【完結】金木犀の香る頃

彩華(あやはな)

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「スマへ

 少しだけ、愚痴を書かしてもらうね。
 君には以前、僕に好きな人がいると書いたから、知って欲しくて・・・。
 彼女の婚約者は今、他に好きな人ができていて、彼女を蔑ろにするんだ。僕は悲しむ彼女をみていられない。
 彼女の暗い顔をみるのが、つらいんだ」


「ラッキーさん
 
 女性は誰かが側にいてくれるだけでも嬉しいものです。
 身分があり、婚約者がいる相手なら距離も必要とは思いますが・・・。
 その方のお相手を諌めることはできないのですか?」



「スマ
 
 アドバイスありがとう。

 彼女の婚約者には、幾度か注意をしてはいるけど、注意をすればするだけ燃え上がると言うか、夢中になっているようで聞き入れてくれないんだ。周りも困っている」



「ラッキーさん

 そうなんですね。力になれなくてごめんなさい」



 


 「クロード、明日の休み少し付き合ってくれない?」

 カインゼル殿下の婚約者である、エリアル嬢が言ってきた。

「付き合う?どこにです?」
「親友の誕生のお祝いの品を選びたいの。殿下は・・・その、ねっ・・・」

 うつむき悲しみに溢れた表情。
 カインゼル殿下は、ソフィア・クローレンス伯爵令嬢と常にいるようになっていた。

 なぜ、殿下はこんな素晴らしい方を放っておかれるのだろう・・・。

「殿下に相談したら、貴方なら相談に乗ってくれるだろうからって・・・。ダメかしら」

 殿下・・・。
 
「構いませんよ」

 僕はにっこりと笑った。
 内心では飛び上がりそうなほど嬉しくて仕方ない。
 
 次の日、学園が終わってから僕らは街に出かけた。
 護衛は少し離れたところに幾人かいたが、ほぼ二人きり。近くにエリアル嬢がいると思うとドキドキした。

 制服だと言うのに、エリアル嬢が可愛い。
 高貴な雰囲気が抑えきれていないものの、素の彼女が隣でいる。

「ご親友はどんな方ですか?」
「私の幼馴染で、大切な子なの。でも、身体が弱くて、いつも屋敷で過ごしてるわ。まっすぐないい子なの。私の大切な親友だわ」

 その顔は、慈愛に満ちていた。
 本当にその子のことを大切に思っているのだと感じる。

「その方はどんなのが好きなんですか?」
「オレンジよ。大好きな花の色ですって」

 僕たちは学園の話をしながら、店を回った。

 小さな宝石展に入る。

 目移りしそうなほどの装飾。

「エリアル嬢は何色が好きなんですか?」
「私?私は・・・紫かしら」

 とくんと胸を打つ。
 紫は・・・、殿下の瞳の色。

 ーやはり、彼女は殿下が好きなんだな・・・

 心臓が痛い。
 気のせいだ。気づかれてはならない。

 自分の心を隠し、二人で見て行く。

 羽根の形を模した銀のペンダントがあった。羽根の根元に小さな宝石がついている。

「これ、はどうですか?」 
「綺麗ね・・・。オレンジ宝石もついてる。これにしましょう。・・・紫のもあるのね・・・」

 色違いのがあった。

「・・・こちらは、僕があなたに贈ってもいいですか?」
 
 気づけば口走っていた。
 慌てて、弁解する。

「いや、深い意味はないですよ。折角なんでお揃いの物を持てば、その方も喜ぶんじゃないかと思いまして。なのに、男の僕が黙ってみてるだけでは、気が引けて・・・。エリアル嬢。男の僕に名誉をいただけないでしょうか?」

 改まって申し出てみる。
 
 エリアル嬢は、クスクスと笑った。

「では、クロード。貴方に名誉を授けますわ」
 
 僕は彼女にブローチを贈った。
 
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