上 下
10 / 16

10.カイト

しおりを挟む
バウンゼント公爵邸に遊びに行くこともあった。
彼には若き皇帝陛下の婚約である妹がいた。

学園も違うので会うことはなかったが、
自慢の妹らしく、度々話にでてきた。
そして彼の婚約者の話も・・・。
アミー・ユウルギア公爵令嬢。
皇帝陛下の叔父の義娘だと言う。

身寄りのないアミー嬢に惚れたエイトが、親友であり幼馴染である皇帝陛下に無理を言ったらしいと噂があった。
のちに、確認を本人にしてみれば、ほぼ事実だった。

彼女と結婚できなければ平民になる気だったらしく、優秀なエイトを平民にしたくないあまり、周りが折れたのだと言う。

彼女自体、バウンゼント公爵令嬢と仲が良く優秀な16歳の少女だというのだ。
周りは否定的であったが、彼女の聡明さに触れた者は認め出したのだと聞いた。

たまたま、遊びに行った日、皇帝陛下とエイトの婚約者がバウンゼント公爵令嬢ーセシル嬢の元に訪れていた。
折角だと言うので合わせてもらえる事になった。

案内された部屋に入ると、そこにはー、ミィがいたのだ。

一目でわかった。
フィオナにそっくりな顔。
それでいてフィオナにはない慈愛に満ちた顔。

嬉しかった。
死んだはずのミィがいたのだから。
思わず声にでていた。

「ミィ?」
「・・・・・・」

彼女の目が大きく見開き、僕を凝視する。

「ミィ、・・・だよね」

嬉しくて涙が溢れる。
同時に罪悪感が蒸し返した。

触れたい。
生きてる君にもう一度。

手を差し伸べようとした時、彼女は悲鳴をあげた。
顔を掻きみしらんばかりの行動。

皇帝陛下もエイトも、セシル嬢も慌てた。

狂ったように悲鳴を上げ続ける彼女に僕は呆然とした。
何もできなかった。

エイトが必死に抱きしめた。
しばらくして彼女は気を失った。

僕は後日話を聞くこととなり、追い出されるようにして、留学で借りている寮へ戻った。
どうやって帰ったのか正直覚えていない。

数日後、僕は王宮に呼ばれた。
通された客室には皇帝陛下とエイト、セシル嬢がいた。

彼女はまだ錯乱していると言う。
何度か鎮静剤を投与して、そばに誰かを待機させていると言うのだ。

僕は素直に話した。
全てを。
何があったのかを。
そして、彼女の話をしてくれた。

彼女はセシル嬢に拾われた。
川岸に倒れていたのだという。
記憶もなく名前がほのかに「ミ」が聞こえたからセシル嬢が「アミー」と名付けたことがわかった。

僕はあの子の二度目の人生をも壊したのだ。
知らないままでいさせてあげればよかったのだ。

あの子はセシル嬢と仲良くなり、バウンゼント公爵家でセシル嬢と同じように愛されて育っていたのだ。
エイトが妹以上の感情を募らせたからこそ、ユウルギア公爵の養女になったのだ。



セシル嬢になじられた。

彼女の心を壊した僕を糾弾した。



受け入れるしかなかった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします

東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。 その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており… さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

私が消えたその後で(完結)

毛蟹葵葉
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...