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 初めのうち、マルス様は庇ってくれた。独りぼっちにならないよう私に声をかけてくる。
 誰もいないところでは抱きしめてなぐさめてくれた。

 だが、日が経つごとにだんだんと声をかけてくれなくなる。近づいてもこなくなった。酷い言葉をかけられる私を遠巻きで見ているだけ。

 そして、とうとう今日は触ることを拒否された。

 わかっている。
 この醜い傷のせいだと。
 マルス様が悪いわけではない。

 入学からまだ一ヶ月とはいえ、彼は彼なりの世界ができたのだ。この学園で多数の親友ができ今、私が入り込む隙はない。

 ここで繋がりを作るのが大切なのは私もわかっている。
 私のせいでチャンスをふいにしてはいけない。

 でも・・・。

 この傷の原因はーー。

 この先は言ってはならない言葉だ。げんに私は彼を恨んではいない。

 責任をとってとは言わないが、それでも私の味方になって欲しかった。婚約者として護って欲しいと願ってしまう。
 あなたがいてくれたなら、それだけで私は強くなれるのに。

 ー傍にいて・・・・・・。

 それを伝えてしまえば、彼を縛りつけそうで言葉にできなかった。

 苦しくて、涙が溢れる。
 この思いをわかってほしい・・・。

 母の言葉に従えば楽だったのだろうか?
 あの狭い屋敷の中で閉じこもっていれば、こんな思いを感じなかったのかもしれない。


 集中ができず、読んでいた本を閉じ立ち上がった。

 本を元の場所に戻すと、カウンター横の出入り口に向かう。

「どうしたの?」

 学園内で唯一私のことを受け入れてくれている、司書の女先生が声をかけてくる。

「気分が優れなくて」
「確かに顔色が悪いわね。無理をせず帰りなさい。担任の先生には伝えておくから」
「ありがとうございます」 

 好意を素直に受け取り。私は帰るため馬車乗り場へと向かった。


 早めの、帰宅に母は驚く。
 毎日、何があったのかを聞いてくる。
 ありのままを語れば、また母は泣くだろう。叫びながら学園に乗り込むかも。そんな姿を見るのは辛くて、嘘をついてしまう。

「今日は先生の都合で授業が早めの終わりだったの」

 眉を寄せながら心配そうに見てくる母に向かって、嘘をついた。嘘をつく罪悪感を押し隠し無理やり笑って誤魔化す。

「本当に大丈夫?何かあったら言ってよ」
「大丈夫だから。お母様は心配性よ」
「そう??」 
 
 まだ心配してくる母を近くの侍女に任せて、自室に戻った。

 服を着替えると机の上に教科書を開く。

 私には予習復習は不可欠なものだった。私はあまり授業にでていない。そのため自分で勉強する。

 私が授業にでれば、ひそひそと会話が起こる。

「一緒の教室なんて最悪」
「へんな匂いしない?」

 雰囲気が悪くなり授業にならないため、先生から図書室での自習を勧められた。
 好都合と逃げ込み先にしたが、きちんとした授業を受けたのは指で数えられるほど。
 母を思うと何がなんでも自力でやり遂げるしかなかった。

 
 
 

 
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