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70.ケティ視点

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 鏡に映るわたしは不気味に見えた。
 自慢の一つであった美しい長い髪は肩までになり、顔には包帯が巻かれている。
 わたしはゆっくりとそれをとったー。



 わたしはいい条件の男を探していただけだ。
 なぜなら、この国では結婚をすれば女性にとって全ての人生が決まるのだから。家庭にはいり、どんなことがあっても妻は夫を支える。家庭で贅沢できるかどうかは夫の力量次第。
 自由気ままに生活したいなら地位が高いか、才能ある男を捕まえなくてはならない。

 だからこそ、婚約者という縛りがない今ならこの身体を武器にしようとしたのだ。
 自分の豊満なスタイルはどんな男も目を奪う。魅了するのがわかっていたからこそ、自分を磨いてアピールすることを惜しまない。
 よりいい物件を選びたくて必死になった。

 だが、結果はどうだ。
 今のわたしは婚約者のいる男を色仕掛けで落とそうとして、相手の女から痛いしっぺ返しにあった。

 密会していたのが見つかり、逆上した女にナイフで顔を傷つけられた。
 鬼気迫る彼女の顔を思い返すだけで身震いしてしまう。
 話し合いでもよかっただろうに・・・と思うものの、あの時はそれどころではなかった。
 泣き喚く女の愛憎を垣間見た驚きと顔を怪我したことへのショックで茫然としていた。
 

 包帯をとると醜い自分が鏡に現れる。やっと傷は塞がったが頬にはケルロイドになった醜い痕が残っていた。
 そのことが受け入れがたく、鏡台の上にあった香水の瓶を鏡に投げつける。

 鏡は割れ、香水の瓶も砕け中身があたりに溢れた。

 強い匂いが部屋中に広がる。

 こんなことになったことへの恨み、傷をつけた女への憎しみ、美貌を失った絶望、両親がわたしの心配をするではなく自分らの老後を心配したことへの悲しさ、見舞いに来た友人達の侮蔑の眼差しを向けてきた悲しさ。

 様々な感情がわたしの中で渦巻、気分を落とさせた。

 なぜ。わたしがこんなことになったのだろう・・・。
 これからどうすればよいのかわからない。

 ふと、思い出したのは「氷の女」と呼ばれていた銀髪の女のことだった。
 傷自体は見たことはなかったが、ずっと顔を隠していた。だから、「醜い」などと言っていたのだ。あの時はそう思っていた。

 彼女は何を感じていたのだろ。

 わたしは今・・・悲しい・・・苦しい。彼女もきっと・・・。

 自分が言った言葉が今まさに跳ね返ってきている。同じ言葉を言う方から言われる方になったことになってやっと気がついたのだ。

 そして、彼女がこの国を出て行ったことがうらやましく思う。

 わたしも逃げたい・・・。

 こんなものを受け入れてくれる人がいるのだろうか?
 そんな場所があるのだろうか?
 
 彼女は今はどんな暮らしをしているの?

 
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