上 下
69 / 76

69.マルス視点

しおりを挟む
 国に帰ると父からは盛大に叱られ、しばらくの間、謹慎させられた。

 そして、やっと学園に行くことができたと思えば、誰からも声をかけられることがない。僕はいないもののように扱われた。

 ブライド・ホッチャー侯爵令息も素通りしていく。従妹のケティや今まで僕を囃し立ていた女たちも遠巻きに見てきては冷笑している。
 先生たちさえ態度が変わった。教育者とは思えない酷い言葉が飛んでくる。

 この様子にぞっとするものがあった。精神が壊れそうになる。

 だが、そんな時思うのがノエルのことだった。

 彼女もこんな中でいたのか?と。

 僕でさえ苦しいと思うのに、ノエルは一人で耐えていたのだ。なぜ、僕は助けてあげなかったのだろう。

 今ここで僕が逃げるのは違う、そう思えた。
 どんなに無視されようと、悪態をつかれようと、必死に食らいつく。

 だが、僕のせいで帝国から無理難題を突きつけられたことで、ほうぼうから僕は敵視されることにもなった。
 
 輸出入の税が増幅することになったのだ。そのため物価があがる。
 
 そんなに豊とは言えない我が国にとっては厳しいものだった。
 
 父からも見放され学園退学の危機まで陥る。
 そんな僕をロード先生が救ってくれた。

「君がノエルにしてきたことに対しては許せないが、変わろうと努力している人物を無碍にはできないからね」

 変わり者として有名な初老の男はニヤニヤと僕を見て笑う。

「君がどこまで変われるか観察するのも面白い」
 
 先生は家から追放された僕の身元引受人になってくれた。
 以前のノエルのようにロード先生自らが勉強を見てくれる。だが、その内容はきついものだった。

「なぜわからん?すでに習ったはずだぞ!?」
「えっと・・・」
「はあ、しかたない。まずはここまでの本を読んで、まとめて貰おうか」

 僕に恨みを込めてやっているのだろうかと思いギロリと睨んでやると、逆に先生は冷めた目で見てくる。

「言っとくが、これは序の口だぞ。比べるわけではないがノエルはこの2倍のペースでこなした上、研究をしていたからな」
「えっ・・・」 

 これがー?

「今やっているのは基礎の基礎だ。せめてそこはクリアして欲しかった。早く僕の役にたってくれ」
「はい・・・」

 なあなあで生きていた自分を目の当たりにした気分だ。

 頑張ると誓った手前、挫けてはいられず頑張った。
 誰にも成果が認められなくても、ロード先生だけは僕を見てくれる。

 2ヶ月ほど経ってやっと先生の研究の手伝いをするようになった。
 歴史書を一から読み込み当時の人々の生活をまとめるという気の長くなるような作業。  
 紙に水分を取られるカサカサになる左手とインクで汚れる右手。

 ロード先生に付き合わされる秘密の夜会。
 この数ヶ月でなんとなく先生のやりたいことが見えてきて、考えさせられる日々が続く。
 自分の価値観が変わっている気がする。
 

 そんな時、ケティが問題を起こしたという話が舞い込んできた。

 婚約者のいる男を誑かしたということで、相手の女から派手に痛い目に遭わされたらしかった。

 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...