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 留学の日程がとんとん拍子に進む。
 アルバート博士が一刻でも早くアルタス帝国に来てほしいと催促があったのだ。

 こうなると母に隠してはおれず正直に打ち明ける。すると、私の留学を知った母は烈火の如く怒り周りに当たり散らしはじめた。見かねた父が私の代わりに説得する。

 父にどう言われたのかわからないが、直接怒りをぶつけることはなくなったがでも母はことあるごとに私に向かってぶつぶつと小言を言い始めた。

「女の子なのよ。留学なんて野蛮だわ」

 爪を噛み睨みつけてくる。

「傷があるのに・・・。そんな汚いものを他の国でも晒すなんて、みっともない」

 私の心を抉ってゆく。

「屋敷から出したくないの。一生屋敷で暮らせばいいのよ。そうすれば誰からも見られやしないのに・・・。あんな傷・・・なんで・・・?わたくしの可愛いノエルはどこ?あんな醜い傷があるなんて・・・。許さない。それもこれも、あの男せいだわ。わたくしの大事なノエル・・・」

 母の心根が口から出るようになった。私の左目にある傷を認めたくないのか何度も言ってくる。
 それほどまで、これはいけないものなのか。消えることのないものをどうすればいい?
 母のなかでは私の存在は傷で決まっていたのだ。

 私のせいで母が病んでることを痛感する。

「彼女には静養が必要だな・・・」

 父が眉間をほぐしながらため息をついて言う。

「私が・・・いなくなれば少しは落ち着くのでは、ないですか?」

 父は悲しそうな表情をする。

「すまない。ずっと彼女に任せて仕事ばかりして放置してきた報いだな。辛い思いをさせたな・・・」
「私は・・・大丈夫です・・・。正直、お母様から離れることを喜んでいる自分がいます。学園に、行かなくていいことに安堵しています」

 留学準備ということで、学園は休んでいた。
 留学が決まってから、ますます陰口が酷くなっているのだ。

「絶対、裏工作したに違いない」
「金か?いくら積んだ!?」

 同じように論文を提出した人たちのやっかみを受ける。口汚い言葉を浴びせてきた。
 それを誰も止めもせず傍観している。
 
 ロード先生だけが味方だった。
 僻みを言う彼らに幾度も注意したが、誰も聞き入れてはもらえず、先生も諦める。

 だから、早めに学園を休学したのだ。

 数日後、私は留学先に向かうために馬車に乗った。
 ロード先生がわざわざ見送りにきてくれる。
 
「君は堂々としていればいい。そして向こうで成果をだして学園の奴らを見返してやれ。それとどんなことがあっても僕は君の味方だということは覚えといてくれよ」

 うししっ、と先生は笑った。
 きっと私のせいで何かと言われているはずなのに何もおくびにもださない。逆に私を力付けてくれようとする。

「君のおかげで僕も新しいことに挑戦する気にもなったよ」

 出会ったころより、目が爛々と輝いている。イタズラをする少年のように見えた。

「先生、いってきます」
「行っておいで」
「ノエル。手紙を待ってるからな」
「はい。お父様」

 こうして、私は帝国に向かったのだ。


 
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