上 下
26 / 76

26.

しおりを挟む
「落ち着いた?」
「ごめんなさい」

 謝る私にエマ様は舌をペロリとだした。

「ごめんね。わたしったら思たことをすぐに口に出しちゃうの。触られたくないこと聞いちゃったわね」
「違います。これは嬉しくて・・・」

 私はブンブン首を横に振った。そして説明する。

「はじめて・・・だったんです。これは小さい頃の怪我で一生残るって言われてて・・・、隠しても、みんなから汚いとか醜いと陰口を叩かれて・・・いたから、はじめてかっこいいって言ってもらえて、嬉しくて・・・それで・・・」
「汚い!何それ?」

 彼女は眉を吊り上げ起こり出した。

「かっこいいですよね!学園長。白い肌に青黒い色の傷。魅力的なシチュエーション!ゾワゾワしちゃうわ!!」

 両手で自分の身体を抱きしめ身をくねらす。

 あれ?何か違う?・・・というより動きが怖い。

 エマ様のうっとりした表情にすうっと、涙が引っ込む。
 学園長は淡々とした口調で言ってくる。

「ノエル嬢、気にしなくていい。エマ様はいつもこんなだ」
「失礼ですね」
 「ともかくだ。エマ、彼女のことを頼んだ。案内してあげてくれ」
「はあ~い」

 こうして、エマ様と共に学園長室を出た。

「さぁ、案内するわ。教室回って、食堂、実習室行って最後に叔父様・・・じゃなかった、アルバート博士の研究室に行くわね」

 私の前を歩くたびにエマ様のふわふわの髪が揺れ動き、私の手や顔をくすぐってくる。

「ごめんね。髪がまとまんないのよ」
「いえ、可愛くて羨ましいです」
「言ってくるわね。わたしは真っ直ぐな髪に憧れるわ。この髪なんて雨の日になると、1.5倍に広がって邪魔になるんだから!」

 変な人だけど面白い。こちらを振り返って手振り身振りで表現するので思わず笑ってしまった。エマ様はニヤリとしてくる。

「やっと笑ってくれたわね。敬語はなしでいいわよ」
「ですが・・・」

 流石に侯爵令嬢にタメ口はダメだろう。
 そんな気持ちを察したのか、屈託ない顔を見せた。

「あなた、礼儀に欠くような人じゃないでしょう。だから言ってるのよ」

 真剣な眼差しに咄嗟に言葉が出ない。
 一呼吸して、ゆっくり言う。

「・・・私は・・・トルスター国ではダメな人間で・・・会話も上手くないし・・・それでも・・・いい?」
「当然、構わないわ」

 バチンとウインクしてくる。令嬢らしからぬ行動にまた笑いが込み上げてきた。

 私たちを見ている周囲の人間たちが笑っている。これが、いつものことなのだろうか。

「本当に羨ましいなぁ。すごく綺麗な銀色だよね」
 
 私の髪を見ながら口を尖らせている。

「エマの色は帝国では珍しい茶色の髪と目よね?」
「そうなの。お母様がロマニズ公爵家出身なんだけどお父様がブルタニア国とのハーフになるからそっちに似ちゃったのよね。嫌いな色じゃないんだけど、時たま黒の中では汚く見えるんじゃないかなって思うのよね」
「落ち着いた色で好きよ。エマによく似合ってる」
「ふぇ?」

 エマはびっくりしたような顔を向けてきた。その顔が真っ赤に染まっている。

「なんだろ?ちょっと待って!!えっ?えっと・・・。すっごく恥ずかしいんだけど?」

 ワタワタしている彼女にもう一度言う。

「すごくエマに似合っていて可愛いし、私は好きだわ」

 エマは顔を覆い隠し、叫んだ。

「うわぁ~、さっきのノエルの感情が今わかった~!!」

 

 
 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...