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冬休みはあっという間に終わる。
最後は私の知恵熱という何とも言えない終わりだった。
しかもアーサー様の顔がまともに見れず、エマに泣きついてエルトニー伯爵家にお世話になってしまうという醜態付き。
思い出しただけでも恥ずかしい。
でも、それは昨日までの私。今の私は違う。
学園内を歩くたび、誰もが歩みを止め私を振り返ってくる。
「ノエル。顔を上げて背中を曲げないのよ」
エマのアドバイス通りに、私はまっすぐ前を向いて歩く。
私は、左目を隠すのをやめた。前髪を切り片眼鏡をかけ、傷を気にしないことにする。
熱が下がって、エマの母親に頼んで髪を切ってもらった。
ザクッという音と共に銀色の髪が落ちてゆくのを見て、心が軽くなった気がして、視界が色鮮やかに色づく。
怖い感情もあったが、どこか楽しみな自分がいた。
アーサー様に見てもらいたい。
似合うと言ってくれた、彼の顔が頭から離れなかった。
また言ってくれる?どんな顔をするかしら?
アーサー様には私の気持ちを伝えるのが怖くてできないが、それでもいい。彼の傍で研究できるのであれば、私は満足だ。
私は変わった。
だから、もうおどおどしない。
ぺったんこ靴だったのを踵5センチあるブーツにした。ほんの少し身長が高くしただけで景色も変わったように見える。
午前中の授業では、クラスメイトからひっきりなしに声をかけてもらえた。
知らない話題もあったし、話が弾んだ。
いつものようにエマとお昼を食べに行くと話をしたことない子が誘ってくれたので一緒に食事をする。
楽しくて笑っていると、口角が引きつって痛くなるのだと気づいて、また笑っていた。
そして、昼からアルバート先生の研究室へ行くと部屋の前で、一度息を吐く。
ゆっくりと空気を吸い込んで、扉を開けた。
「こんにちは」
「いらっしゃい・・・」
「きたか・・・」
二人は私を見て唖然とした表情で出迎えてくれる。
「ノエル・・・」
「どう?」
肩をすくめて聞いてみたい。
「前髪切ったんだね。スッキリして眼鏡が似合うね」
アルバート先生が微笑む横で、アーサー様は固まったままでいた。
「アーサー様?」
どうしたの?似合わない?
無言なことに不安になる。
だが彼は、名前を呼ぶとばっと視線を逸らし、手で顔を覆った。
「いや、その・・・、凄くいいと、思う」
思っていた反応と違っていたことが少し残念だったが、それでもいい。
今までが研究の話しかしてこなかったのだから、褒め言葉を求めるのは違う。
でも、こんな反応もありかもしれない。
俄然やる気が出てきた。
「冬休みも終わりましたし、また研究を始めましょうか。先生、続きの資料はどこですか?」
「あぁ、これだ」
「アーサー様もがんばりましょう」
「そうだな・・・」
変わらない毎日が始まる。
でも、もっと楽しくなるだろう。
私は資料を手に取り読み込み出した。
最後は私の知恵熱という何とも言えない終わりだった。
しかもアーサー様の顔がまともに見れず、エマに泣きついてエルトニー伯爵家にお世話になってしまうという醜態付き。
思い出しただけでも恥ずかしい。
でも、それは昨日までの私。今の私は違う。
学園内を歩くたび、誰もが歩みを止め私を振り返ってくる。
「ノエル。顔を上げて背中を曲げないのよ」
エマのアドバイス通りに、私はまっすぐ前を向いて歩く。
私は、左目を隠すのをやめた。前髪を切り片眼鏡をかけ、傷を気にしないことにする。
熱が下がって、エマの母親に頼んで髪を切ってもらった。
ザクッという音と共に銀色の髪が落ちてゆくのを見て、心が軽くなった気がして、視界が色鮮やかに色づく。
怖い感情もあったが、どこか楽しみな自分がいた。
アーサー様に見てもらいたい。
似合うと言ってくれた、彼の顔が頭から離れなかった。
また言ってくれる?どんな顔をするかしら?
アーサー様には私の気持ちを伝えるのが怖くてできないが、それでもいい。彼の傍で研究できるのであれば、私は満足だ。
私は変わった。
だから、もうおどおどしない。
ぺったんこ靴だったのを踵5センチあるブーツにした。ほんの少し身長が高くしただけで景色も変わったように見える。
午前中の授業では、クラスメイトからひっきりなしに声をかけてもらえた。
知らない話題もあったし、話が弾んだ。
いつものようにエマとお昼を食べに行くと話をしたことない子が誘ってくれたので一緒に食事をする。
楽しくて笑っていると、口角が引きつって痛くなるのだと気づいて、また笑っていた。
そして、昼からアルバート先生の研究室へ行くと部屋の前で、一度息を吐く。
ゆっくりと空気を吸い込んで、扉を開けた。
「こんにちは」
「いらっしゃい・・・」
「きたか・・・」
二人は私を見て唖然とした表情で出迎えてくれる。
「ノエル・・・」
「どう?」
肩をすくめて聞いてみたい。
「前髪切ったんだね。スッキリして眼鏡が似合うね」
アルバート先生が微笑む横で、アーサー様は固まったままでいた。
「アーサー様?」
どうしたの?似合わない?
無言なことに不安になる。
だが彼は、名前を呼ぶとばっと視線を逸らし、手で顔を覆った。
「いや、その・・・、凄くいいと、思う」
思っていた反応と違っていたことが少し残念だったが、それでもいい。
今までが研究の話しかしてこなかったのだから、褒め言葉を求めるのは違う。
でも、こんな反応もありかもしれない。
俄然やる気が出てきた。
「冬休みも終わりましたし、また研究を始めましょうか。先生、続きの資料はどこですか?」
「あぁ、これだ」
「アーサー様もがんばりましょう」
「そうだな・・・」
変わらない毎日が始まる。
でも、もっと楽しくなるだろう。
私は資料を手に取り読み込み出した。
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