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私は馬車を待たせてせたまま、墓園の前で一度下りる。
明日には港に行き、1週間後の船に乗って向こうの国へ行く手筈になっている。
その前にアルドの墓に寄ることにした。
夏が終わり、涼しい風が秋の香りを運び始めている。
私は彼岸花咲く墓地に続く道を歩いていた。
そして、アルドの墓の前につくと膝をつき、持っていた一本の彼岸花を手向けた。
「いつぶりかしら?」
長い間、足を向けることがなかった場所。
墓を前に私は目を閉じて祈りを捧げた。
目を開けると、端どこまでも咲く彼岸花が風にゆれているが見える。
赤い花は風に揺れている中、墓地の向こうの道を子供たちが声を上げながら仲良く駆けている姿が目に映った。
その姿が可愛く、癒される。
私は澄んだ空を見上げ懐かしい記憶を手繰り寄せた。
昔のことを思い出す。
続くことのなかった幸せ、悲しいできごとをー。
「リコ?」
風に乗って聞こえてきた声に目を見張る。
行く筋か向こうに、1人の女性を見つけた。
彼女の方も私に気づいたのか何かに取り憑かれたような顔で、近づいてくる。
「リコ!!」
私の名前を呼ぶ。
「リーシア?」
ずっと身につけて続けているのか継ぎはぎのあるくたびれた服装、髪もボサボサだったので、声を聞くまでリーシアだとは思わなかった。
こんなところでいるとまた会えるとは・・・。
リーシアを見て、懐かしさなどを感じるかと思っていたが、全くなにも思わなかった。
「なんで、アルドが死んでるの!なんでよ!」
何だろう?生きていたらどうしたの?
「あんたのせいでしょう!」
みんな、私のせいにしてどうするのか・・・。
「ロットと駆け落ちして幸せだったんじゃないの」
「当てが外れたのよ。お金がなくて贅沢なんてできないし。ロットなんて働きもしないのよ!せっかく、子供も生まれたのにかまいもしない。私が働いて稼いだお金で毎夜飲んで、最終的に浮気したのよ!!だから帰ってきたの!アルドの奥さんにしてもらおうって。なのに死んだってどう言うことよ!あんたがなんかしたんでしょっ!!」
リーシアは捲し立てるように言ってくる。
感情だけで語ってくるリーシアを見つめた。
「よく、3年もったわね」
私に感想があるとすればそこだけだった。
お花畑の2人なら一年しないで目が覚めると思っていたから。
小さな声でリーシアは言う。
「はじめは・・・良かったのよ。宝石とかいっぱい家から持って行ってたし。子供も生まれて・・・、それからぜんぜんお金が足らなくなって、喧嘩もして、それで・・・」
『お金は使えばなくなり、勝手に増えることはない』には気づかず、『働く』ことを知らなかったのだろう。いや、平民としての働き方がわからなかったのかもしれない。
「そう。それで、帰ってきたわけね。だからなに?私に用事はないわよね」
「そうじゃないわ。屋敷に帰ったらお父様もお母様も私を娘じゃないって言ったの。だから、アルドを頼りにきたの。結婚したらすべてまあるく収まると思ってたのに、どうすればいいのよ?」
「知らないわ」
「友人でしょう!助けてよ」
「知らない。ロットと助け合えばいいじゃない」
「あの飲んだくれなんて知らないわ。あいつは浮気相手とどっかに行ったわよ!私1人じゃどうにもできないの」
「子供はどうしたの?」
「捨てたわよ。アルドと一緒になるなら邪魔なだけだと思ったから!」
この3年で口だけではなく、人としても悪くなっているようだった。
私の知っている昔のリーシアはどこにもいない。
「じゃあ、リコでいいわ。お金ちょうだい。あなた、未亡人になって遺産がたんまり入ってるんでしょう」
目に金という字が見える気がした。
私は冷たくリーシアを見る。
「なぜ、私が?あなたのせいで私やアルドがどんな思いをしたかわかってる?」
「それは・・・。でも、リコはアルドが好きだったじゃない」
「だから、なに?帳消しになると思ってるの?みんなに迷惑をかけたのよ」
「だって・・・」
「それに、私のお金は代償を払った対価ですもの。あなたには渡せないわ」
「代償って・・・」
「疫病神」
「・・・・・・」
リーシアも知っていたのか黙った。
「覚悟はある?|婚約者を奪われた疫病神、疫病神に捧げされた哀れな男、疫病神に殺された男、疫病神に取り憑かれた死んだ男。その疫病神は私のこと。そんな女から金を借りる勇気、ある?」
首を傾げながらリーシアをみた。
自分で言っていて、虚しい。
だが、その言葉はリーシアには有効だった。
ガタガタ肩を振るわせたかと思うと、逃げるようにして去って行く。
「ふふっ」
本当に虚しかった。
改めて、アルドの墓に向かう。
「アルド、もう行くわ。次に会えるのはいつかしら・・・。また、あなたに会う日を楽しみにしてるわ」
私は墓石にキスをした。
そして、もと来た道を引き返した。
私は、新たな人生を紡ぐため喪服を脱ぐことを決心した。
明日には港に行き、1週間後の船に乗って向こうの国へ行く手筈になっている。
その前にアルドの墓に寄ることにした。
夏が終わり、涼しい風が秋の香りを運び始めている。
私は彼岸花咲く墓地に続く道を歩いていた。
そして、アルドの墓の前につくと膝をつき、持っていた一本の彼岸花を手向けた。
「いつぶりかしら?」
長い間、足を向けることがなかった場所。
墓を前に私は目を閉じて祈りを捧げた。
目を開けると、端どこまでも咲く彼岸花が風にゆれているが見える。
赤い花は風に揺れている中、墓地の向こうの道を子供たちが声を上げながら仲良く駆けている姿が目に映った。
その姿が可愛く、癒される。
私は澄んだ空を見上げ懐かしい記憶を手繰り寄せた。
昔のことを思い出す。
続くことのなかった幸せ、悲しいできごとをー。
「リコ?」
風に乗って聞こえてきた声に目を見張る。
行く筋か向こうに、1人の女性を見つけた。
彼女の方も私に気づいたのか何かに取り憑かれたような顔で、近づいてくる。
「リコ!!」
私の名前を呼ぶ。
「リーシア?」
ずっと身につけて続けているのか継ぎはぎのあるくたびれた服装、髪もボサボサだったので、声を聞くまでリーシアだとは思わなかった。
こんなところでいるとまた会えるとは・・・。
リーシアを見て、懐かしさなどを感じるかと思っていたが、全くなにも思わなかった。
「なんで、アルドが死んでるの!なんでよ!」
何だろう?生きていたらどうしたの?
「あんたのせいでしょう!」
みんな、私のせいにしてどうするのか・・・。
「ロットと駆け落ちして幸せだったんじゃないの」
「当てが外れたのよ。お金がなくて贅沢なんてできないし。ロットなんて働きもしないのよ!せっかく、子供も生まれたのにかまいもしない。私が働いて稼いだお金で毎夜飲んで、最終的に浮気したのよ!!だから帰ってきたの!アルドの奥さんにしてもらおうって。なのに死んだってどう言うことよ!あんたがなんかしたんでしょっ!!」
リーシアは捲し立てるように言ってくる。
感情だけで語ってくるリーシアを見つめた。
「よく、3年もったわね」
私に感想があるとすればそこだけだった。
お花畑の2人なら一年しないで目が覚めると思っていたから。
小さな声でリーシアは言う。
「はじめは・・・良かったのよ。宝石とかいっぱい家から持って行ってたし。子供も生まれて・・・、それからぜんぜんお金が足らなくなって、喧嘩もして、それで・・・」
『お金は使えばなくなり、勝手に増えることはない』には気づかず、『働く』ことを知らなかったのだろう。いや、平民としての働き方がわからなかったのかもしれない。
「そう。それで、帰ってきたわけね。だからなに?私に用事はないわよね」
「そうじゃないわ。屋敷に帰ったらお父様もお母様も私を娘じゃないって言ったの。だから、アルドを頼りにきたの。結婚したらすべてまあるく収まると思ってたのに、どうすればいいのよ?」
「知らないわ」
「友人でしょう!助けてよ」
「知らない。ロットと助け合えばいいじゃない」
「あの飲んだくれなんて知らないわ。あいつは浮気相手とどっかに行ったわよ!私1人じゃどうにもできないの」
「子供はどうしたの?」
「捨てたわよ。アルドと一緒になるなら邪魔なだけだと思ったから!」
この3年で口だけではなく、人としても悪くなっているようだった。
私の知っている昔のリーシアはどこにもいない。
「じゃあ、リコでいいわ。お金ちょうだい。あなた、未亡人になって遺産がたんまり入ってるんでしょう」
目に金という字が見える気がした。
私は冷たくリーシアを見る。
「なぜ、私が?あなたのせいで私やアルドがどんな思いをしたかわかってる?」
「それは・・・。でも、リコはアルドが好きだったじゃない」
「だから、なに?帳消しになると思ってるの?みんなに迷惑をかけたのよ」
「だって・・・」
「それに、私のお金は代償を払った対価ですもの。あなたには渡せないわ」
「代償って・・・」
「疫病神」
「・・・・・・」
リーシアも知っていたのか黙った。
「覚悟はある?|婚約者を奪われた疫病神、疫病神に捧げされた哀れな男、疫病神に殺された男、疫病神に取り憑かれた死んだ男。その疫病神は私のこと。そんな女から金を借りる勇気、ある?」
首を傾げながらリーシアをみた。
自分で言っていて、虚しい。
だが、その言葉はリーシアには有効だった。
ガタガタ肩を振るわせたかと思うと、逃げるようにして去って行く。
「ふふっ」
本当に虚しかった。
改めて、アルドの墓に向かう。
「アルド、もう行くわ。次に会えるのはいつかしら・・・。また、あなたに会う日を楽しみにしてるわ」
私は墓石にキスをした。
そして、もと来た道を引き返した。
私は、新たな人生を紡ぐため喪服を脱ぐことを決心した。
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