ様が興奮のあまり鸞様を掴んでいる。苦しいのか鸞様はを彼女の髪を引っ張っていた。
あぁ、エルファ様もこんな顔もするのか・・・
「あっ!」
エルファ様の声に私は会場を再度見た。
決着がついていた。
膝をつき咳き込んでいるアスナルド殿下がいる。体力、魔力がつきたようだ。
身体の弱い殿下には過酷なものだっただろう。
アスナルド殿下は胸を押さえ倒れた。
「急がないと・・・」
魔力切れか、それとも発作なのだろうか。
医療チームが待機してはいるだろうが、気になり立ち上がる。
私たちが動くより先にレイドリック殿下がアスナルド殿下に駆け寄り、応急手当てをしているのが見えたので、行くのをやめた。
きっと大丈夫だ。
「当分は休まれるかもしれませんね」
「そうですね。なにかお見舞い品おくりますか?」
「いや、今はそっとしていましょうう」
「・・・そう、ですね。先生、・・・これでレイドリック殿下が・・・?」
「・・・ですね」
王太子はレイドリック殿下に決定するだろう。
そうなれば、魔術騎士団はどうなる?
エルファ様は・・・。
私は一抹の不安を抱えながらこの騒がしい会場を見つめていた。
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