【完結】金木犀の香る頃

彩華(あやはな)

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「エミリア?ケイカはどこなの?ケイカから手紙がきたからきたのよ?なんでエミリアがいるの?」

 エリアルが詰め寄る。

「・・・いるわけないじゃない」
「どういうこと?騙したの?」
「私が呼んだのよ。もう、ケイカはいないもの・・・」

 涙が溢れ出す、エミリア嬢。

 どう言うことだ?

 とは?

「あなたたちが幸せを噛み締めてた時、あの子は誰にも見送られずにたった一人で空に旅立ったの」

 ー空に旅立つ?
 
 その言葉は死んだことを意味していた。

 婚約者破棄で自殺したということなのか・・・
  
「どう言うことだ!ケイカが?なぜだ?」

 殿下が顔色を変えエミリア嬢にくってかかる。

「知ってるでしょう。あなたたち二人は、ケイカが20歳はたちまでしかって。あの子の思いを無碍にしたのはあなたたちでしょう」

 興奮が冷めないのか、エミリア嬢は僕らを睨みつけてきた。

 話が見えない。
 20歳までしか生きられない?なぜ?どう言うことだ。
 彼女は病気だったのだろうか?

 エミリア嬢は、持っていた3通の手紙を取り出して、僕らに押し付けた。

 震える手で中を開く。
 
 金木犀の香りがふわりと漂う。

 そこには中には見知った丁寧な優しい字があった。




「ラッキーさん、いえ、クロード様へ

 騙していたことをお詫びします。
 わたくしはの名前はスマではありません。本当の名前はケイカ・アシュレイといいます。
 きっと、この手紙を見ている頃には、わたくしは、もういなくなっていることでしょう。

 わたくしはいくつか貴方に謝らなければいけません。
 わたくしは生まれてすぐに心臓に病いが見つかりました。医師からは20歳まで生きれないと言われていたのです。結婚も無理なのはわかっていました。

 でも少しだけ短い間だけでも、してみたかったことがありました。
 それは誰もが願う一般的な幸せを体験です。

 私は幼い頃から貴方を見たことがありました。あなたは覚えていないかもしれませんが、金木犀の木の下で貴方に初めて会いました。あれが、私にとって初恋でした。

 ずっと、貴方を見ていました。
 外で遊べないわたくしは、殿下やエリアルたちと遊んでいる貴方の姿を、いつも窓から見ていました。
 みんなが羨ましかった。貴方と一緒に走り回りたかった。
 わたくしは貴方に恋をしたのです。

 貴方の家のことを知り、父に無理を言って期限付きで婚約者にしてもらいました。いっときでも婚約者として、夫婦として暮らしてみたかった。
 でも貴方を縛りつけたくなくて、わたくしの病気のことを言わないようにお願いしたのです。

 貴方の気持ちを置き去りにしてしまいましたね。ごめんなさい。

 少しだけと夢見ていました。
 でも、ダメでした。貴方がエリアルを好きだと知っていました。
 貴方を苦しませまして、すいません。

 私の愚かな行いの代償なんでしょう。愛情がなくても、20歳までの短い時間だけでも幸せが欲しいと思ってしまった私は醜い生き物でした。


 こんな苦しい思いをするなら、初めから貴方を好きになるのではなかった。恋などするのではなかった。
 
 でも、私は貴方のことを知りたかった。貴方に私のことを知って欲しかった。どうしても願わずにはいられなかった。

 だから、エミリアに協力して文通をすることにしたのです。


 最期に貴方と手紙を交わした時間は短いものでしたがわたくしには幸せな時間でした。
 
 でも、辛かった。貴方の気持ちをますます知ってしまってー。
 泣きたかった。悔しかった。

 もっと時間が欲しかった。
 わたくしに気づいて欲しかった。見て欲しかった。

 貴方の正直な姿を見て、わたくしはケジメをつけることができました。
 クロード様。
 わたくしのことは忘れてください。スマからの手紙は燃やしいただいて結構です。

 ですが、一つだけ、わたくしの身勝手な我儘をお許しください。貴方から頂いた手紙を持って逝くことだけは許してください。
 貴方から頂いた、誕生日を祝ってくれた手紙は嬉しかったのです。あれだけでも、私は嬉しかったのです。
 来年も言ってくれると書いてくれたことも。すごく嬉しかったのです。
 それがたとえ、くるはずのない未来だとしても。
 わたくしにとってはかけがえのないものでした。生きていて1番の贈り物でした。
 

 あのパーティーで、祝うことができなかったこと、申し訳ありませんでした。


 貴方を今まで縛ってしまって申し訳ありませんでした。

 これからは自由に生きてください。
 わたくしの分も幸せになってください。それがわたくしの最期の願いです。

 エリアルと二人で幸せに。

 貴方様の未来に幸在らんことをー。

          ケイカ・アシュレイ」



 途中からは、字が滲になり、紙は涙を吸って乾いたのか紙質が変わりしわになっていた。
 

 どんな気持ちで綴ったのだ。

 僕はその手紙を握りしめて泣いた。

 
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