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10.マルス視点

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 僕にとって、ノエルは天使とも言える存在だ。
 憂いを含んだ顔は彼女をより一層綺麗に見せ、僕をときめかせる。

 僕にとって彼女の傷など些細なものである。
 でもノエルは傷があることを卑下しているのか外出も控えているので僕は度々彼女の屋敷に行く。
 
 一人でいる彼女を癒すのは僕の役目だった。特権とも言える。
 僕だけを見て、僕だけに甘えてくれ。
 僕なしでは生きていけなくなればいいのにと思ってしまう。

 それ程度に僕の大事な人。

 だが、彼女も学園にはいることになり、僕の心配は増す。他の男にノエルの美しさを知られたらどうしようかと不安に思った。だがそれは杞憂に終わる。

 彼らに婚約者はノエルだと口にすると、傷があるのは醜いと言った。いるだけで気分が悪くなると。

 貴族社会や親友というのも厄介なもの。
 学園では上下関係さえ気をつければ、他の貴族たちとも関われるまたとない機会だった。
 それが身分が高い者がいればなおさらで、彼らと付き合うになれば自分の意見を曲げなくてはならないこともでてくる。僕は忖度することを覚えた。
 
 だから、会話を合わせるしかない。

 そして、女性たち同じことを言う。

 彼女の美しい銀色の髪は学園では目立っている。人を惹きつける容姿に傷があるからこそのやっかみではなかろうか。

 彼女は前髪で傷を隠しているのではっきりとは見えないはずだ。うっすらと銀色の髪から透けて見えるくらい。
 きっと彼女らはノエルが美しいから妬んでいるんだ。僻みからくる言葉にしか僕には聞こえない。

 実際は僕が庇わなければならない。ノエルの婚約者は僕なのだから。
 だが、できないでいた。

「あんな醜い女が婚約者で可哀想だな」
「いくらでも綺麗な女はいるぞ」
「マルスもそう思うだろう?」

 隣で口々に言われれば頷くしかなくなる。

 そこに女たちも加わる。

「私にあんな傷があれば、恥ずかしくて屋敷から出れませんわ」
「よく生きていられるわよね」
「気持ち悪いわ~」
「マルス様がお可哀想~」

 僕は可哀想なのか・・・。
 彼女が醜い・・・?本当に?

 自分の価値観が変化してゆく。
 
 美しいと思っていたものに疑問が生まれる。何が正しいのかわからなくなり考えるようになった。

 そんななかやらかす。

 ノエルの差し伸べてきた手を振り払ってしまう。ノエルを拒否し、その場から逃げた。

 本当に友人たちが見ているから避けてしまったのか?それともノエルが醜いと思ったから触られたくなかったのか?

 あの時見せた彼女の表情に罪悪感がただよう。
 どうしよう・・・。
 でも、そんな顔も綺麗だと思う自分もいる。

 明日会った時に謝ろう。そう思いながら友人たちに誘われれば、そちらを優先し彼らと楽しい時間を、過ごしているうちにノエルのことを忘れていた。
 

 気づけばこの半月、ノエルの姿を学園内で見ていない。
 
 どうしたらいい。
 
 手紙を送っても返事は返ってこない。そんなことをはじめてだ。
 怒っているのだろうか?泣いているのだろうか?

 彼女を見たい。触れたいのに。

 周囲はノエルがいないことを気にしない。逆に「よかった」「あんか顔があるとなぁ~」と喜びの声が上げていた。
 そしてそれに同意する僕がいる。
 
 葛藤する。
 どっちを取るんだ!!と。
 
 自分の気持ちがわからない。
 どっちかを選ばないといけないのか?
 ノエルを取れば友人関係にヒビが入る。友人たちを取ればノエルが悲しむ。

 あーっ、面倒臭い。
 それならどっちも取ればいいんじゃないか?
 その方が楽だ。

 僕は友人たちと笑い合う。
 帰りにでもノエルの屋敷に行こう。
 そう思い、今日も楽しい学園生活を過ごした。
 
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