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 ウェディングドレスを着た私は鏡台の前で呆然と座っていた。

 この日のためにどれほど頑張ったか。一瞬にしてすべての苦労が水の泡になる。

 泣けててきた。

 ロットとリーシアを全両親や兄弟たちが総力をあげてあちこちと探し回った。それでも見てからず、やっとわかったのはリーシアの一番下の妹が握りしめる手紙を、彼女の母親が見つけた時だった。

 手紙には二人が駆け落ちする旨が書かれていた。能天気なまでの内容に誰もが憤慨する。

「どうするつもりだ!」
「すまない!!」

 四組の親の阿鼻叫喚。リーシアとロットの母親は泣き崩れ、父親たちは土下座であやまる。アルドの母親は呆然とし、父親は怒鳴っていた。私の父は、イライラとタバコを吸っていた。
 
 誰も私たちを慰める者さはいなかった。

 中止にすべきか・・・。
 そんな声も上がるなか、私の父だけは違っていた。

 こんなに権力に固執しているとは思持っていなかった。

「では、こうしよう。もともとの結婚がロットとリーシア。アルドとリコのだということにするんだ」

 何を言っている?と全員が父の顔を見る。
 父はそんなことも構わず続ける。

「醜聞は嫌でしょう?」
  
 誰もが言葉を発しない。それは肯定を意味した。

「もちろん見返りはもらいます。伯爵には貴族方の繋がりを求めます。子爵はあなたの領の名産品であるワインを安く提供していただきましょう。男爵の領地はたしか、銀の採掘が有名でしたよね?勿論、資金援助は惜しみませんから」

 誰もが下を向き震えていた。

 どう考えても、利があるのは我が家だけではなかろうか。

「今更、変わったと言って果たして参列者が納得するとでも?」
「何のために見返りを求めたと思いますか?金さえあれば、世の中大概のことはどうにでもなりますよ」

 父はニタリと笑った。

 誰もが納得する。

 だけど、アルドだけは抵抗した。

 アルドの両親が必死に宥めた。

 それに折れたアルドは私と結婚式をあげた。

 こんなことを願ってはいなかった。

 なのに嬉しく思う自分が心の奥でいる。

 ロットとリーシアのことは憎い。

 だけど、アルドとのことは少しだけ嬉しかった。

 時間はだいぶ遅れたが結婚式を行なわれた。
 
 参列者は誰もが作り笑いか、こわばった表情を浮かべている。
 父が金をばら撒いてなかったことにさせたのだろう。

 隣にいる新郎のアドルは無表情だった。

 私はどんな式を望んだのだろうか・・・。

 こんな式ではなかったはず。
 みんなに祝福されて、リーシアとアルドの幸せな姿を確認したあと、ロットとともに人生を歩もうと思っていただけ。

 こうして、たった一度の私の結婚式は終わった。

 
 その晩、初夜としてアルドに向かい合うと彼は言った。

「ごめん。やっぱり、無理だ。僕はリーシアが好きなんだ。君とは友人であって、夫婦にはなれない」

 わかっていたはずだ。
 それでも実際に直接言われると辛かった。

「大丈夫よ。形だけでも、夫婦・・・家族として認めてくれるなら、それ以上のことは望まないわ」 

 無理やりに笑った。
 アルドは辛そうな表情で顔を背け、部屋を出ていった。

 扉が閉まってから、私は声を殺して泣いた。
 今だけは泣くことを許して欲しかった。
 今日で、この気持ちを封印する。

 次の日から私はアルドのために尽くした。

 アルドが屋敷に帰ってきたくなるように整える。屋敷の主従関係も円滑にしていく。何があっても必死にくらいつき、笑顔を絶やさないようにする。
 社交界でどんなに言われようと私は微笑んだ。
 
 アルドのためにー、それだけを思って私は生きることにした。

 
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