燐火の魔女〜あなたのために生きたわたし〜

彩華(あやはな)

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1、幼少期

11歳ー3

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「イフ、出てこい」

 以前聞いた時より幾ばくか低い声で精霊の名前を呼んだ。
 
 広間に赤い炎がたち、赤髪の少年が現れ不適そうな顔で周囲を向けている。炎の上位精霊であるイフリートに誰もが言葉を失っていた。

 ジリジリと熱さを感じさせるため一歩後ろに下がる。
 肩に乗っているセイカだけは全く微動だにしていない。


「なに~?こんなところで同窓会話し合いでもする気~?」
「久々に会ったというのにつれないですね」
「はん!うざいんだが?なんでテメェらに会わなきゃなんねぇんだ?」

 属性が違えば、仲もよくないのだろうか?

 三人の精霊は睨み合い、口喧嘩を始めた。

「やめてくれるか?」

 国王陛下の言葉に三人は睨むような視線を送る。上位精霊ともなれば、迫力もあり国王陛下も息を呑んだ。
 このままでは3精霊の独壇場というところで、ポツリと今まで無関心を貫いていたセイカが呟く。

『はぁ・・・。くだらん』


 3精霊は一斉にわたしをーセイカを見てきた。
 
 その行動に誰もがわたしに視線を向けてくるのだから怖い。

『セイカ?』
『つまらん。行くぞ、エル』

 肩に乗っていたセイカがぶるんと身体を震わせ、ひと一回り大きい鳥に変化すると飛んだ。

「うそぉ!そんな気配しなかったわよ~」

 クラルテが慌てたように呟く。

 そして、なにより両親が慌てた。

「エルファ!!国王陛下の御前だぞ。精霊の躾はきちんとしろと言っただろう。たかが動物精霊が上位精霊に楯突くとは失礼にも程があるぞ」

 両親からすれば、動物精霊は下位の精霊にしか思っていない。

「ならば、この姿でよいか?」

 鳥の姿だったセイカは資料に載っている東方特有の袖や裾の長い服を着た中性的な長身の青年の姿へと変わった。
 諸侯たちの奥方たちが小さな歓喜の声を上げている。


 セイカはひょいとわたしを抱き上げた。

「くだらん。こんなことで我の時間を割く必要はない」

 セイカは唖然としている3精霊を見た。

「ちょっ、セイカ」
「そこの3人、適当に説明しとけ」

 両親がまだ何かギャーギャーと騒いでいたがセイカは知らぬ顔で外へと歩いて行く。
 
 3精霊はセイカに黙礼しているのがわたしにはわかった。


「いいのかな?」 

 外に出てわたしを下ろしたセイカはいつもの鳥の姿に戻り、肩に止まり直す。

『かまわん。はぁ・・・、人型はやはり疲れる』

 もこもこの毛を震わせ、ないはずの肩を上下させる。

『散歩だ。さぁ、歩け』

 促されて、わたしは歩き出した。

 どうしよう・・・、セイカがいるから以前のように迷子にはならないだろうけど・・・勝手に歩いていいのかな?

   少し歩くと庭園にでた。
 はっきり場所は覚えていなので、勘を頼りにしてを目指して歩く。

 ここ・・・だよね・・・。

  朧げだが見覚えのある景色。数年前のことを思い出す。まだ、幼かったとはいえ、自分の力の怖さを思い知った場所である。いやでもあの光景は覚えていた。


「久しぶりだね」

 突然後ろから声がかかる。

 振り向けば先ほど謁見のまでいた少年ーこのサブリナ国、第一王子であるレイドリック殿下がいた。

 わたしはあまり上手くできないカーテシーをする。

「お声かけありがとうございます。レイドリック殿下」
「あ・・・頭をあげて。僕は・・・君にお礼を言いたかったんだ」

 レイドリック殿下はわたしを優しい目で見てきた。

 先ほど見たより柔和な雰囲気がある。

「やっと、君を見つけた。あの時はありがとう。ずっと君にお礼が言いたかったんだ」
「お礼など勿体無いお言葉です」

 あの男の子がまさか王子様だとは思っていなかったので、どうすればいいかわからない。

「お願い・・・。もう少し話をしていいかな?」

 彼の笑い顔に思わず、わたしは頷いていた。
 
 
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