上 下
8 / 8

8.アーノルド視点  最終話

しおりを挟む
 古くなった墓石を前に僕はいた。
 手入れがあまりされていないのか、苔が一面に生えている。
 僕は手で苔を削りとると「アルド」という名前を確認した。

 聞いていた場所にある、聞いた名前。ここで間違いないと思い掃除していく。

 そして、綺麗になった墓の前で膝をついて、僕は一輪の彼岸花を墓に手向けた。


「アルドさん。初めまして。僕はアーノルド・ダージアと言います。僕の祖母はリコ・ダージアです」

 独り言を言う。
 誰も聞いていないのはわかっている。
 だが、あえて口に出して言った。

「僕はリコおばあちゃんの本当の孫ではありません。僕はリコおばあちゃんの養子になったロットとリーシアの息子の子供です。
 おばあちゃんは結婚しませんでしたよ。向こうの国で、もらった遺産を使って孤児院を開きました」 

 
 僕の父はリコおばあちゃんがこの国を離れる前になんとか探しだし、一緒に向こうの国に連れていって養子にしたそうだ。

「ずっと、リコおばあちゃんはあなたのことを想い続けていたので結婚はしませんでした。いくつもプロポーズもされていたし、見合いの話もあったそうです。ですが、断り続けたそうです。あなたがいるからと。」

 1人の男性をずっと想っていたと、父は言っていた。
 だから、おばあちゃんは結婚はしなかった。
 その代わりに独りぼっち子供たちを集めて、孤児院を作り彼らを育てた。
 
 おばあちゃんの顔が浮かんでくる。
 優しく微笑んでいる顔だ。

「僕たちはあなたのことを昔話のように小さい頃から聞きいていました。その話をするおばあちゃんはとても幸せそうでした」

 思い出すだけで幸せになる。
 しわしわの手で頬を押さえ恥ずかしがり、女の子のように顔を赤く染めて語る姿は可愛らしく、みんな大好きだった。

 そんなおばあちゃんはもういない。

 『アルド、愛してるわ』
 そう呟いて微笑んで逝ってしまった。
 おばあちゃんはみんなから愛されていた。たくさんの人に囲まれて惜しまれていた。

「最期まで幸せに生きました。2ヶ月前、老衰で亡くなりました。死ぬまであなたのことを想っていました。僕は・・・」

 涙が溢れてきた。
 僕はおばあちゃんの生前の遺言でここに来た。

「僕はおばあちゃんの願いを叶えに来ました」

 ポケットから小さな小箱を取り出し、墓に向かって開けた。

 おばあちゃんがずっと身につけて大事にしていたネックレスだ。
 アルドさんの話をする時はいつも大事そうに握りしめていた。

「あなたに返すそうです。来世に生まれ変わった時に渡して欲しいそうです。おばあちゃんはそう願っていました」

 来世にー。

 おばあちゃんの気持ちが切なかった。

 僕は墓石の隣に手で穴を掘った。
 硬い地面で爪が割れる。

 それでも頑張って掘った。

「おばあちゃんはずっとここに来たかった。でも、たくさんの子供を世話して、仕事や子供を放り投げてこの国に帰ることはできなかったんです。そんなおばあちゃんを許してください」

 やっと穴が開き、ネックレスを入れて埋め戻す。

「僕はあなたにお願いがあります。もしかなうなら、死んだ向こうの世界で会えたなら、その時にたくさん話をしてください。『愛してる』と言ってあげてください。ネックレスを直接渡してあげてください。僕らは・・・僕らはおばあちゃんが好きでした。僕らにとって、最高のおばあちゃんです。自慢のおばあちゃんです。だから、幸せにしてあげてください」
  
 僕はいっぱい泣いた。
 おばあちゃんとの思い出が溢れて返って・・・。


 すべてが終わる。

 僕は涙を拭い立ち上がった。

「おばあちゃん、終わったよ」

 秋の空気は澄んでいる。
 空を見上げると白い羊がむれているような雲が浮かんでいた。

 赤い彼岸花が風に揺れるー。




               ーおわりー
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

るりまま
2023.10.13 るりまま

天国で仲良くしてください😢

解除
こすや
2023.10.13 こすや

そうなんだ……泣けました。
アルドはあの時 ちゃんと リコのこと 愛したのかな。ネックレスがその証だといいな。
今度は幸せに。

解除
よきよ
2023.10.11 よきよ

更新ありがとうございます。

なんと痛ましい、と追っていたのですが、第6話に衝撃を受けまして。
あの。
お兄様、不幸を願っていた訳ではなく、むしろ 幸 せ を 願 っ て い たーーー!?

幸せであることが許されない、生まれた瞬間から疫病神、とリコを呪い、おそらく、一度として解こうとしなかったのに。

いくら子供だったからって、言って良いことと言ってはならないことが、あるかと。
言葉のダメージは呪詛になるので、むしろ消えない痛みになるのですから。

リコの全てを受け入れる諦観が悲しい。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

婚約破棄はラストダンスの前に

豆狸
恋愛
「俺と」「私と」「僕と」「余と」「「「「結婚してください!」」」」「……お断りいたします」 なろう様でも公開中です。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

この影から目を逸らす

豆狸
恋愛
愛してるよ、テレサ。これまでもこれからも、ずっと── なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

【完結】貴方を愛するつもりはないは 私から

Mimi
恋愛
結婚初夜、旦那様は仰いました。 「君とは白い結婚だ!」 その後、 「お前を愛するつもりはない」と、 続けられるのかと私は思っていたのですが…。 16歳の幼妻と7歳年上23歳の旦那様のお話です。 メインは旦那様です。 1話1000字くらいで短めです。 『俺はずっと片想いを続けるだけ』を引き続き お読みいただけますようお願い致します。 (1ヶ月後のお話になります) 注意  貴族階級のお話ですが、言葉使いが…です。  許せない御方いらっしゃると思います。  申し訳ありません🙇💦💦  見逃していただけますと幸いです。 R15 保険です。 また、好物で書きました。 短いので軽く読めます。 どうぞよろしくお願い致します! *『俺はずっと片想いを続けるだけ』の タイトルでベリーズカフェ様にも公開しています (若干の加筆改訂あります)

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。