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11.マルス視点
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学園の終わりにノエルの屋敷に赴く。
彼女は屋敷にいなかった。
帰る時間がわからないと言われたが、無理を言って待たせてもらう。
勝手知ったるノエルの部屋に行く。
柔らかな色合いの部屋。整頓され落ち着く空間。
そんな机の上には表紙から察するに恋愛小説らしき本が置いてあった。それと辞書だろう。どこかで見た覚えがあるが、このトルスター国の言語でない。
彼女はいつも難しそうなものを読んでいる。面白いのだろうか?
本を開いたが、読む気にもならないのですぐに閉じた。
他にも何か書きかけの紙束もある。
学園にもこずに遊んでいるのか?
そう思っていると、扉が開きノメルが入ってきた。
「マルス様?」
変わらないノエル。
僕を見た拍子に銀色の髪がさらりと揺れる。
「久しぶり、ノエル」
僕は近づき、彼女の頬に触れた。びくりと肩を震わせた。そんな彼女に謝る。
「この間はごめん」
「・・・・・・」
「避けるつもりはなかったんだ」
「・・・わかって、います・・・」
目を伏せながら小さい声が返ってきた。
僕は彼女の腰に手を添え、エスコートしてソファーに一緒に座る。
「わかってくれるんだね」
彼女の銀色の髪をすく。長い前髪を耳にかけてあげると左目の傷が現れる。醜い青黒い一本の筋。
この傷がなければ僕はこんな思いをしなかったのかもしれない。
傷跡にそっと触れると、彼女は身を捩った。触れられたくないのだろうか。
「マルス様」
「こんな傷がなければ・・・」
ノエルの表情が固まる。
違う!そんな顔をさせるつもりじゃなかった。
慌てて、話題をそらす。
「そういえば帰ってくるのが遅かったがどこに行ってたんだい?学園も休んでいるようだし」
少しだけ明るい顔に戻ったのでほっとする。
彼女はふわりと笑い答えた。
「大図書館に、・・・行っています」
「王立の?えっ?何しに?」
この屋敷の図書室にもたくさんの本があるというのにわざわざ大図書館に行く意味がわからない。調べ物をでもしている?
「読みたい・・・、本があるんです」
僕は首を傾げるしかない。
そんなに読みたいと思うほどの本が存在するのかもわからない。正直、僕は難しい本に興味はない。わからない用語をみるだけでうんざりしてくる。学園の授業だって必死にやってどうにかなっているのに、それ以上は無理だ。
「えっと・・・、刺繍のデザイン集とかかな?そんなのだったら、僕が贈ってあげるのに・・・」
「いえ・・・そうじゃなくて・・・」
「あっ!恋愛小説?机の上にもあったし。ノエルはあーいうのが好きなのかい?」
ノエルは首を振り、ためらいながらも小さな声で言う。
「民俗学や考古学・・・が、好きなんです」
その答えに唖然とする。
信じられない。ノエルが好きな本が民俗学や考古学?あんなものを知って価値があるのか??大概が歳のいったじいさんがやるようなものだろう!?ノエルには似合わない。
「ノエル。いずれ僕と結婚するんだよ。僕の傍でいてほしい。民俗学、考古学じゃなくて家庭を守るためのことを率先して学んでほしい」
ノエルの手を握り顔を見ても、彼女は僕を見ようとしない。
「ノエル」
優しく名前を呼んだ。彼女の頬に手を当てこちらを向いてもらう。不安そうな表情を見せてくる。
「君にはその傷があるんだよ。他の女性とは違う。ハンデがあるんだ。だからこそ君は僕の隣にあっても恥ずかしくないように自身をもっと磨かなければならないんだ。そんなくだらないものに現を抜かすのでなく、他にやらなければならないことが君にはあるだろう」
そう優しく諭した。
泣きそうになる彼女の左目にキスを落とす。
「僕だけだよ。君を幸せにできるのは・・・」
彼女を抱きしめた。
彼女は屋敷にいなかった。
帰る時間がわからないと言われたが、無理を言って待たせてもらう。
勝手知ったるノエルの部屋に行く。
柔らかな色合いの部屋。整頓され落ち着く空間。
そんな机の上には表紙から察するに恋愛小説らしき本が置いてあった。それと辞書だろう。どこかで見た覚えがあるが、このトルスター国の言語でない。
彼女はいつも難しそうなものを読んでいる。面白いのだろうか?
本を開いたが、読む気にもならないのですぐに閉じた。
他にも何か書きかけの紙束もある。
学園にもこずに遊んでいるのか?
そう思っていると、扉が開きノメルが入ってきた。
「マルス様?」
変わらないノエル。
僕を見た拍子に銀色の髪がさらりと揺れる。
「久しぶり、ノエル」
僕は近づき、彼女の頬に触れた。びくりと肩を震わせた。そんな彼女に謝る。
「この間はごめん」
「・・・・・・」
「避けるつもりはなかったんだ」
「・・・わかって、います・・・」
目を伏せながら小さい声が返ってきた。
僕は彼女の腰に手を添え、エスコートしてソファーに一緒に座る。
「わかってくれるんだね」
彼女の銀色の髪をすく。長い前髪を耳にかけてあげると左目の傷が現れる。醜い青黒い一本の筋。
この傷がなければ僕はこんな思いをしなかったのかもしれない。
傷跡にそっと触れると、彼女は身を捩った。触れられたくないのだろうか。
「マルス様」
「こんな傷がなければ・・・」
ノエルの表情が固まる。
違う!そんな顔をさせるつもりじゃなかった。
慌てて、話題をそらす。
「そういえば帰ってくるのが遅かったがどこに行ってたんだい?学園も休んでいるようだし」
少しだけ明るい顔に戻ったのでほっとする。
彼女はふわりと笑い答えた。
「大図書館に、・・・行っています」
「王立の?えっ?何しに?」
この屋敷の図書室にもたくさんの本があるというのにわざわざ大図書館に行く意味がわからない。調べ物をでもしている?
「読みたい・・・、本があるんです」
僕は首を傾げるしかない。
そんなに読みたいと思うほどの本が存在するのかもわからない。正直、僕は難しい本に興味はない。わからない用語をみるだけでうんざりしてくる。学園の授業だって必死にやってどうにかなっているのに、それ以上は無理だ。
「えっと・・・、刺繍のデザイン集とかかな?そんなのだったら、僕が贈ってあげるのに・・・」
「いえ・・・そうじゃなくて・・・」
「あっ!恋愛小説?机の上にもあったし。ノエルはあーいうのが好きなのかい?」
ノエルは首を振り、ためらいながらも小さな声で言う。
「民俗学や考古学・・・が、好きなんです」
その答えに唖然とする。
信じられない。ノエルが好きな本が民俗学や考古学?あんなものを知って価値があるのか??大概が歳のいったじいさんがやるようなものだろう!?ノエルには似合わない。
「ノエル。いずれ僕と結婚するんだよ。僕の傍でいてほしい。民俗学、考古学じゃなくて家庭を守るためのことを率先して学んでほしい」
ノエルの手を握り顔を見ても、彼女は僕を見ようとしない。
「ノエル」
優しく名前を呼んだ。彼女の頬に手を当てこちらを向いてもらう。不安そうな表情を見せてくる。
「君にはその傷があるんだよ。他の女性とは違う。ハンデがあるんだ。だからこそ君は僕の隣にあっても恥ずかしくないように自身をもっと磨かなければならないんだ。そんなくだらないものに現を抜かすのでなく、他にやらなければならないことが君にはあるだろう」
そう優しく諭した。
泣きそうになる彼女の左目にキスを落とす。
「僕だけだよ。君を幸せにできるのは・・・」
彼女を抱きしめた。
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