【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)

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3.とあるメイド

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フィオナ様の『聖女』としての力は素晴らしいです。
幼いとはいえ、『聖女』として立派です。
多少の無理はいいます。
まだ子供ですから、仕方ありません。
そんな我儘でも、可愛らしいです。

それに引き換え、フィオナ様の双子のお姉様は、暗く、静かな子供でした。

噂ではフィオナ様を妬んで我儘放題といいます。
ですが、この旅行でフィオナ様付きを一時的に外れ、お世話がかりになったわたしには無理一つ言われませんでした。

無理を言わないとはいえ、フィオナ様付きだったわたしにとって、腹立たしいものでした。

お嬢様の世話なんて、とも思いました。
名誉であるフィオナ様から離れてしまうのですから。

でも、数日お世話をしていて、その意識がかわりました。

確かにフィオナ様を羨むように見ることがあります。
でも、それは仕方ないのではないでしょうか?

お嬢様のお世話をして知りましたが、旦那様や奥様との会話などまるでありません。
乳母である、テイラーさんと少しお話しするくらいです。
お兄様である、カイン様とは目を合わすこともありません。

お嬢様は透明人間のようでした。

だからフィオナ様の美しさがよけい引き立つのかもしれません。

旅行先では、お嬢様は街にも行けませんでした。

一人で留守番をされました。
『行きたい』と我儘を言うこともなく。

逆にわたしに行っていい、とおっしゃってくださいました。
小さな子に気遣われたのです。

わたしは街で買ったお菓子を渡すとお嬢様は嬉しそうでした。
笑いました。
はじめて食べるとおっしゃいました。
安いお菓子です。

屋敷では高級なお菓子を出すこともあります。
なぜ?と思いました。

そして、思い当たったのです。
お菓子はフィオナ様のためのものだったのだと。
お嬢様は食べたことないのだと。
もしかすると、お菓子自体初めて口にするのかもしれません。

なぜ、同じ姉妹なのに対応が違うのでしょう。
フィオナ様は『聖女』だから。
それだけの理由だったのです。




次の日、フィオナ様はご依頼の瘴気の浄化に森にいきました。

フィオナ様の集中の邪魔にならないよう、離れた場所でお嬢様はいました。持ってきた本を開き眺めています。
大人しく手のかからない方です。

フィオナ様のいらっしゃるあたりが騒がしく、わたしは気になりました。

お嬢様様には呼びに来るまでここにいるように言って。

騒がしくしているところに行くと、フィオナ様が『聖女』の力を使いすぎてお倒れになったのです。

無理をなさったのでしょう。
浄化は大変なことなのです。

わたしも片付けに駆り出されました。

奥様がパニックになっていました。

以前、フィオナ様が襲われそうになってことがあったので、それ以来奥様はフィオナ様に対して過敏に反応するのでしょう。

奥様を落ち着かせたり、フィオナ様を馬車に乗せて急いで帰ったのです。


この時わたしは・・・、お嬢様のことを忘れていたのです。


帰ってしばらくして気づきました。
ですが、誰に言えば・・・。
奥様もカイン様もフィオナ様にかかりきり。

わたしは急いで執事さんにいいました。
彼も顔色を変え、手筈をとってくれるよう言ってくれました。

ですが、フィオナ様の熱が上がったことなどで、探しに行くはずの命令が伝わっていないことが、その2日後にわかったのです。

慌てました。
血の気がひきました。


知らない土地で、一人きり。
小さな子供が2日も生きていけるわけがありません。
瘴気の森なら尚更です。

捜索すると、一冊の本が落ちていたそうです。
お嬢様が読んでいらした本、でした。
ボロボロに、なっていました。

お嬢様は見つかりませんでした。
どこにも居ませんでした。

テイラーさんと執事さん以外涙を見せませんでした。





なんで、ですか?





誰も、
二人以外
誰も、悲しまないの、ですか?





わたしは、
わたしが、
お嬢様を殺しました。





わたしは、その時、知ったことがあります。




わたしは
お嬢様名前さえ知らなかった。

知ろうとしなかった・・・。





悔やんでも悔やみきれない・・・。






わたしは・・・、








首をつった・・・
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