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 イザベラ様たちの礼儀作法の勉強会は楽しかった。

 でも、それは長くは続かなかった。

 王子殿下が手を回してきたのだ。

 嫌がらせをしてきた。

 はじめはクラスの人から無視だった。今まで声を掛ければ返答はあった。だが、声をかけても無視をされるようになった。目どころか顔を背ける。

 それは、メリッサ様やユリア様たちも同様だった。
 私と関わったばかりに、お茶会や夜会に誘われないと言う事態になったのだ。

 私は泣きながら謝りにくる二人に申し訳なく思ってしまったほどだ。

 私は大丈夫。一人でいても大丈夫。
 だから、私を無視してくれるように言った。

 

 そして、イザベラ様も・・・。
 窮地に立たされた。
 根も葉もない噂が流れ始めたのだ。
 王子殿下の婚約者だからと、権力を使いやりたい放題しているとー。買い物三昧をしているとー。

 そんなことはしていない。
 誰もが知っているだろうに、それを鵜呑みにする人さえ現れた。

 イザベラ様はそれでも、私の側にいてくれようとした。だが、数日してイザベラ様は学園を休まれてしまった。

 街の商店を次第に利用できなくなった。親しくしてくれていた商店の方々が眉を寄せ、視線を落とす。
 妬みや怒りといったものではない。憐れみや、困惑、恐怖、そんな感情がこもった表情だった。

 脅されている・・・。
 
 それがわかった。

 私が迷惑をかけているのだと、実感した。

 次第に教室ではピリピリした雰囲気。
「お前が学園に来たからこうなったんだ」
「殿下にはむかったからだ!」
 そんな小さな声が聞こえてきた。

 怖かった。

 周りの目が憎しみに似た色になっていたのだ。

 私は孤立していた。

 担任の先生や学園長先生に相談しに行くと、顔色を悪くしたまま俯いていた。
 形だけとは言え、平等を謳う学園が権力に屈したのだ。

 
 大丈夫だと思っていた。
 大丈夫だと。学園内ぐらいは守られる、と。
 でも、もう大丈夫じゃない。

 気づくのが遅すぎた。逃げるタイミングを間違えたのだ。

 その場で学園退学の手続きをし、食堂のバイトをやめる事を伝えに行こうした途中の道で、王子殿下たちが待ち構えていた。

「そろそろ、僕と親しくしようよ」

 王子殿下が笑いかけてきた。

 もし彼に、王族という身分がなければ、急所を蹴り上げて、腹か頬に一発をいれているところだ。

 でも、できなかった。
 王子殿下の金色の瞳孔が怪しく光っているのを見ると身体がすくんだのだ。
 怖い、と思った。

 逃げたいのに逃げられない。
 まるで、蛇に睨まれたカエルになった気分だった。

 ここで、自分の正体を言えたなら・・・、間違いなく『死』が待っているのだろう。  
 心臓の音が耳元でしているかのように聞こえてきた。
 
「君が行っている食堂もやめて欲しいと言ってたよ。寮も退寮にから王宮においで」

「退学することにしました。私は孤児院にかえります」
「じゃあ、そこは潰そう。そうすれば帰る場所がなくなるかな?」

 笑いながら言ってくる。

「なっ・・・っ!!」
「君が僕の言う事を聞けばいいだけだよ」

 「嫌だ」と言いたい。なのに言えなかった。脅しに屈するしかない・・・。
 
「さあ、おいで」

 どうすることもできなかった。
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