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「わたしの母の名前はエリゼです。わたしは、八歳になる前に母の友人であるフィアナ様の孤児院へ行きました。手紙はその時のものです。わたしはこの目も髪の色も変えて学園に通っておりました。ですが、王太子殿下により無理やり王宮連れてこられ、必死に逃げ出した時に皇帝陛下に保護されました。
 そこで、母との少ない時間を過ごすことができました」

 重いほどの、静寂。
 

「姉?妹?
 なんで皇帝に?どう言う事ですか?父上?」 

 オブライド殿下が国王に詰め寄った。

 でも、国王は真っ青だった。

「・・・まさか?まさか、の?」

 小さな呟きだった。

 放心した表情で呟いている。

「父上?」
「陛下?あの時・・・、まさかあの時の?あの時あなたが?」

 不気味とも言える地を這うような声がさした。隣にいる王妃の声。
 顔は鬼の形相とも言えた。目をギラギラと見開き国王を見ている。怒りとも嫉妬とも取れる表情。

 ただ、聞き捨てならない言葉があった。

 二人は『あの時』と言った。
  
 王妃は知っている・・・?
 何があったのか?何が起こったのか?

「ほぅ、王妃も『あの時』とやらを知っているようだな?」

 ロイも気づいたようだ。

 口を滑らした事に気付いたのか口元を抑え王妃はきっと睨みつけてきた。

「なんのことかしら?」

 言葉が上擦っている。全身をワナワナ震えさせてー。

 お父様は国王を睨んだ。
 言いようのならない殺気。

「身に覚えはあるようだな」
「一度だ!たった一度の事で!」
「馬鹿ですの?女性を舐めないでもらえます?その一度でも子供は授かりますわ」

 マザーが進み出た。
 落ち着いた色のドレスを身に纏っている。
 初めて見たドレス姿に違和感をいだかない。着慣れた服を纏っているかのような自然な立ち振る舞い。

「フィアナ?なぜ君も?」

 マザーの存在に国王も王妃も驚いていた。

 マザーの目には軽蔑の光が宿っていた。



「避妊薬を持っていなかったのでしょう?地下牢で手籠にしたから」 
「それは!」
「貴方様の取り巻きが襲うはずだった。でも最後の最後で気がかわった?」

 国王は視線をそらした。
 図星なのだろう。

 やましいから目を逸らしたのだろう。

 苦々しく口を開く。

「そうだ。婚約解消をして帝国の皇弟に嫁ぐ?人を馬鹿にしているだろう!だから純潔を奪ったんだ。他の誰でもない。私が、だ。絶望に染まったの顔は見応えがあった。
 その一回でとは、どれだけ相性がいいんだ」

 嫌な笑い。
  
 母を冒涜しないで!
 母の名誉を傷つけないで!
 母の気持ちを壊さないで!

 わたしの隣でお父様の腕がピクリと動いたのが背後でわかった。

「お父様!!」
  
 振り向くとその腕に飛び込み抱きついた。

 どんなに国王より、身分が高いとはいえ暴力はいけない。
 そんな事で傷ついて欲しくない。
 その手はわたしを抱きしめる手でいて欲しい。その為だけの手でいてー。
 

 お父様はわたしを見ると、優しく微笑んで抱きしめてくれた。

 温かな手。

「ありがとう、セシリア」

 いつもの笑みを見せ、落ち着いた表情を取り戻す。

「そいつがお父様?私が本当の父親だ」

 さぁ、おいでと言わんばかりに手を差し伸ばしてくる。


 嫌。
 絶対に呼ばない。
 あなたはわたしにはない。

「わたしの父はこの方だけです。母を愛しわたしを受け入れてくれたお父様だけ。血のつながりが無くとも大事なわたしの家族です」
「セシリア」

 お父様は目尻を下げてわたしを見てくれた。
 

 
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