燐火の魔女〜あなたのために生きたわたし〜

彩華(あやはな)

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1、幼少期

5歳

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 ロザウド侯爵家は昔から炎の魔力を有する物を多い。現にわたしも生まれてすぐからその片鱗があった。
 そんなわたしは両親に期待しされていたらしい。

 だがそれは5歳になって、一歳下の妹ーカリナの力が光属性の魔力を持つことが分かったことで変わった。

 滅多にいない属性である『光』の力の発現に我が家は沸く。
 両親は急にカリナを特に構うようになり、今までちやほやされていたはずのわたしは嘘のように見向きもされなくなった。
 
 どうでも良くなったような冷たい両親の態度は、幼いわたしにとってショックでしかなかったが、同時にそんなものかとも思いしていた。


 ある日、カリナの力の発現を報告するためにわたしたちは王宮に出向く。国王陛下直々に呼ばれたのだ。
 それほどまでに『光』は貴重だった。

 国王陛下に直接面会できることに浮かれていた両親はわたしの存在などあまり気にしておらず、美しい庭に目を奪われてよそ見をしているうちに足早な両親から取り残され、わたしは迷子になていた。

 ひとりぼっちになり、困り果てたわたしは泣きながらウロウロと歩き回る。

 歩いても誰もいないことが不安で、静寂が怖かった。

 そんな時、一人の男の子と、その侍女らしき人が現れた。

「どうしたの?」

 綺麗な服を着た男の子を見て、わたしは誰がいてくれたことに安堵して、ますます泣いた。
 そして、自分が迷子であることを訴える。

「そうか。じゃあ、あんないしてあげるよ」
 
 男の子がわたしの手を取り道案内してくれる。
 その手は暖かく安心した。

 
 男の子はわたしを慰めるようにたくさん話しかけてくれる。それを聞きながら広い庭園を進んでいると、草陰から恐ろしい顔の黒い動物が顔を出した。

 侍女が悲鳴をあげる。
 
 黒い動物はよだれを垂らし、赤い目でこちらをにらんできた。

「お逃げください」

 侍女は叫び、私たちの前に手を広げ立ち塞がる。

 男の子はわたしを引っ張るようにきた道を走り出した。

「こっちだ。はやく」
 
 わけもわからずに走る。

「なんで、マジュウが・・・」

 男の子が呟く。
 一生懸命にわたしたちは走った。
 背後から悲鳴があがる。

 その声に、つい後ろを振り返ってしまい、その拍子に足がもつれ男の子を道連れに転んでしまった。

「くそっ」

 どうしよう

 二人して後ろを見れば、先ほどの動物がこちらに走ってきているのが見える。

「きみはにげろ!」

 男の子はわたしを立ち上がらせ、背中で庇うようにしてくれた。

「はやくいって。だれがたすけをよんできて」 

 男の子の言葉に首を振る。

「はやく!」
 
 なおも男の子は叫んだ。
 

 いやだ。助けなきゃ・・・

 無我夢中だったのだと思う。わたしは男の子にしがみつくようにして横に立ち、手を前にかざしていた。

 手のひらに熱い力を感じる。転がすように力を込めて大きくしていく。

 それに気づいたのかその動物は数メートル前で止まり、わたしたちを赤く大きな口で威嚇してきた。

 小さな人間だから動物は侮っていたのだと思う。
 舌なめずりをすると、勢いよくわたしたちに飛びかかってきた。

「やっ、こないでっ!!」

 恐怖から無我夢中で手のひらのものを推しやった。玉が灼熱の炎となり、魔獣へと向かう。

 小さな火だったものが急に膨らんだかと思うと炎の玉となって、一瞬にして動物を炎で包み込んだのだ。
 立ち上る火柱と共に魔獣の絶叫が響く。魔獣は暴れまもなく、ものの数分で魔獣は原型がないほどの炭となった。

 何が起こったのだろうか?
 わたしは何をしたのだろうか?

 動物がいなくなった安堵感と、今さらの恐怖で足の力が抜け、わたしはへたり込んでしまった。

 男の子がわたしに声をかけてくる。

「だいじょうぶ?」 
「うん・・・」

   それしか言えなかった。

 すごい脱力感でどうすることもできなかったのだ。

 轟音をききつけたのか、衛兵たちがこちらにきているような足音がした。

 わたしはその後のことは覚えていなかった。

 


 次に気づいた時には誰もいない自分のベッドの上だった。

 夢だったのかと思ったが、世話をしにきたメイドに説明されて思い出す。
 
 あの動物で侍女が被害にあった以外は特に損害はなかったとメイドから聞いた。

 後日、両親こらはカリナの大事なハレの日に王宮の庭園の一部を焼いたということで、ネチネチと文句を言われた。

 それだけ。

 わたしはあの男の子のことを聞くことできなかった。

 
 
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