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アーサー様が私を庇うように前に出た。
「失礼だが、ノエル嬢の知り合いか?」
「誰だお前は?邪魔するな。僕はノエルに用があるんだ」
マルス様は強気にアーサー様に突っかかる。
「ノエル嬢。彼は君の知り合いかい?」
「・・・元、婚約者です」
アーサー様は私をチラリとみながら聞いてきたので元を強調して答えた。だが、まさかマルス様に会うとは思っていなかったため怖くて声が普通に出せない。
そんな私を察してくれたのか、わずかに後退して近づいてくれた。
「彼女は君とは話がないみたいだな」
「勝手なことを言う」
マルス様は苛立ちを現しながら手を伸ばしてくるのが見えて、思わずアーサー様の服の裾を掴んだ。
「彼女が怖がっているのがわからないのか?」
「ノ・・・エル?」
私の様子が心外だったか、マルス様は子供のように首を傾げてみせる。
「流石にここではなんだな。近くに知り合いの店がある。そこで話を聞こう」
「アーサー様・・・?」
「人が集まり出した」
アーサー様は騒がしくなった周りを見て呟いた。
気づけば、何事かとこちらをチラチラ見る人がいる。男女の痴情のもつれに見えたのだろう。
アーサー様は手をだし、私の震える手を握りしめてくれた。
そして歩き出す。
マルス様もその後を苦々しい表情でついてきた。
5分ほど歩くと、おしゃれなカフェにつく。見えるだけでも女性が多く見える。
少し意外な気がして、アーサー様を見上げると、彼は微笑んだ。
「エマの母親・・・叔母さんが運営している店の一つだよ」
そう言って、入り口を入ると店員が明るい声で挨拶する。
「いらっしゃいませ~。あら、アーサー様。だいぶご無沙汰してますぅ。お嬢様から連絡いただいてますよぉ」
「悪い、今はお前の茶化しには対応する暇はない。それより2階の部屋は空いてるか?」
「2階、ですか・・・?今は空いておりますが・・・」
「案内をたのむ」
「はぁい。ご案内いたします」
店員は状況を察したのか、2階に案内してくれた。
2階には区切られた部屋が3部屋あるように見える。だが、全て壁で仕切られているだけ。
その一室にはいる。
「ご注文はいかがしましょうか?」
このギスギスした雰囲気の中、店員はにこやかな表情を崩さない。
「ノエル嬢は何がいい?」
アーサー様はマルス様を目に入れることもせずに聞いてきた。
「えっと・・・」
「ホットティーだろ」
私が答えるより先にマルス様が言う。
「僕はノエル嬢に聞いているんだが?」
マルス様を見て冷たく言い放った後、私を振り返る。その顔はいつもの表情だ。
「・・・ホットミルクティー、をお願いします」
「僕はコーヒーを。あと、この季節はアップルパイがあったよな」
「はい。当店のおすすめです」
「ノエル嬢。お腹の空きはありそうかい?」
「あっ、・・・ごめんなさい」
無理だ。こんな時でなければ食べれたかもしれないが、今はお腹より胸がいっぱいで、食べる気分にもなれなかった。
アーサー様はこんな中でもいたって普通だ。
「じゃぁ、土産に3個・・・いやもう一人分お願いするよ。エマからも頼まれていたんだ。ここのアップルパイは絶品だから、ぜひノエル嬢にも食べてもらいたい。早めに用意を頼む」
「かしこまりました。そちらの方はいかがしましょうか?」
「ホットティーとそのアップルパイを・・・」
マルス様はこちらを睨んでいる。
店員がいなくなってから、マルス様は低い声でアーサー様に威嚇した。
「何者だ!ノエルのなんだ?」
ギリギリと歯軋りが聞こえてきそう。
「僕はロマニズ公爵家の次男、アーサー。君こそ名乗ってくれるか?」
公爵と聞いて、マルス様の表情が強張る。そうだろう。まさか、公爵家の人間が共をつけずに街中をあるいているのだから。
「ぼ・・・わたしはトルスター国、マルス・ダーリス伯爵子息、ですっ」
苦虫を潰したような声で答える。
「ふ~ん。で、ノエル嬢に何の用があるわけ?元婚約者であって、もう関わり合いはないんだろう?」
高圧な雰囲気に私まで怖くなりそうだった。
「あなたには関係ありません。ぼ・・・わたしとノエルの問題です」
「関係ない・・・か。確かにそうだな。だが、彼女とは同じ先生を支持しているから、兄弟子としては無関係ではない。しかも彼女の大の親友は僕の従妹。従妹にノエル嬢のことを任されている以上、彼女の問題は僕の問題になる」
それでいいの?
と思ってしまったが、アーサー様が味方になってくれるのであれば、怖くない・・・。
私は、マルス様を見据えた。
「失礼だが、ノエル嬢の知り合いか?」
「誰だお前は?邪魔するな。僕はノエルに用があるんだ」
マルス様は強気にアーサー様に突っかかる。
「ノエル嬢。彼は君の知り合いかい?」
「・・・元、婚約者です」
アーサー様は私をチラリとみながら聞いてきたので元を強調して答えた。だが、まさかマルス様に会うとは思っていなかったため怖くて声が普通に出せない。
そんな私を察してくれたのか、わずかに後退して近づいてくれた。
「彼女は君とは話がないみたいだな」
「勝手なことを言う」
マルス様は苛立ちを現しながら手を伸ばしてくるのが見えて、思わずアーサー様の服の裾を掴んだ。
「彼女が怖がっているのがわからないのか?」
「ノ・・・エル?」
私の様子が心外だったか、マルス様は子供のように首を傾げてみせる。
「流石にここではなんだな。近くに知り合いの店がある。そこで話を聞こう」
「アーサー様・・・?」
「人が集まり出した」
アーサー様は騒がしくなった周りを見て呟いた。
気づけば、何事かとこちらをチラチラ見る人がいる。男女の痴情のもつれに見えたのだろう。
アーサー様は手をだし、私の震える手を握りしめてくれた。
そして歩き出す。
マルス様もその後を苦々しい表情でついてきた。
5分ほど歩くと、おしゃれなカフェにつく。見えるだけでも女性が多く見える。
少し意外な気がして、アーサー様を見上げると、彼は微笑んだ。
「エマの母親・・・叔母さんが運営している店の一つだよ」
そう言って、入り口を入ると店員が明るい声で挨拶する。
「いらっしゃいませ~。あら、アーサー様。だいぶご無沙汰してますぅ。お嬢様から連絡いただいてますよぉ」
「悪い、今はお前の茶化しには対応する暇はない。それより2階の部屋は空いてるか?」
「2階、ですか・・・?今は空いておりますが・・・」
「案内をたのむ」
「はぁい。ご案内いたします」
店員は状況を察したのか、2階に案内してくれた。
2階には区切られた部屋が3部屋あるように見える。だが、全て壁で仕切られているだけ。
その一室にはいる。
「ご注文はいかがしましょうか?」
このギスギスした雰囲気の中、店員はにこやかな表情を崩さない。
「ノエル嬢は何がいい?」
アーサー様はマルス様を目に入れることもせずに聞いてきた。
「えっと・・・」
「ホットティーだろ」
私が答えるより先にマルス様が言う。
「僕はノエル嬢に聞いているんだが?」
マルス様を見て冷たく言い放った後、私を振り返る。その顔はいつもの表情だ。
「・・・ホットミルクティー、をお願いします」
「僕はコーヒーを。あと、この季節はアップルパイがあったよな」
「はい。当店のおすすめです」
「ノエル嬢。お腹の空きはありそうかい?」
「あっ、・・・ごめんなさい」
無理だ。こんな時でなければ食べれたかもしれないが、今はお腹より胸がいっぱいで、食べる気分にもなれなかった。
アーサー様はこんな中でもいたって普通だ。
「じゃぁ、土産に3個・・・いやもう一人分お願いするよ。エマからも頼まれていたんだ。ここのアップルパイは絶品だから、ぜひノエル嬢にも食べてもらいたい。早めに用意を頼む」
「かしこまりました。そちらの方はいかがしましょうか?」
「ホットティーとそのアップルパイを・・・」
マルス様はこちらを睨んでいる。
店員がいなくなってから、マルス様は低い声でアーサー様に威嚇した。
「何者だ!ノエルのなんだ?」
ギリギリと歯軋りが聞こえてきそう。
「僕はロマニズ公爵家の次男、アーサー。君こそ名乗ってくれるか?」
公爵と聞いて、マルス様の表情が強張る。そうだろう。まさか、公爵家の人間が共をつけずに街中をあるいているのだから。
「ぼ・・・わたしはトルスター国、マルス・ダーリス伯爵子息、ですっ」
苦虫を潰したような声で答える。
「ふ~ん。で、ノエル嬢に何の用があるわけ?元婚約者であって、もう関わり合いはないんだろう?」
高圧な雰囲気に私まで怖くなりそうだった。
「あなたには関係ありません。ぼ・・・わたしとノエルの問題です」
「関係ない・・・か。確かにそうだな。だが、彼女とは同じ先生を支持しているから、兄弟子としては無関係ではない。しかも彼女の大の親友は僕の従妹。従妹にノエル嬢のことを任されている以上、彼女の問題は僕の問題になる」
それでいいの?
と思ってしまったが、アーサー様が味方になってくれるのであれば、怖くない・・・。
私は、マルス様を見据えた。
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