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「落ち着いた?」
「ごめんなさい」

 謝る私にエマ様は舌をペロリとだした。

「ごめんね。わたしったら思たことをすぐに口に出しちゃうの。触られたくないこと聞いちゃったわね」
「違います。これは嬉しくて・・・」

 私はブンブン首を横に振った。そして説明する。

「はじめて・・・だったんです。これは小さい頃の怪我で一生残るって言われてて・・・、隠しても、みんなから汚いとか醜いと陰口を叩かれて・・・いたから、はじめてかっこいいって言ってもらえて、嬉しくて・・・それで・・・」
「汚い!何それ?」

 彼女は眉を吊り上げ起こり出した。

「かっこいいですよね!学園長。白い肌に青黒い色の傷。魅力的なシチュエーション!ゾワゾワしちゃうわ!!」

 両手で自分の身体を抱きしめ身をくねらす。

 あれ?何か違う?・・・というより動きが怖い。

 エマ様のうっとりした表情にすうっと、涙が引っ込む。
 学園長は淡々とした口調で言ってくる。

「ノエル嬢、気にしなくていい。エマ様はいつもこんなだ」
「失礼ですね」
 「ともかくだ。エマ、彼女のことを頼んだ。案内してあげてくれ」
「はあ~い」

 こうして、エマ様と共に学園長室を出た。

「さぁ、案内するわ。教室回って、食堂、実習室行って最後に叔父様・・・じゃなかった、アルバート博士の研究室に行くわね」

 私の前を歩くたびにエマ様のふわふわの髪が揺れ動き、私の手や顔をくすぐってくる。

「ごめんね。髪がまとまんないのよ」
「いえ、可愛くて羨ましいです」
「言ってくるわね。わたしは真っ直ぐな髪に憧れるわ。この髪なんて雨の日になると、1.5倍に広がって邪魔になるんだから!」

 変な人だけど面白い。こちらを振り返って手振り身振りで表現するので思わず笑ってしまった。エマ様はニヤリとしてくる。

「やっと笑ってくれたわね。敬語はなしでいいわよ」
「ですが・・・」

 流石に侯爵令嬢にタメ口はダメだろう。
 そんな気持ちを察したのか、屈託ない顔を見せた。

「あなた、礼儀に欠くような人じゃないでしょう。だから言ってるのよ」

 真剣な眼差しに咄嗟に言葉が出ない。
 一呼吸して、ゆっくり言う。

「・・・私は・・・トルスター国ではダメな人間で・・・会話も上手くないし・・・それでも・・・いい?」
「当然、構わないわ」

 バチンとウインクしてくる。令嬢らしからぬ行動にまた笑いが込み上げてきた。

 私たちを見ている周囲の人間たちが笑っている。これが、いつものことなのだろうか。

「本当に羨ましいなぁ。すごく綺麗な銀色だよね」
 
 私の髪を見ながら口を尖らせている。

「エマの色は帝国では珍しい茶色の髪と目よね?」
「そうなの。お母様がロマニズ公爵家出身なんだけどお父様がブルタニア国とのハーフになるからそっちに似ちゃったのよね。嫌いな色じゃないんだけど、時たま黒の中では汚く見えるんじゃないかなって思うのよね」
「落ち着いた色で好きよ。エマによく似合ってる」
「ふぇ?」

 エマはびっくりしたような顔を向けてきた。その顔が真っ赤に染まっている。

「なんだろ?ちょっと待って!!えっ?えっと・・・。すっごく恥ずかしいんだけど?」

 ワタワタしている彼女にもう一度言う。

「すごくエマに似合っていて可愛いし、私は好きだわ」

 エマは顔を覆い隠し、叫んだ。

「うわぁ~、さっきのノエルの感情が今わかった~!!」

 

 
 
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