11 / 51
10.
しおりを挟む
イザベラ様たちの礼儀作法の勉強会は楽しかった。
でも、それは長くは続かなかった。
王子殿下が手を回してきたのだ。
嫌がらせをしてきた。
はじめはクラスの人から無視だった。今まで声を掛ければ返答はあった。だが、声をかけても無視をされるようになった。目どころか顔を背ける。
それは、メリッサ様やユリア様たちも同様だった。
私と関わったばかりに、お茶会や夜会に誘われないと言う事態になったのだ。
私は泣きながら謝りにくる二人に申し訳なく思ってしまったほどだ。
私は大丈夫。一人でいても大丈夫。
だから、私を無視してくれるように言った。
そして、イザベラ様も・・・。
窮地に立たされた。
根も葉もない噂が流れ始めたのだ。
王子殿下の婚約者だからと、権力を使いやりたい放題しているとー。買い物三昧をしているとー。
そんなことはしていない。
誰もが知っているだろうに、それを鵜呑みにする人さえ現れた。
イザベラ様はそれでも、私の側にいてくれようとした。だが、数日してイザベラ様は学園を休まれてしまった。
街の商店を次第に利用できなくなった。親しくしてくれていた商店の方々が眉を寄せ、視線を落とす。
妬みや怒りといったものではない。憐れみや、困惑、恐怖、そんな感情がこもった表情だった。
脅されている・・・。
それがわかった。
私が迷惑をかけているのだと、実感した。
次第に教室ではピリピリした雰囲気。
「お前が学園に来たからこうなったんだ」
「殿下にはむかったからだ!」
そんな小さな声が聞こえてきた。
怖かった。
周りの目が憎しみに似た色になっていたのだ。
私は孤立していた。
担任の先生や学園長先生に相談しに行くと、顔色を悪くしたまま俯いていた。
形だけとは言え、平等を謳う学園が権力に屈したのだ。
大丈夫だと思っていた。
大丈夫だと。学園内ぐらいは守られる、と。
でも、もう大丈夫じゃない。
気づくのが遅すぎた。逃げるタイミングを間違えたのだ。
その場で学園退学の手続きをし、食堂のバイトをやめる事を伝えに行こうした途中の道で、王子殿下たちが待ち構えていた。
「そろそろ、僕と親しくしようよ」
王子殿下が笑いかけてきた。
もし彼に、王族という身分がなければ、急所を蹴り上げて、腹か頬に一発をいれているところだ。
でも、できなかった。
王子殿下の金色の瞳孔が怪しく光っているのを見ると身体がすくんだのだ。
怖い、と思った。
逃げたいのに逃げられない。
まるで、蛇に睨まれたカエルになった気分だった。
ここで、自分の正体を言えたなら・・・、間違いなく『死』が待っているのだろう。
心臓の音が耳元でしているかのように聞こえてきた。
「君が行っている食堂もやめて欲しいと言ってたよ。寮も退寮になったから王宮においで」
「退学することにしました。私は孤児院にかえります」
「じゃあ、そこは潰そう。そうすれば帰る場所がなくなるかな?」
笑いながら言ってくる。
「なっ・・・っ!!」
「君が僕の言う事を聞けばいいだけだよ」
「嫌だ」と言いたい。なのに言えなかった。脅しに屈するしかない・・・。
「さあ、おいで」
どうすることもできなかった。
でも、それは長くは続かなかった。
王子殿下が手を回してきたのだ。
嫌がらせをしてきた。
はじめはクラスの人から無視だった。今まで声を掛ければ返答はあった。だが、声をかけても無視をされるようになった。目どころか顔を背ける。
それは、メリッサ様やユリア様たちも同様だった。
私と関わったばかりに、お茶会や夜会に誘われないと言う事態になったのだ。
私は泣きながら謝りにくる二人に申し訳なく思ってしまったほどだ。
私は大丈夫。一人でいても大丈夫。
だから、私を無視してくれるように言った。
そして、イザベラ様も・・・。
窮地に立たされた。
根も葉もない噂が流れ始めたのだ。
王子殿下の婚約者だからと、権力を使いやりたい放題しているとー。買い物三昧をしているとー。
そんなことはしていない。
誰もが知っているだろうに、それを鵜呑みにする人さえ現れた。
イザベラ様はそれでも、私の側にいてくれようとした。だが、数日してイザベラ様は学園を休まれてしまった。
街の商店を次第に利用できなくなった。親しくしてくれていた商店の方々が眉を寄せ、視線を落とす。
妬みや怒りといったものではない。憐れみや、困惑、恐怖、そんな感情がこもった表情だった。
脅されている・・・。
それがわかった。
私が迷惑をかけているのだと、実感した。
次第に教室ではピリピリした雰囲気。
「お前が学園に来たからこうなったんだ」
「殿下にはむかったからだ!」
そんな小さな声が聞こえてきた。
怖かった。
周りの目が憎しみに似た色になっていたのだ。
私は孤立していた。
担任の先生や学園長先生に相談しに行くと、顔色を悪くしたまま俯いていた。
形だけとは言え、平等を謳う学園が権力に屈したのだ。
大丈夫だと思っていた。
大丈夫だと。学園内ぐらいは守られる、と。
でも、もう大丈夫じゃない。
気づくのが遅すぎた。逃げるタイミングを間違えたのだ。
その場で学園退学の手続きをし、食堂のバイトをやめる事を伝えに行こうした途中の道で、王子殿下たちが待ち構えていた。
「そろそろ、僕と親しくしようよ」
王子殿下が笑いかけてきた。
もし彼に、王族という身分がなければ、急所を蹴り上げて、腹か頬に一発をいれているところだ。
でも、できなかった。
王子殿下の金色の瞳孔が怪しく光っているのを見ると身体がすくんだのだ。
怖い、と思った。
逃げたいのに逃げられない。
まるで、蛇に睨まれたカエルになった気分だった。
ここで、自分の正体を言えたなら・・・、間違いなく『死』が待っているのだろう。
心臓の音が耳元でしているかのように聞こえてきた。
「君が行っている食堂もやめて欲しいと言ってたよ。寮も退寮になったから王宮においで」
「退学することにしました。私は孤児院にかえります」
「じゃあ、そこは潰そう。そうすれば帰る場所がなくなるかな?」
笑いながら言ってくる。
「なっ・・・っ!!」
「君が僕の言う事を聞けばいいだけだよ」
「嫌だ」と言いたい。なのに言えなかった。脅しに屈するしかない・・・。
「さあ、おいで」
どうすることもできなかった。
2
お気に入りに追加
925
あなたにおすすめの小説
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う
千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。
彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。
哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは?
【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
寝取られ予定のお飾り妻に転生しましたが、なぜか溺愛されています
あさひな
恋愛
☆感謝☆ホットランキング一位獲得!応援いただきましてありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
シングルマザーとして息子を育て上げた私だが、乙女ゲームをしている最中にベランダからの転落事故により異世界転生を果たす。
転生先は、たった今ゲームをしていたキャラクターの「エステル・スターク」男爵令嬢だったが……その配役はヒロインから寝取られるお飾り妻!?
しかもエステルは魔力を持たない『能無し』のため、家族から虐げられてきた幸薄モブ令嬢という、何とも不遇なキャラクターだった。
おまけに夫役の攻略対象者「クロード・ランブルグ」辺境伯様は、膨大な魔力を宿した『悪魔の瞳』を持つ、恐ろしいと噂される人物。
魔獣討伐という特殊任務のため、魔獣の返り血を浴びたその様相から『紅の閣下』と異名を持つ御方に、お見合い初日で結婚をすることになった。
離縁に備えて味方を作ろうと考えた私は、使用人達と仲良くなるためにクロード様の目を盗んで仕事を手伝うことに。前世の家事スキルと趣味の庭いじりスキルを披露すると、あっという間に使用人達と仲良くなることに成功!
……そこまでは良かったのだが、そのことがクロード様にバレてしまう。
でも、クロード様は怒る所か私に興味を持ち始め、離縁どころかその距離はどんどん縮まって行って……?
「エステル、貴女を愛している」
「今日も可愛いよ」
あれ? 私、お飾り妻で捨てられる予定じゃありませんでしたっけ?
乙女ゲームの配役から大きく変わる運命に翻弄されながらも、私は次第に溺愛してくるクロード様と恋に落ちてしまう。
そんな私に一通の手紙が届くが、その内容は散々エステルを虐めて来た妹『マーガレット』からのものだった。
忍び寄る毒家族とのしがらみを断ち切ろうと奮起するがーー。
※こちらの物語はざまぁ有りの展開ですが、ハピエン予定となっておりますので安心して読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします!
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる