上 下
27 / 51

23.

しおりを挟む
 それからの母との時間は短いものだった。

 母は起き上がることもできずにベッドの上で毎日を過ごした。

 私はロイと花を買いに行く。
 である、ロイに気が引け、何度か遠慮をもうしでたが、「僕以外とは行かせせたくないから」と、付き添ってくれる。

 季節を先どりした花を腕いっぱいに買い込む。

 母には、寂しい思いをして欲しくなかった。
 楽しくいて欲しくて毎日毎日、母の側でいた。お父さんも同じらしく、部屋の外でロイと何かと話し込んでは、部屋に入ってくる。
 ロイもお父さんも、この屋敷に仕事場を設けたらしい。
 お父さんにいたっては、母の側に机を持ってきているのだからー。

 母とマザー、私とおしゃべりをしていると、仕事の手を止め、にこにこと笑っている。

「お仕事、してください」

 そう母にいわれると、お父さんは口を尖らせている。

「だって可愛いのに・・・」

 大きな子供みたい。
 少しだけ『お父さん』と呼ぶのを早まったのてはないかと思うこともあった。

「仕事をしている、かっこよさを見せてあげて、ください」

 母の一言で、やる気を見せるお父さん。

 笑う母。

 マザーと私も笑う。

 おじいちゃんとも話す。
 母の子供の頃の話を。

 私の知らない母が、そこにいた。
 生意気な事を言って大人を困らしたこと。
 木登りをしたこと・・・。

 私と変わらない少女が隣にいるように感じだ。自由に生きた明るい少女がー。

 そして、王太子妃教育の過酷さ。
 表情を出さないようにする術。外交交渉について。前王妃様からの教育のことを・・・。外部に知られてはいけない事のはず。
 政治的に裏切りにあたるのでは?・・・と聞けば、「そんなことを気にしなくても、壊れる時は簡単に壊れるものよ。こんな事で国が潰れるならそれまでのことね」と笑っていた。

 母は、あの国を見限ったのだろう。
 当然だが・・・。

 そのおかげで、私は救われたのだから今更なのではあるのだが・・・。

 母の話はとても楽しかった。

 だから、だからー、こんなに早いとは思わなかった。


 結婚式をして1ヶ月もしないうちに、母はお父さんの腕中で息を引き取った。

 最期に母は言った。

「わたくしを忘れてくださいね」
「何を言ってる。僕らは『永久の誓い』をしたんだ。君は『永久の妻』だよ。君の死後、僕が君以外の誰かを娶ろうものなら、神罰が下されるよ」
「マゼル様は・・・、本当に・・・」
「君を愛してるからね」
「貴方に最期に逢えて、幸せ、でしたわ。マゼル様、後はお願い、します」
「うん」

 母はこちらを見た。

「お父様、セシリアをお願いします」
「わかった。安心しろ。ひ孫ができるまでは死ぬ気はないからな」

 ふふふっと笑う。
 
「セシリア」
「・・・は、い・・・」
「ごめんなさいね。我儘な母親で。出来損ないの母親で」

 頭を振る。
 できそこないなんかじゃない。
 私のせいだ。
 私の所為なのだ。

 こいこいと手招く。
 母は、近づいた私の手を引っ張った。
 いきなりのことで、バランスを崩し母の胸に飛び込む形になった。 
 母は、私を抱きしめた。
 耳元で、囁かれる。

「生まれてきて、ありがとう・・・」

 ありがとう?
 本当に?

「あなたに会えたことを後悔していないわ。セシリア」
「かあ、さん・・・?」
「・・・セシリア、あし、てるわ」

 ゆっくりと目が閉じられた。

 息が、呼吸が止まる。
 腕の力が失われていく。

「かあさん!かあさんっ!!」

 涙が止まらなかった。

 ロイが後ろから抱きしめてくれた。

 私は泣いた。

 泣いた。

 誰もが泣いた。



 母は笑っていた。

 最期まで幸せそうに、笑っていたー。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!

水無月あん
恋愛
辺境伯の一人娘ライラは変わった能力がある。人についている邪気が黒い煙みたいに見えること。そして、それを取れること。しかも、花の種に生まれ変わらすことができること、という能力だ。 気軽に助けたせいで能力がばれ、仲良くなった王子様と、私のことが嫌いなのに婚約解消してくれない婚約者にはさまれてますが、私は花の種をもらえれば満足です! ゆるゆるっとした設定ですので、お気楽に楽しんでいただければ、ありがたいです。 ※ 番外編は現在連載中です。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~

有木珠乃
恋愛
ヘイゼル・ファンドーリナ公爵令嬢と王太子、クライド・ルク・セルモア殿下には好きな人がいた。 しかしヘイゼルには兄である公爵から、王太子の婚約者になるように言われていたため、叶わない。 クライドの方も、相手が平民であるため許されなかった。 同じ悩みを抱えた二人は契約婚約をして、問題を打開するために動くことにする。 晴れて婚約者となったヘイゼルは、クライドの計らいで想い人から護衛をしてもらえることに……。

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

処理中です...