【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)

文字の大きさ
上 下
3 / 16

3.とあるメイド

しおりを挟む
フィオナ様の『聖女』としての力は素晴らしいです。
幼いとはいえ、『聖女』として立派です。
多少の無理はいいます。
まだ子供ですから、仕方ありません。
そんな我儘でも、可愛らしいです。

それに引き換え、フィオナ様の双子のお姉様は、暗く、静かな子供でした。

噂ではフィオナ様を妬んで我儘放題といいます。
ですが、この旅行でフィオナ様付きを一時的に外れ、お世話がかりになったわたしには無理一つ言われませんでした。

無理を言わないとはいえ、フィオナ様付きだったわたしにとって、腹立たしいものでした。

お嬢様の世話なんて、とも思いました。
名誉であるフィオナ様から離れてしまうのですから。

でも、数日お世話をしていて、その意識がかわりました。

確かにフィオナ様を羨むように見ることがあります。
でも、それは仕方ないのではないでしょうか?

お嬢様のお世話をして知りましたが、旦那様や奥様との会話などまるでありません。
乳母である、テイラーさんと少しお話しするくらいです。
お兄様である、カイン様とは目を合わすこともありません。

お嬢様は透明人間のようでした。

だからフィオナ様の美しさがよけい引き立つのかもしれません。

旅行先では、お嬢様は街にも行けませんでした。

一人で留守番をされました。
『行きたい』と我儘を言うこともなく。

逆にわたしに行っていい、とおっしゃってくださいました。
小さな子に気遣われたのです。

わたしは街で買ったお菓子を渡すとお嬢様は嬉しそうでした。
笑いました。
はじめて食べるとおっしゃいました。
安いお菓子です。

屋敷では高級なお菓子を出すこともあります。
なぜ?と思いました。

そして、思い当たったのです。
お菓子はフィオナ様のためのものだったのだと。
お嬢様は食べたことないのだと。
もしかすると、お菓子自体初めて口にするのかもしれません。

なぜ、同じ姉妹なのに対応が違うのでしょう。
フィオナ様は『聖女』だから。
それだけの理由だったのです。




次の日、フィオナ様はご依頼の瘴気の浄化に森にいきました。

フィオナ様の集中の邪魔にならないよう、離れた場所でお嬢様はいました。持ってきた本を開き眺めています。
大人しく手のかからない方です。

フィオナ様のいらっしゃるあたりが騒がしく、わたしは気になりました。

お嬢様様には呼びに来るまでここにいるように言って。

騒がしくしているところに行くと、フィオナ様が『聖女』の力を使いすぎてお倒れになったのです。

無理をなさったのでしょう。
浄化は大変なことなのです。

わたしも片付けに駆り出されました。

奥様がパニックになっていました。

以前、フィオナ様が襲われそうになってことがあったので、それ以来奥様はフィオナ様に対して過敏に反応するのでしょう。

奥様を落ち着かせたり、フィオナ様を馬車に乗せて急いで帰ったのです。


この時わたしは・・・、お嬢様のことを忘れていたのです。


帰ってしばらくして気づきました。
ですが、誰に言えば・・・。
奥様もカイン様もフィオナ様にかかりきり。

わたしは急いで執事さんにいいました。
彼も顔色を変え、手筈をとってくれるよう言ってくれました。

ですが、フィオナ様の熱が上がったことなどで、探しに行くはずの命令が伝わっていないことが、その2日後にわかったのです。

慌てました。
血の気がひきました。


知らない土地で、一人きり。
小さな子供が2日も生きていけるわけがありません。
瘴気の森なら尚更です。

捜索すると、一冊の本が落ちていたそうです。
お嬢様が読んでいらした本、でした。
ボロボロに、なっていました。

お嬢様は見つかりませんでした。
どこにも居ませんでした。

テイラーさんと執事さん以外涙を見せませんでした。





なんで、ですか?





誰も、
二人以外
誰も、悲しまないの、ですか?





わたしは、
わたしが、
お嬢様を殺しました。





わたしは、その時、知ったことがあります。




わたしは
お嬢様名前さえ知らなかった。

知ろうとしなかった・・・。





悔やんでも悔やみきれない・・・。






わたしは・・・、








首をつった・・・
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします

東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。 その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており… さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...