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 悪戯というのはすごい。
 一度はやったことがあるからこそ、要領を得ている。次にやるべきことがスムーズに考えられて、行動に起こせる。

 孤児院のみんなと仲良くなってから、私もよく悪戯をするようになった。年上の子たちから教えてもらった。
 寝たふりをして、夜中に星空を見に行ったこともある。悪戯をしすぎて閉じ込められたことも。木登りもしたし、窓から抜け出す技も覚えた。
 解けにくい紐の結い方も、隠し物をしても見つけにくい場所も教えてもらった。勿論、下の子たちに教えてあげた。

 ゴテゴテしたスカート。
 着てきたものは全て捨てられた。
 クローゼットの中には、今着ているドレスと同じようなものしかない。
 スカート下のペチコートを脱ぎ捨て、ドレスの裾は歯で切り裂いて動きやすいように結ぶ。
 素足がでても気にしない。ぺたんこの室内用の靴を懐にいれる。

 ペチコートはベッドの下に適当に隠す。

 さて、行こう。

 バルコニーにでると、柵に先程作ったシーツの縄を結びつけた。
 そして、私はそれを伝って、器用に降りて行った。

 下の階に誰もいないことにほっとした。

 メイドに教えてもらった方角の夜空を見上げ、北極星ポーラスターを探した。
 
 あった・・・。

 私は靴を履くと北を目指し歩き始めた。


『王様の宮殿の北にはそれはそれは美しい庭があるの。曲がり道があっても、北極星ポーラスターを目指して歩くとやがて月に照らされた白く輝くガゼボが現れる。その向こうに小さな穴があって、そこをくぐれば、現実に帰ることができる』

 母の物語が耳元で聞こえてくる。
 ただの物語だと思っていた。
 違う。ここの事だ。
 何故、母はこんな秘密を語ったのか?
 こうなることがわかっていた?
 いや、違う。
 もう、ことはないと悟ったからこそ物語のように、私に語ったのだ。
 それが、今、役に立つとは・・・。


 私は母から聞いた庭を北に歩いた。薔薇が咲き誇る庭園。
 月光を浴びた薔薇は夜露を身につけて宝石のように輝いていた。

 垣根を曲がる。それでも、小さな星を頼りに北に進む。
 そうして、白いガゼボを見つけた。
 月に照らされたは、本当に綺麗な白色に輝いていた。
 幻想的に浮かび上がっているように見える。
 名残り惜しいがそれどころではない。

 ガゼボの奥へと行く。

 ガゼボの奥には、自分の身長を超す、葉っぱに覆われた壁がそびえていた。
 がないか手をで触りながら確認していく。すかり、と手が空を掴む。そこを開くと、葉っぱに隠れるようにして穴があることを発見した。

 躊躇うこともせずに頭を突っ込み、入っていった。
 
 それは数メーターはあろう穴になっていた。
 暗くて前も見えない。あまりの暗さに怖くなった。それでも手探りで前に這って進んで行った。膝も手もドレスも土で汚れていただろう。
 ネズミの声が穴の中でエコーをかけ響いた。
 あのいかれた王子殿下に比べれば、怖くない。
 あの場所王宮から逃げたい。

 必死だった。
 泣きたいのを我慢しながら前へ前へと進んだ。どのくらい長いのか。

 長さも時間の感覚さえわからなかった。
 きっと、そんなに距離はないはずだったが、長く感じた。

 外の光が見えた。

 もう少し・・・。
 
 穴から出ると、そこは王宮の外だった。
 
 振り返ると高い塀がある。
 それを見て、ほっとした。
 今更のように震えてくる。
 ガクガクしている膝を叩き、前を向く。

 ここからだ。
 逃げなくてはならない。
 出来るだけ、遠くに。
 姿を変えるべきかもしれない。
 これからが勝負なのだ。
 時間がない。
 朝までが勝負だ。

 私は気合いを入れ立ち上がると、歩き出した。
 
 その時、後ろから、口元を塞がれた。
 


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