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「国王陛下。これからは私たちがこの国を盛り上げて行きますわ」 

 側妃は国王の前に来た。
 アナスタシア様は凛とした方だった。聞いた話ではマザーと従姉妹に当たる方らしい。雰囲気が似ていた。


「お前らはわたしを裏切ったのか?」
「裏切るも何も、はじめから味方でもありませんでしたわ」
「なぜだ!」

 国王の叫びにアナスタシア様は嫌悪感を露わにした。汚いものでも見るように。

「なぜ?よくもまぁ、そんな事をおっしゃいますこと」
「アナ・・・」
「その名前を呼ばないでください」 
「あんた!側妃のクセに!!嫉妬かしら?」

 王妃が勝ち誇ったように叫んだ。この場でまだ悪態がつけるとは図太い神経をお持ちのようだ。

「醜いわね」
「なっ!?」
「こんな状況でまだそのような口がきけるとは大したものね。全てあなた方のした事が発端だというのに・・・」

 扇子で口元を隠しながら冷たい目で見下げる。

「素直に婚約解消を受け入れ、その馬鹿女と幸せになれば皆それなりには従いましたのよ。なのに、自分の優越感を得るためだけにエリザ様を陥れ、わたくしの従姉妹であるフィアナをも陥れた。そうなれば公爵家が黙っているわけはないでしょう?」
「それでも奴らは大人しくしていただろう。それはわたしが王になったから・・・」

 アナスタシア様は鼻で笑った。

「わたくしが側妃になると言ったからですわ」 
「はっ?」

 間抜けな国王の声。

「能力のおとるあなた方に何ができますの?ニコニコしているのが外交でも政治でもありませんわよ。知識や常識もいりますの。が外との繋がりを持っていたからやって来れていただけですわ。帝国と協力を結び貴方を潰すために今日までいたのです」

 リチャードさんが言葉を引き継ぐ。

「ずっと機会を待ちわびていました。どれだけ、貴方を殺したいと思う者たちを必死に抑えたか・・・。
 大事なものを護れずどんなにもどかしかったか・・・。貴方にはわかりますか?」
「わたしを殺す?」

 国王は『殺す』という言葉に反応する。
 一度も思ってことは無かったのだろうか?
 国王ならば、その覚悟もいるだろうに。
 自分は賢王とでも思っていたのだろうか?
 
「皆貴方を殺したくてたまらなかったのですよ。貴方は権力を得るためにその女に唆されて、自分の父親を毒をもって殺したというのに、自分は殺されないとでもお思いに?」
「リチャード!!」

 リチャードさんは何かを思い出したのか少し悲しそうだった。
 
 

「自分が情けない。自分の保身のために捨てることもできず権力に膝を折り、大事な者を捨てなければならなかった自分が忌々しい」
「違うでしょう。わたしがこの方の側にいて欲しいと願ったからでしょう。貴方はわたしと駆け落ちをしてもいいと言ったんだもの」

 マザーがリチャードさんの手を取り固くに決まり締める。

「フィアナ・・・。期待は裏切られた。なんの価値はなかったんだ」
「わかったでしょう?これが、あなたたちが選んだ答えよ」

 アナスタシア様が国王に向けてニコリと笑った。

 国王は何も言えずただうなだれるだけであった。

 
 そして、建国祭は終わった。
 
 大混乱にはならなかった。
 叔父様やリチャードさんが裏で手を回していたおかげで、何も知らなかった貴族たちにも現実をみせることができた。

 国王派の貴族たちは身分の剥奪。甘い汁を吸っていた者たちはその場で囚われることになった。

 母たちを陥れる為に動いた者たちも何らかの罰が与えられることになった。

 国王はそのまま北の塔に幽閉と行き、王妃は地下牢へと連れて行かれたのだった。


 それを横目にアナスタシア様とマザーは抱き合って再会を喜んだ。

 マザーはわたしをアナスタシア様に紹介してくれた。
 アナスタシア様は是非に『お義母様』と呼んで欲しいと言ってきて抱きしめてくれた。

 初めてある義弟は照れているようではにかみながら挨拶してくれた。嬉しい。

 そして、リチャードさんは、お父様やお祖父様、叔父様とはまた一味違った方だった。この中で一番まともな大人の人に見えた。

「区別が必要だよね。ダディでいいよ」

 と。

 もちろんカンカンになったお父様に怒られていた。
 それを、笑いながらするりと交わしていた。

 みんな、わたしを抱きしめてくれた。

 血で汚れてしまったわたしを。自分の服が汚れる事を気にすることなくー。

 

 後日、王妃は斬首になり、オブライド殿下は静かに埋葬されたことはあまり話題に出ることはなかった・・・。

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