【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)

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51.エマ視点

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 わたしたちがロマニズ公爵家に来て
から三日たって、アーサーの熱は引いた。

 その間、ノエルはずっとアーサーの手を握り看病していた。
 ノエルに休むように言っても、首を横に振るばかり。わたしにはそんなノエルを見守るしかできなかった。

 疲れてベッドの横で眠ってしまうノエルにメイドは毛布をかける。気づけばその毛布を誰がかけるかをメイドたちは競い合っていた。
 
「すごく尊いのですが!」
「アーサー様にあんなに尽くされて、もう、胸キュンですぅ」
「早くアーサー様目を覚さないのですかね?お二人の並んだ姿が見たいんですっ!!」

 メイドたちの癒しになっているようだ。
 母様もお姉様も、うっとりとしている。

 ノエルの様子を見に来ると、彼女は眠っていた。
 アーサーも眠っている。
 
 いつまで寝てんのよ早く目を覚ましなさいよ!いっそうのこと、殴ったら起きるのではなかろうか。

 そんなことを考えながらアーサーを見ていると、憎たらしいほどに長いまつ毛が動いて、目が開いた。
 そしてゆっくりと、わたしではなくノエルに視線を動かした。
 
「ノエル?」

 寝ぼけた声に息を吐く。

「エマ?なんで・・・ノエルが?」
 
 一応、わたしのことも見えていたか。

「アーサーが、風邪をひいて熱を出したって聞いて、心配したノエルが看病してたのよ」
「えっ・・・・・・?」

 目を大きくしてもう一度ノエルを見た。
 驚いた拍子に手に力が入ったのか、手を握っていたノエルが反応した。

「アーサー様・・・?・・・起きたの??」

 アーサーが目を覚ましたのに気づいたらノエルが声を上げる。

「よかった・・・」

 横からだからちゃんと見えなかったが、ノエルの表情が緩んだのがわかった。
 左目を隠している髪がゆれる。

「ノエル・・・」

 ノエルの手の中にあるアーサーの手がゆっくりと彼女の頬に触れた。

「人目を感じでくれないかしら?」

 居た堪れない。
 メイドたちは生唾を飲み込みながら、この行末を見守っている気配がする。
 が、これ以上は流石にダメだろう。

 わたしの注意に二人の手はパッとはなれ、背後からはメイドたちの舌打ちが聞こえてきた。

 アーサーの目が覚めたことはすぐに伝わったのか、30分もしないうちに医師がくる。叔父様や母様も集まり、医師の話を聞く。

「もう大丈夫でしょう。まだ、熱で体力が落ちていますから、しばらくは栄養のあるものをしっかり取って、無理はしないようにしてください」

 それを聞いてみんなほっとした。

「他の皆様も、まだ二、三日は様子をみてください。何事もなければ、普通の生活に戻れます」

 あと二、三日と聞いて、喜ぶものや、まだあと数日か・・・と嘆くものとそれぞれいる。

「先生。では」
「そうでしたな」

 お姉様が診察が終わった医師に声をかけた。

「ノエル。ちょっといい?」
「エマ?」
「何かあるのか?」
「アーサーにはあとで言うわ。だから、ノエルは借りるから」

 ノエルに用事があるので、アーサーに断りを入れる。

「おい!」
「アーサー。大人しくしろ!」

 叔父様がアーサーを宥める。

 わたしはノエルと一緒に部屋を出た。
 
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