13 / 76
13.
しおりを挟む
テストが無事に終わることができた。
彼が最終的に全ての教科を見てくれたおかげだといえる。しかもテストに出やすいところも教えてくれたのだから感謝しかない。
あとは、授業に出ていないのを補填するためのレポートと論文を先生に提出するだけである。こちらは大図書館とテスト勉強の合間に書き上げたものだが、それなりにまとめることができて満足していた。
職員室へ向かっていると、また声が聞こえてくる。
「テストだけ受けにきたんですって」
「いいご身分だこと」
「真面目に勉強しているのに毎日遊んでいるのよね?」
「それでテスト?できるの?」
「これでできるというなら不正ありきでしょう」
「まさかま先生に?」
「えぇー、あの顔で?」
「どれだけお金払っても無理でしょう」
「あはっ!確かに」
もしこれで悪意がないとすれば、どうなのであろう。
優しさを持ち合わせていない人間でしかない。
聞こえないふりをして足早に先生の元へ行った。
だが、先生も愛想もなく私をひと睨みする。この傷のせいで授業に出ていないのがサボっているようで気に入らないのだろう。
こうやってレポートと論文での補填も、外在学中は特待生だった上、現在では外交官として実績をあげようとしている兄が掛け合ってくれたからこそ認めてくれたことだ。
「あぁ、そこに置いといてくれ」
淡々と言われ入り口にある提出物入れの中に置くと、一礼して退出する。
身の置き場がなく、耐えるだけは辛かった。
すぐにでも大図書館に逃げたかった。彼の顔を見たら嫌な気分が吹き飛ぶかもしれない。母との約束で兄がいなければ行くことができない。
「マルス様~」
私の婚約者であるマルス様の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向いた。
声がする方を見れば、マルス様がいた。だがその隣にはマルス様の腕に絡むようにして歩く女性の姿。確か同じクラスで見かけたことがあった。
他にも男友達もいるが、二人は楽しそうに笑い合っている。それを見て胸が痛む。
私ではいけないんだー。
疎外感、劣等感・・・そんなものが渦巻く。
傷がなければ、私にも親友ができただろうか?
マルス様の隣で笑っていたのは私?
なんで、私が・・・。
今までにないほど傷があることが憎く思ったことはない。
自分にこんな感情があるとは思っていなかった。
じっと見ているマルス様は気づき、一瞬目が合ったあと、さっと顔を逸らした。
隣の女性はそれに不審を感じたのか、同じようにこちらを見てくる。
そして、不敵な笑みを見せた。
「あら?傷がある図々しい人がいるわ。よくそんな顔を晒すこと。女性は顔が命よね~」
彼女は最後を強調してきた。
何も言わないマルス様。
この傷をつけられたことを憎んだことはない。
でも、それをかばいもしない婚約者はどうなのだ?
マルス様はやはり、傷ひとつない女性が好きだということなのか。
私に笑いかけてくれたのは嘘だった?
この傷があるから仕方なく言っていたの?
彼は偽善者だ。
彼を解放してあげたい。そうすれば、こんな思いもしなくて済む。
過去の思い出が遠い出来事のように思えたてきた。マルス様に対する感情が冷めていくのがわかる。
私は帰るために踵を返した。
彼が最終的に全ての教科を見てくれたおかげだといえる。しかもテストに出やすいところも教えてくれたのだから感謝しかない。
あとは、授業に出ていないのを補填するためのレポートと論文を先生に提出するだけである。こちらは大図書館とテスト勉強の合間に書き上げたものだが、それなりにまとめることができて満足していた。
職員室へ向かっていると、また声が聞こえてくる。
「テストだけ受けにきたんですって」
「いいご身分だこと」
「真面目に勉強しているのに毎日遊んでいるのよね?」
「それでテスト?できるの?」
「これでできるというなら不正ありきでしょう」
「まさかま先生に?」
「えぇー、あの顔で?」
「どれだけお金払っても無理でしょう」
「あはっ!確かに」
もしこれで悪意がないとすれば、どうなのであろう。
優しさを持ち合わせていない人間でしかない。
聞こえないふりをして足早に先生の元へ行った。
だが、先生も愛想もなく私をひと睨みする。この傷のせいで授業に出ていないのがサボっているようで気に入らないのだろう。
こうやってレポートと論文での補填も、外在学中は特待生だった上、現在では外交官として実績をあげようとしている兄が掛け合ってくれたからこそ認めてくれたことだ。
「あぁ、そこに置いといてくれ」
淡々と言われ入り口にある提出物入れの中に置くと、一礼して退出する。
身の置き場がなく、耐えるだけは辛かった。
すぐにでも大図書館に逃げたかった。彼の顔を見たら嫌な気分が吹き飛ぶかもしれない。母との約束で兄がいなければ行くことができない。
「マルス様~」
私の婚約者であるマルス様の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向いた。
声がする方を見れば、マルス様がいた。だがその隣にはマルス様の腕に絡むようにして歩く女性の姿。確か同じクラスで見かけたことがあった。
他にも男友達もいるが、二人は楽しそうに笑い合っている。それを見て胸が痛む。
私ではいけないんだー。
疎外感、劣等感・・・そんなものが渦巻く。
傷がなければ、私にも親友ができただろうか?
マルス様の隣で笑っていたのは私?
なんで、私が・・・。
今までにないほど傷があることが憎く思ったことはない。
自分にこんな感情があるとは思っていなかった。
じっと見ているマルス様は気づき、一瞬目が合ったあと、さっと顔を逸らした。
隣の女性はそれに不審を感じたのか、同じようにこちらを見てくる。
そして、不敵な笑みを見せた。
「あら?傷がある図々しい人がいるわ。よくそんな顔を晒すこと。女性は顔が命よね~」
彼女は最後を強調してきた。
何も言わないマルス様。
この傷をつけられたことを憎んだことはない。
でも、それをかばいもしない婚約者はどうなのだ?
マルス様はやはり、傷ひとつない女性が好きだということなのか。
私に笑いかけてくれたのは嘘だった?
この傷があるから仕方なく言っていたの?
彼は偽善者だ。
彼を解放してあげたい。そうすれば、こんな思いもしなくて済む。
過去の思い出が遠い出来事のように思えたてきた。マルス様に対する感情が冷めていくのがわかる。
私は帰るために踵を返した。
576
お気に入りに追加
1,167
あなたにおすすめの小説
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる