【完結】金木犀の香る頃

彩華(あやはな)

文字の大きさ
上 下
14 / 15

14.エリアル視点1

しおりを挟む
 お父様同士が親友だった。

 だから、よく王宮に出入りしていた。
 自然に殿下たちと仲良くなる。

 そんな時に親友になった、ケイカ。
 身体が弱いからと、外で遊ぶことはなかった。
 一度庭で隠れん坊をしていて、ケイカは動けなくなって以来、外で遊ぶことは禁じられたのだ。

 代わりに室内で遊ぶ。
 と言っても本を読んだりするくらい。

 わたしが殿下と婚約してからは、王太子妃教育の息抜きとして会話をする。

 だが、ケイカは次第に王宮に来なくなった。
 父からは病が進行したからと言われた。

 それからは、よくエミリアとお見舞いに行くようになる。
 見るたびに顔色は悪くなっていった。

 いっぱい話をすればケイカは喜んでくれた。それが嬉しかった。

 本当にたくさんのこと喋った。
 だから、ケイカの事はなんでも知っているつもりでいた。



「エリアルへ

 ごめんなさい」

 そんな手紙の始まりだった。

 ーなぜあやまるの?

「パーティーで祝う事ができなくて」

 ー違うよわね?
  クロードはあなたの婚約者だったのでしょう?なぜ、わたしに言ってくれなかったの?私に言う価値はなかったの?そうだと知っていたら、わたし・・・
 考えてもわからない。だから、聞きたかったのに・・・

 わたしの思いも知らずに手紙はたんたんと続いている。

「わたくしの命の期限は20歳まで、と小さい頃に言われたわ。でも、信じたくなかった。口にだして言ってしまえば、本当になりそうだったから。
 でも、年齢を追う事で本当なんだってわかっていった。苦しくて、身体が重くて・・・。

 ごめんなさい。

 きっと、婚約の事を言わなかったのを不思議に思ってるでしょうね。恨んでいるでしょう。
 わたくしね、少しだけでいいから「恋愛」をしてみたかった。「結婚式」をあげて「新婚生活」をしてみたかったの。
 そして、わたくしの大切な人にわたくしの最期を看取って欲しかった。

 わたくしの初恋はクロード様なの。ずっと見てたわ。あなたたちが羨ましかった。王宮の庭で楽しそうに遊んでいるあなたたちが妬ましかった。
 
 どうしてもクロード様に振り向いてほしかった。だから、クロード様の家の事情に漬け込んでお父様に無理を言って婚約を結んでもらったの。
 でもね、病気で可哀想だからって、同情は欲しくなかった。

 クロード様はあなたのことが好きだって知ってたわ。見てたらわかっていたから。あの方を苦しめたくなくて、わたくしとの婚約していることを、あなたに言えなかった。
 あなたに言ってしまえば、なんとかしてわたくしとクロード様をとりなそうとするでしょう?
 あの方の気持ちを大事にしたかった。だから、あなたには言えなかった」


 ー馬鹿なの?
  彼のため?
  ケイカ、あなたそれほど彼が好きだったの?なら、言えばいいじゃない。自分の幸せを願ってもよかったんじゃない?。

 手紙先を読んで震えた。

「それに、あなたも、ずっとクロード様が好きだったでしょう?」

 ー私も?

 そんなことが書かれていて、私はどきりとした。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

いっそあなたに憎まれたい

石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。 貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。 愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。 三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。 そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。 誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。 これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。 この作品は小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】君を愛する事はない?でしょうね

玲羅
恋愛
「君を愛する事はない」初夜の寝室でそう言った(書類上の)だんな様。えぇ、えぇ。分かっておりますわ。わたくしもあなた様のようなお方は願い下げです。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

旦那様、愛人を頂いてもいいですか?

ひろか
恋愛
婚約者となった男には愛人がいる。 わたしとの婚約後、男は愛人との関係を清算しだしたのだが……

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

処理中です...